12.姉side
犬も三日飼えば情が移る――――
ライアンと付き合い始めた頃の弟は、まさにそれだった。本人は全く気付いていなかったけど、家族や親戚達、ノアに近しい人ほど本人以上にその事に気付いていた。それ以上に理解していた。
ノアを射止めるためにはそれなりの時間が必要だと。
今の状況はノアがある程度妥協した結果に過ぎない事をよく分かっていた。
「こうなったのもある意味必然よね」
「母さん……」
「あら?何に驚いているの?ミラも同じような事を考えていたでしょう?」
言い返せない。
「でもね、ミラ。ノアの判断は正しいわ。どんなに無視されようと粘り強いライアン君と彼の強力な味方たちが相手なのよ?無駄な抵抗は止めて大人しく状況を受け入れた方が何かと安全ですものね。あれ以上拗らせたりしたらライアン君、そのうちノアを監禁してしまいそうだったもの。アレは危なかったわ」
のほほんと笑いながら紅茶を飲んでいる母を眺めながら当時を思い出す。
確かに狂気じみていた。
ノアが断るのが面倒になって付き合うのを了承しなかったら一体どうなっていた事やら。
「まぁ、愛情の温度差はあったけれどそれは仕方ないわね。だって、ノアは研究に時間が取れなくなることが嫌で恋人になったようなものですものね。妙な友情を感じたからこそ嫌悪感は湧かなかったみたいだけど。あの状況でノアを落とすなんて流石だわ」
うんうんと一人納得している母は置いておいて、実際はそうなのだ。
魔術学院の名物カップルとなっても尚、私には二人の仲はどうみてもライアンの一方通行だった。
そもそも弟は研究にしか興味が無かったし、恋愛などする暇があれば少しでも研究に没頭したいという性格である事は重々承知している。だから、私は二人が一緒に暮らすと聞いた時は少し心配したものだ。ライアンはああ見えて意外と寂しがり屋だから、弟が逃げないように必死になるだろうと思ってた。始終束縛してくるライアンにノアが嫌気をさして逃げ出すかと思っていたんだけど……世の中、分からないものだわ。
あの弟がライアンに惚れるなんて。
「それにしても……このクッキーとても美味しいわ!どこのお店かしら?」
先程までの会話がまるで無かったかのように話題を変える母を見て苦笑してしまう。
こういうところがノアとよく似ているのよね。
容姿もノアは母さん似の黒髪黒目の童顔。対して姉の私は父さん似の金髪碧眼。だから、初対面で姉弟と分かる人間はゼロ。
性格もノアは母さん似、というよりも母さんの実家似なんだよね。
母さんの実家は子爵家。
とにかく、ちょっと変わっている貴族で、貴族らしくない。どちらかというと学者肌。女はそうでもないけど男の殆どが変人鬼才のオンパレード。自室の研究室に籠って出てこないらしい。
母さんの父、私とノアの祖父なんか特に顕著で、妻子をほったらかしにして研究一筋。
しかもかなり自由奔放。よくもまぁ、祖母は祖父を見限らなかったものだと感心する。タコ糸の切れた凧みたいな祖父は見捨てられていてもおかしくないというのに。……それくらい研究に情熱を燃やしている一族なので、我が家も当然その影響を受けているわけ。主にノアが。
『ノアはお父様そっくり』
とは母さんの口癖のようなものだ。
だからという訳でもないけど、私と母さんがノアとライアンの交際を認めた理由の一旦はそこにある。ふわふわと世間ずれした弟をしっかりと繋ぎ止めてくれる相手が必要だったのだ。
まさか裏切られるとは夢にも思わなかったけどね。
ノアに男心について説教していた頃の自分が懐かしい。あれは何年前?もうすぐ四年経つんだっけ? はぁ、何とも言えない複雑な気分だわ。




