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そして野生児は碧眼の姫に出会い、彼女と瞳に恋をした  作者: 内村一樹
第6章 野生児と頂の守り神

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第71話 頂の守り神

 救助者きゅうじょしゃをコロニーに連れていくため、一旦ユキコと別れた俺達は、坑道にとらわれていた数十人もの人々と共に、山を降りた。

 俺とノームが先導し、サラマンダーとペポ達が皆の寒さをやわらげ、ガーディが殿しんがりつとめる。


 追っ手が居ないとはいえ、そもそも雪の深い斜面を、長いこと囚われていた人々に歩かせるんだ。

 その行程こうていは、思っていた以上に厳しかった。

 特に、ガリガリに痩せてしまっている女性達が、途中で何度も倒れそうになって、ちょっとした騒ぎになる。


 それでも全員無事にコロニーにまで辿り着いた俺達は、その後も休む間もなく奔走ほんそうした。


 俺とノームが、雪の下に埋もれている岩を掘り起こすことで、簡易的な穴倉あなぐらを作る。

 その穴倉あなぐらの中に、ガーディとサラマンダーが暖をとれる場所を作り、ペポとシルフィが山のふもとまで飛んで食べ物を採って来る。


 そうこうしていると夜も更け、どっと押し寄せて来る疲れに負ける形で、俺達は眠りに落ちた。

 ここに来るまでで一番疲れた気がする。

 だからだろうか、目が醒めた時、俺は自分がどこにいるのか一瞬分からなかった。


 ただ1つ分かるのは、無性に暑いと言うことだけ。

「んん……暑いな……暑い? いや、熱い!!」


 頬に押し付けられている猛烈な熱さに、思わず飛び起きた俺は、その熱さの正体を知る。

「ん。ダレン、おはよう。ごめん、顔の上に尻尾を乗せちゃったみたいだね」

「サラマンダーか。びっくりした」

 一つため息を吐きながら、頬の辺りを撫でた俺は、少しヒリヒリと痛むのを我慢するため、すっくと立ちあがる。


 そうして、思い切り伸びをした俺は、周囲の様子を見渡す。

「そっか、穴の中で寝てたんだっけ」

「そろそろ起きる? だったら、ガーディを起こすけど」

「いや、まだ寝かせておいてやろう。昨日は大変だったろうし」

「分かった。あ、ダレン。もし、他の穴の様子を見に行くなら、うろこの熱が落ちてないか見ておいてくれる?」

「あぁ、分かった」


 サラマンダーの要望に頷いて答えた俺は、穴の奥にある岩の上で寝ているノームをつまみ上げる。

「おわっ!? なんだ!? 何が起きた?」

「朝だぞ。起きろ~」

「なんだ、ダレンかよ。オイラまだ寝てたいんだけど」

「そうか? まぁ、昨日は忙しかったもんな。分かった。それじゃあもう少し寝てていいぞ」

「お、珍しく優しいじゃねぇか。いつもオイラに対してそれくらい優しさと感謝を示してくれてもいいんだぜぇ?」

「いつも示してるけどなぁ」

「嘘つけ!!」


 いつも通りの会話を交わした俺は、彼を元の岩の上に降ろした。

 そして、穴の外に向かい、その眩しい光景に目を細めながら雪の中に一歩を踏み出す。

「だぁ~。今日も寒いなぁ。えっと、鱗の熱が落ちてないか調べるんだったよな」

 うろこって言うのは、文字通りサラマンダーのうろこのことで、そのまま置いておくだけでもある程度の熱源になるらしい。

 そのうろこを各穴にいくつか配ったことで、全員が夜を越せたってワケだ。


 つまり、うろこの熱が落ちてしまったら、暖をとれなくなってしまう。

 それを確認するため、昨日造った穴を一つ一つ見て回った俺は、皆が穏やかに眠っている姿を目の当たりにし、密かに胸を撫で下ろしていた。


 そうして、最後の穴の様子を覗き込んだ俺は、そこでペポが寝ていることに気が付く。

 凄く羨ましいことに、ペポと一緒に寝ることができた女性たちは、その柔らかな羽毛に包まれて幸せそうだ。


 俺も一緒に、彼女の翼の中で寝たかった。

