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そして野生児は碧眼の姫に出会い、彼女と瞳に恋をした  作者: 内村一樹
第7章 野生児と炎雪の魔王

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第84話 イフリート

 岩をけずって作られたらしい通路を、俺達は走っている。

 案内は当然、ノームに任せているから、迷うことは無い。

 そんな俺達を見た人がいたとしたら、何故なぜ走るのかといきどおるかもしれない。

 魔王軍の居る監獄かんごくの中を走ったら、奴らに見つかってしまう、と。


 結論から言えば、既に見つかっている。

 だからこそ走っているわけだ。

 どうして見つかったのか、それを知りたい人は、サラマンダーの背中でグズッているアパルを見て欲しい。


「いつもは大人しいのに、どうしてこんな時だけ!!」

「文句を言っても仕方がないチ!! 今は逃げるチ!!」

「そもそも、こんなところに赤ん坊を連れて来る時点でおかしいゴブ!!」

「ごめんよぉ~、僕たちのせいで!!」


 ガーディに背負われているサラマンダーが、大声で謝罪を口にしたとき、少し先の床からノームが飛び出して来た。

「その先の角を左だ!!」

「ワカッタ!!」


 サラマンダーを背負ったまま返事をして、先頭を走るガーディ。

 彼の後を走る皆を、最後尾から追う俺は、跳び上がっていたノームを手掴みすると、頭の上に乗せる。


「おわっ、思ってたよりも大勢おおぜい追って来てるじゃねぇか」

「ノーム、後ろは良い、今は前に集中しろ!!」

「分かったぜ!」

「目的の場所まではあとどれくらいだ?」

「あともう少しだ、でも、この先にでっかい部屋があって、そこにヒュプノスが居やがる」

「本当か!? 無視して進めないのか?」

「できるならわざわざ言わねぇよ」


 ノームと言い合っている間に、通路の角にまで辿り着いた俺達は、迷うことなく左に曲がる。

 すると、ノームの言うように、広い部屋へと続くであろう巨大な扉が姿を現した。


「アタチが開けるチ!!」

 扉を目にした途端、勢いよく飛び立って加速したペポが、あっという間に扉の前まで到達すると、猛烈もうれつな風を起こして扉を開け放つ。

 そうして開かれた扉に飛び込んだ俺は、その部屋の広さに驚いてしまった。


 円柱形の部屋の、地底湖に面する壁には、沢山の窓がある。

 その窓のある壁が、さっき見えていた出っ張りの部分に違いない。

 ということは、その窓から湖の小島まで道をつなげれば、作戦通りなワケだけど。

 そこまで考えた俺は、部屋のなかに居る存在に目を向けた。


 既に俺達のことを聞いていたのか、臨戦態勢りんせんたいせいに入っている様子のヒュプノスが、部屋の真ん中にいる。

 それも、3体。


 そいつらを相手にしながら、通路からくる魔物達もさばきつつ、道を作れって言うのか?

「多すぎるだろ」

 思わず呟いてしまった俺は、ふと、3体居るヒュプノスの背後に目を向けた。


 てっきり、岩の壁があるのだと思っていた場所に、巨大な鉄格子のはめられたおりがある。

 と言うか、円柱型の部屋の内、3分の1が檻に囲まれた牢屋になっていた。


「デカい牢屋だな。何を入れてたんだよ」

 今はすっかり空になっているその牢屋を見て、そう呟いた俺は、直後、ヒュプノスの1体が動き出したのを見て取った。


「ダレンさん、急いで道を作ってください! 敵は私達で惹き付けますので!」

「分かった。みんな、頼んだぞ!!」

 ロネリーに急かされる形で、地底湖の見える窓の方に走った俺は、ノームを窓のふちに降ろす。


「どうだ? ここからあの島まで、どれくらいで道を作れる?」

「う~ん、数分ってところだな、良し、オイラに任せとけ! ダレン、お前は邪魔が入らないように、見張りしててくれよ!」

 そう言ったノームが床に姿を消すと、俺の立っている窓から小島に向かって道が伸び始める。

 流石に距離があるからか、道を伸ばすだけじゃなく、支えるための柱まで同時に作っているらしい。


「やっぱり頼りになるな、お前は」

 姿の見えないノームに聞こえないように、小声でそう呟いた俺は、床を軽く手で叩いて合図を送った。

 すると、示し合わせたかのように、床から槍が生えてくる。


「よし、俺はここを死守しながら、皆の補助に回るか」

 そう言いつつ、既に戦闘を始めている皆の様子に目を移した俺は、それほど助けが必要ではなさそうだと判断する。


 3体のヒュプノス達は、ロネリーとペポが繰り出す水と風の入り混じった竜巻で翻弄ほんろうされ、通路からやってくる魔物達は、ガーディとベックスとケイブが食い止めている。

