01:異世界
「諸君らには異世界に行ってもらう。もちろん転移する特典を渡そう。最近は転移するにも特典を出せとうるさいからのぉ」
コンビニにいたら突然見知らぬ真っ白な空間にいた。
周りにはコンビニにいた従業員と客たちがいるのを見るにあの場にいた全員がここに連れてこられたのだろう。
ていうか、今日日異世界転移なんてくるとは思わなかった。
今は悪役令嬢とかスローライフ系しか見ないぞ。
異世界転移なんて廃れたものだと思っていたが人間の事情なんて関係ないか。
「神様特典! 何をくれるんだ!」
大人しそうな男が嬉しそうに姿なきやつに声をかける。
「うむ。お主らが望むものを与えよう。ただし素質がなければそれはできないが」
「ちょ、ちょっと待ってよ!」
露出が多い恰好をしている女性が声をあげた。
「あたしすぐに帰してほしいんだけど!」
「それはできない」
「なんで!?」
「諸君らに拒否権はない」
こいつが神かどうかは分からないが神からすれば言うことを聞かせることが当然ってことか。
「意味わかんない!」
「……ふぅ」
姿が見えないがその吐息だけで憐みやら呆れなどの感情が読み取れる。
「もうやめておいた方がいいわ。こんなことをする相手に何を言っても分を悪くするだけよ」
スーツを着こなす女性がそう言って止める。
その説得を受けて納得できていないが引き下がった女性。
「戻れないのは分かった。だがどうして俺たちなんだ?」
コンビニにいた従業員の男性がそう聞く。
「喜ぶといい。諸君らは選ばれた、これから向かう世界を救う勇者として!」
コッテコテだなー。説明するにしてももう少し凝ってほしかった。
「お、おー! 異世界の勇者! つ、ついに俺の時代が来たか!?」
最初に声をあげた男性がそう叫ぶ。
まあそうやって叫ぶやつは大抵大したことはないのがお約束だな。
「時間が惜しいからの。個別でしてもらう」
そう言われれば目の前に近未来的な半透明のパネルが現れる。
俺以外も自身の少し下を見ているが俺は彼らのパネルは見えないからプライベートは保護されているみたいだ。
パネルには攻撃性能、防御性能、速度性能、魔法性能、特殊性能と五種類の項目がありその項目に持っているポイントを割り振れみたいな感じになっている。
俺が持っているポイントはゼロがいっぱいあって数えるところから始まる。
……おぉ、一億ポイントある。桁区切りがないから分かりにくいなー。これが神(仮)が言っていた素質というものか。
まあとりあえず、異世界に行ってどうするかだよな。
元の世界では特に目標もなくフリーターをしていたから元の世界に未練はない。まあ両親に何も言えないのは申し訳ないとは思うが。
ぶっちゃけ言えば世界を救うとかも興味がないし従うつもりもない。
だからまー……まったりと過ごすか。適度に楽ができてその日暮らしができるのならそれで十分だし。
というわけで五項目の中で一番それに近い特殊性能に全部振り分けることにした。
特殊性能の隣には0があり0の左右には-と+があるから+を長押しすればどんどんと特殊性能が割り振られていく。
長押ししていれば段々とポイントが入る速度があがりすぐに終わるかと思ったが途中で止まった。
止まったのは八千万だった。
一千万とか五千万とかではなく八千万で止まるのか。よく分からんが、まあ余ったポイントは魔力にでも放り投げておこう。
それでパネルの右上にある決定を押せばそのパネルは消えた。
他の人を見ればまだ考え中らしいからポイント自体はみんな多いのかもしれない。
みんなを待って次に行くのかと思ったらまたパネルが出てきた。
『神をも超越する箱庭』
おぉ? なんだかかっこいい名前が出てきたな。これが神様特典というものなのか?
