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そして野生児は碧眼の姫に出会い、彼女と瞳に恋をした  作者: 内村一樹
第7章 野生児と炎雪の魔王

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第86話 目には目を

「こうなってしまっては、厄介やっかいですね。仕方がありません、この私が直々《じきじき》に殺して差し上げましょう」

 そう言ったリューゲは、背中のつばさを大きく広げると、魔物のれのなかに居るガーディに目掛けて跳躍ちょうやくした。

 その様子を見た俺は、勢いよくけ出しながら、背後はいごの皆に声を掛ける。


「ペポ! サラマンダーを頼んだ! ロネリー! ヒュプノスを何とかしてくれ! ベックス、ケイブ! ノームを守ってくれ!!」

 完全に一方的いっぽうてきな指示を聞いて、皆がどう反応したのか確認できないまま、俺は魔物の合間をって駆け抜ける。


 怒りに任せて暴れているガーディに注目が集まっている分、多少は進みやすい。

 それでも、俺に気づいて襲い来るゴブリンやワイルドウルフを、岩の槍でさばき、なんとかガーディの近くにまで辿たどり着いた。


「ガーディ!! 上だ!!」

「遅い!!」

 俺が叫ぶと同時に、するどく告げたリューゲが頭上から急降下してくる。

 対するガーディは、俺の方に目を向けるでもなく、近くにいたゴブリンの頭を鷲掴わしづかみにした。


 直後、リューゲが握りしめた右の拳を振りかざし、ガーディに一撃を放つ。

 かと思いきや、ほぼ垂直に降下していたリューゲは、いつの間にか真横に吹き飛ばされ、魔物達の群れの中に姿を消してしまった。


 残ったのは、ズタボロになったゴブリンを放り捨てるガーディのみ。

 彼は手にしていたゴブリンを振り回すことで、リューゲを返り討ちにしてしまったらしい。

「とんでもないな……」


 リューゲが吹っ飛ばされたのを見て、恐れおののき始める魔物達。

 完全に戦意を失い始めている魔物達を押しのけ、ようやくガーディのそばに立った俺は、彼の顔をのぞき込んだ。


「ガーディ、無事か?」

「ダレン……」

 大きな2本の角と、燃えるように輝いている赤い髪、いつにもまして屈強くっきょうになった身体。

 見違えるほどに変化している彼は、いつもの少し寂し気な瞳で俺を見返してくる。


「オデ……オデ」

「ガーディ、サラマンダーは大丈夫だ。今頃、ペポが安全な所に運んでくれてるはずだ」

「ソウカ……ソウカ。なら、ヨカッタ」

「だな。でも、周りを見てくれ。まだ俺達を狙う敵がいっぱいいる。特に、リューゲとメデューサが危険だ」

「キケン?」

「勝つためには、橋を作ってるノームを守る必要があるんだ。だから、一旦いったん退こう」


 俺の言葉に、ガーディがうなずいて見せた瞬間、魔物の群れから歓声かんせいが上がった。

 その声の方を見た俺は、ゆっくりと歩いて来るリューゲを目の当たりにする。


「おやおや、どおりでノームの姿が無いと思っていましたが。そんなことをたくらんでいたのですね。まぁ、おかしな話ではありませんか」

「リューゲ、お前がガーディに何をしたのか分からねぇけど、礼を言っておくぞ」

「……いちいちしゃくさわるガキだ。まぁ良い。その得意げな顔も、これを見れば話が変わってくることでしょう」


 そう言ったリューゲは、ふところから例のうろこを取り出すと、俺達に見えるように掲げた。

「これが何か分かりますか?」

「……うろこ、だろ?」

うろこ。そうですね。ではこれが何のうろこなのか、もうすでに感づいているのではないでしょうか?」


 不敵な笑みを浮かべながら、そう告げたリューゲ。

 彼の笑みをにらみながら、俺は1つの可能性を思い浮かべた。

 思い当たるものなんて、1つしかない。

「……サラマンダーか」

「ご名答。それも、以前のサラマンダーから引きがしたうろこです。これがまた非常に有用な素材でして。我々としても重宝ちょうほうしているのですよ」

「どこまでも最悪な奴らだな。死者への冒涜ぼうとくだろ!」


 まるで馬鹿にするような口調で言うリューゲの態度に、苛立いらだった俺は、思わず声を荒げてしまう。