 という願望をグッと飲み込んだ俺は、まだ眠っている彼女達に背を向け、空を見上げる。


 まだ陽が昇って間もないらしい。

 低く眩い日差しに目を細めた俺は、きびすを返して西を向き、聳えるカルト連峰の山頂を見上げる。


「あの先に……居るんだよな」

 誰にも聞かれていないことを確かめつつ、そう呟いた俺は、深く息を吐き出しながらこぶしを握り締めた。


 正直なことを言えば、俺はとてつもなく強烈な焦りを感じている。

 理由は簡単だ。あの坑道に囚われていた人々の様子が、あまりにも酷かったから。

 肉体的にも、精神的にも、かなりボロボロになってしまっていた彼らを見たからこそ、俺達は昨日、休む間を惜しんで奔走ほんそうした。


 だけど、俺達がしなくちゃいけないことは、別にある。

 この先にあるのは、俺達にしかできないこと。

 それを成し遂げない限り、何度でも、同じようなことが繰り返されるんだろう。


 今までにも何度か、俺達に課せられている事の重大さを感じて来たけど、今回は特に、心を抉られた気がする。

「待っててくれ、ロネリー」

「それが、想い人の名なのですね」

「なっ!?」


 誰も居ないと思ってぽつりとつぶいた俺は、後ろから聞こえて来た声に驚きつつ、勢いよく振り返った。

 すると、さも当たり前とでも言うように立っていたユキコが、ニコッと笑みを浮かべる。


「そんなに驚くことないではありませんか。ダレン様」

「いや、驚くって。本当にびっくりしたよ」

「ふふふっ。そうですか? それにしても、本当にそっくりで、私、胸が火照ほてってしまいそうです」

火照ほてったら溶けるだろ。それに、そっくりって……いや、そんなこと言ってる場合じゃない。どうしてここに居るんだ? 昨日は一緒に来れないって言ってたのに」

「伝えておきたいことがあったのですが、忘れていましたので」


 そう言った彼女は、ゆっくりと俺の元に歩み寄って来ると、そっと俺に何かを手渡してきた。

「これは?」

 渡されたのは、銀色の小さな指輪。

 細い鎖で首から掛けられるようになっている指輪を手にした俺に、ユキコが優しい目をしながら告げる。


「その指輪は、いつかあなたに返そうと思っていた物です」

「俺に返す? え? それってどういう」

「ふふふっ。それは内緒です。でも、大事にしてください。絶対に、肌身離さずに持っていてくださいまし」

「分かった……でも、そんな大事なもの、良かったのか?」

「はい。それは私にとって、とても大事な物です。けれど、本当に必要とするのは、私ではなく、あなた達だと思いますので」


 ユキコの言っていることが良く分からない。

 でも、嘘とか誤魔化しとか、そんな考えで言っているわけじゃないんだと、俺は直感した。

 きっと、本当に大事なものに違いない。


 そんな大事なものを失くすわけにはいかないので、俺はすぐにそれを首に掛け、服の中に押し込んだ。

 これで落としたりしないはず。


 そう、俺が心の中で納得していると、満足げにうなずいたユキコが口を開く。

「では、私がやるべきことは、残り1つですね」

 少し寂し気にそう言った彼女は、おもむろにカルト連峰の山頂を指さすと、俺に向けて告げる。


「今日の陽が頂に達するとき、私はあの頂上にてあなた達をお待ちしています。必ず来てくださいね」

「え? それは、山頂に来いってことか!?」

「はい」

「でも、あそこにはとてつもない化け物がいて」

「化け物などと仰ってはいけませぬよ。ダレン様。あそこにいらっしゃる方は、神と呼ばれる存在なのですから」

「……神?」


 唖然あぜんとしながら呟く俺に、ゆっくりと頷いて見せたユキコは、改めて山頂を見上げて告げたのだった。

いただきの守り神、ゲンブ様。あの方がいらっしゃるからこそ、今のこの世界は平穏を保てているのです」

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