そのパネルの右上には転移という文字がありそれをすればおそらく転移することになるのだろう。
他の人と知り合いではないから特に待つことなく転移を押した。
転移の際に視界は真っ暗になったすぐに前が明るくなった。
思わず目を閉じてゆっくりと目を開ければそこは異世界アニメとかでよく見る中世ヨーロッパの街並みが広がっているように見えた。
「うわぁ……」
異世界アニメを見ていて俺はつくづく思っていたことがある。
文明レベルが低いところはあんなに綺麗なものかと。絶対に地球の昔はそんなに綺麗じゃなかっただろと思っていた。
そして今、俺のその疑問が解消された。
めっちゃ汚い。この街がそうなのかもしれないが……それでも異臭が気になるくらいにはやばい。
まあ異世界アニメはアニメだからな。そんなところまで再現されることはない。
でも俺が来た異世界は汚くて仕方がない。もう少し綺麗にしろと思うくらいには汚い。
やっぱり文明レベルって必要なんだな。文明レベルが低いと人のレベルも低くなるらしい。
早くこの街を出たいと思うくらいなんだが……そうだ、神様特典がどういうものか知りたいな。
「おっ、これか」
俺の能力の詳細が浮かんできた。
あの空間で教えてくれたらいいと思ったがすぐに分かったからどちらでも一緒のことか。
入り方は分かったし何ならどういう状況でもそこに行けるから少しだけ異世界を探索することにした。
早くここから出たいのは山々だが旅行に来た気分だからまだ耐えれていた。
ここがどこかは分からないが真ん中には大きなお城が見えるにどこかの国の都市なのだろう。
日本の城は何度も見たことがあるが西洋のお城は肉眼では見たことがなかったから感動はしている。
さすがにそこは象徴であるから立派には作っている。
それから都市の周りには高い壁があってこれも初めて見るものだった。
前の世界では見ることはないからな。
「……日本語、ではないよな」
もしかしたらこの国が日本語を話すのかもしれない。だがそう考えるよりももっと納得できる答えがある。
俺にどの言語も分かる能力が付与されていると思った方が納得できる。
「うわぁ……」
進めば進むほど色々な汚さが見えるから早々に立ち去ることにした。
もう吐きそうなくらいに気持ちが悪いから早くここから立ち去るために、俺はアンエクスプロード・ガーデンに移動した。
周りには何もないがどこまでも広がっている空間が俺の能力。
神をも超越する箱庭……言いにくいからチートな箱庭でいいか。
チートな箱庭は簡単に言えば何でもすることができる俺だけの空間。
無条件になんでもできるわけではないが、魔力があれば何でもすることができる。
試しに俺が住む家を目の前に建てようとする。そうすればパッと俺が知った俺の実家があった。
周りに何もなくて寂しい感じがするがそれでも中に入る。
最近ではあまり帰れてなかったから久しぶりに感じる実家。本当に俺の知っている家だ。
ただ俺が最後に見た時から変わっていないからおそらく俺の想像力で作られたものだろう。
それなら神をも超越していないだろ。……いや、俺が知っている家、しかも最後に見た時の家を思い出したからそうなったのではないか?
それなら俺が借りていたアパート、あれを家の隣に作り出した。
そして俺が借りていた二階の一室を見ればちゃんと同じ感じだった。だが今回見るのはその隣の女性が入っていた一室だ。
もちろん入ったことがないし挨拶くらいしかしない仲だから女性の趣味嗜好も一切知らない。
そんな女性の部屋に入ればぬいぐるみが至る所にあるぬいぐるみ好きな部屋だった。
「……よかった」
俺の想像ですべて決まるのならこの光景は分からないはずだ。
何なら引き出しの中を調べれば通帳やらもあったし女性の会社関連の資料も見つかった。
俺の想像の融合でこれらを作り出したにしてもこんなちゃんとしたものは想像できない。
ということはちゃんと俺が望んだとおりにできたということだ。
「ふーん……いいじゃないか」
めっちゃよくね?
ここで今流行りの異世界スローライフを決め込むにはもってこいだ。何せ邪魔者は一切いなくて思い通りの世界になる。
……えっ、天国か?