 サラマンダーだけは、彼らから少し退いた場所で様子を伺いつつ、身体を休めているようだ。


「こりゃ、案外簡単に片付くんじゃないか?」

 俺が思わずそう呟いた瞬間、嫌な声が、部屋の奥の牢屋の暗がりから響いて来る。

「おやおや、随分ずいぶんと余裕みたいですね。それなら、もう少し難易度を上げて差し上げましょうか」

「それが良い。こいつらに痛い目を合わせてやりな!!」


 手に何かを持っているリューゲとメデューサが、そんなことを言いながら牢屋の暗がりから姿を現す。

「リューゲ! メデューサも!! みんな、気を付けろ!!」

「大丈夫です!! 私とウンディーネが居れば、石化も効きませんから!!」


 力強く叫ぶロネリーは、そう言うと、大きく広げていた両手を勢いよく左に振った。

 直後、ヒュプノスの足元に集中していた大量の水が、勢いよく左に動く。

 その力に押し負けたらしいヒュプノスの1体が、盛大にバランスを崩して、その場に倒れ込んだ。


 その隙を狙っていたかのように、ペポとシルフィがもう1体のヒュプノスに猛烈もうれつな風を放つ。

 風にあおられたヒュプノスは、足元に倒れていたヒュプノスにつまずき、そのまま牢屋の方に向かって倒れこんだ。


 鈍い音と共に、牢屋の鉄格子にぶつかったヒュプノスは、そのまま動かなくなる。

 そんなヒュプノスの脇を潜って、牢屋から出て来たメデューサが、まだ動ける様子のヒュプノスを呼んだ。


「おい、お前はまだ戦えるんだろ? こっちにおいで。仕方がないから、少し強化してやるよ」

「あのヘビ女、何かをするつもりチ!!」

「誰がヘビ女だい!? この鳥頭が!! 絶対に殺してやるからね!!」


 怒りながらも、呼び寄せたヒュプノスに向かって何かを投げたメデューサは、それがヒュプノスの口の中に入ったのを目にして、ニヤッと笑みを浮かべた。

 同時に、牢屋から勢いよく飛び出して来たリューゲが、ガーディ達の居る通路入り口付近に突っ込んでいく。


「ベックス!! リューゲの狙いはベックスだゴブゥ!!」

「ニゲロ!!」

「なに!? そんなこと……っ!?」


 休むことなく通路から突入して来ようとする魔物を撃退していたベックスに向かって突っ込んでいくリューゲ。

 そんな彼が、ケイブやガーディの声に驚き、振り返った直後。

 ベックスの目の前にリューゲが到達した。


 驚き、逃げ出そうとするベックスの頭を掴もうと、右手を勢いよく伸ばすリューゲ。

 咄嗟とっさに助けに向かおうとした俺は、しかし、あまりに速いそのスピードに間に合わないことを悟る。


 このままじゃ、ベックスがリューゲに捕まってしまう。

 そう思った俺が、一か八かと手にしていた槍を投げようと構えた時。

 リューゲの左手に向かって、赤い影が勢いよく跳びついて行ったのを目の当たりにする。


 何かを持っていたらしいリューゲの左手に食らいつくガーディ。

 これはさすがのリューゲでも不意打ちだったらしく、ベックスを掴み切れずに床を転がったリューゲは、手に食らいつくガーディを引きはがそうとする。


 が、一瞬いっしゅん藻掻もがいた直後、奴はガーディの姿を見て、ニヤッと笑った。

「おや? これは、別に引きはがす必要も無いのでは?」


 リューゲがそう言ったのとほぼ同時に、先ほど何かを口にしたヒュプノスが、強烈な咆哮ほうこうを上げた。

 筋骨きんこつ隆々(りゅうりゅう)なだけだったその姿も、いつの間にか赤黒いうろこおおわれている。


 全身から熱気を垂れ流すその姿を見て、少し前に見たガーディの変貌へんぼうを思い出した俺は、焦りと共にガーディに視線を戻す。

 すると、案の定。

 リューゲの手に食らいついていたガーディは、いつの間にか藻掻もがき苦しんでいる。

 そして、彼はまるで理性を失ったかのようにうなり始めた。


「これはこれは、まさかこのような所で貴重なイフリートを目にすることができるとは、さぁ、イフリート。この場にいる人間を全て殺してしまいなさい」

 そんなリューゲの言葉に呼応するように、咆哮したガーディは、鋭い視線を俺に投げかけて来たのだった。

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