 そんな俺の様子を見たリューゲは、はて? と声を漏らしながら呟いた。

「死者への冒涜ぼうとく? 何を言っているのですか?」

「お前がさっき言っただろうが! 鱗をがしたって! いくら敵でも、そんなこと……」


 まだまだ言い足りないことが沢山ある。

 だけど、俺はそこで言葉を切らずにはいられなかった。

 そして、リューゲが笑い声を上げながら告げた言葉に、思わず耳を疑ってしまう。


「あぁ、そうだそうだ、死んでいるという話でしたねぇ! これは失礼、彼には少し前まで頑張ってもらっていたもので」

 ほうける俺を見て、更に楽しそうな表情をしたリューゲは、まるで追い打ちを掛けるように続ける。


「新しいサラマンダーも、ここの環境は身体にこたえているでしょう? それはなぜだと思います? 簡単です、約16年間もサラマンダーを監禁かんきんしていたのですから、我々としてもそれくらいの工夫を施すようになっているわけです。だってそうでしょう? 熱をため込めばため込むほど巨大化するトカゲに暴れられたら、こちらとしてもたまったものじゃありませんからねぇ」

「おい、何を言ってるんだ……それじゃ、まるで」

「考えている通りですよ、グスタフとサラマンダーは16年ほど、この地底監獄ジゴクで我々が管理していました。おかげでうろこも取り放題。ありがたい話ですよねぇ。あなたが私からくすねた銀のペンダント、あれもうろこから作っているのですよ?」


 驚きのあまり言葉を失った俺は、ポケットに入れっぱなしにしていた銀のペンダントを思い出していた。

 ロカ・アルボルで初めてリューゲと遭遇そうぐうした時、奴が落としたペンダントだ。

 確か、あかり代わりとして使ったはずだ。


 それが、サラマンダーのうろこから作られている。

 しかも、そのサラマンダーとグスタフは、16年前に死んだと思われていた時からずっと、ここに監禁かんきんされていただって?


 信じたくない。もしそれが本当だったら、その間ずっと、どんな目に合っていたのか、考えるだけで辛すぎる。

 だけど、俺達は確かに知っている。アパルがまだ生まれたばかりで、赤ん坊なんだってことを。


「彼にはもっと長生きしてほしかったですが、まぁ、死んでしまったものは仕方がありません。もう少し耐えると思ったんですがねぇ。流石に年を取った分、身体も弱くなってしまったのでしょうか? 気が付いたら動かなくなっていましたよ」

「……」

 言葉が出てこない。目の前で笑みを浮かべているこいつに、なんていえば良いのか、俺には分からなかった。

 その代わり、自然と両拳りょうこぶしに力を込めた俺は、やつにらみ付ける。


「ダレン、オデ、ガマンできない」

「あぁ、俺も同じだ。ガーディ」

 一旦いったん退く、なんて考えが頭の中から吹き飛び、2人して怒りに任せてリューゲに突っ込んでいこうとしたその時。


 不意に、部屋全体が激しく揺れた。

 大量の水に足元をすくわれたヒュプノスが盛大に転倒したらしい。

 そんなヒュプノスの脇には、立派な水の竜巻が出来上がっている。

 次第に勢いが弱まっていくその竜巻は、中に巻き込んでいた大量の魔物達を吐き出しながら、消えていった。


 すると、竜巻があった場所の中心に、見覚えのある人物が姿を現す。

 それは、ヘビの髪の毛を持ったメデューサ。

 彼女は、何かに驚いたように両手を顔に伸ばそうとした状態で固まっている。


 何が起きたのか。

 一瞬分からなかったところに、2人の声が聞こえてきた。


「残りはお前だけチ!!」

「お待たせしました!!」

 頭上を旋回せんかいするペポと、水を身にまとって走って来るロネリー。

 大量のゴブリン達を蹴散けちらしながらやって来た彼女達は、俺とガーディのそばに立つと、同じようにリューゲをにらみ付ける。


 対するリューゲは、打って変わってほうけた表情を浮かべたかと思うと、短く呟く。

「な、なにをした?」

 そんな問いかけに、ウンディーネとロネリーが答えたのだった。

「知らぬか? 水は己の姿を映すことができるのじゃよ」

「目には目を、です!」

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