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そして野生児は碧眼の姫に出会い、彼女と瞳に恋をした  作者: 内村一樹
第6章 野生児と頂の守り神

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第70話 とっておき

「身を焦がすような愛情だぁ? へっ。くだらねぇ」

 叫ぶユキコを見て冷静になったのか、イエティはそう呟くと嘲笑《ちょうしょう》した。


 対するユキコが、ムッと顔をしかめた時、いつの間にか彼女の隣に歩み寄っていたペポが、ヤレヤレといった感じで告げる。

「気にする必要はないチ。アイツはどう見ても、器の小さい男チ」

「そうですわね。ごめんなさい。私、少し取り乱してしまいました」

「バカにするのも大概《たいがい》にしろよ。オレ様をナメてかかると、痛い目に合うぜ?」


 脅《おど》し文句に合わせて身構えるイエティに対抗するべく、ペポ達の隣に歩み出た俺は、腕組みして言い放った。

「そんなことにはさせないさ。それに、痛い目を見るのはどっちかな?」

「おかしなことを言うじゃねぇか。てめぇらの攻撃がオレ様には通じねぇのを、さっき思い知っただろ?」


 全く退く気のない様子のイエティ。対する俺には、多くの援軍が付いている。

「アタチ達がいつ、本気を出したチ?」

「僕も、本気なんか出してないよ?」

「俺もだ。まぁ、あいにく、今の俺は本気を出せないんだけどな」

「負け惜しみか?」


 肩を竦《すく》めて見せる俺を嘲《あざけ》るように笑ったイエティは、その直後、坑道の方から聞こえて来た声を耳にして、表情を強張《こわば》らせた。

「いいや、ダレンは本当のことを言ってるぜ? なにせ、オイラが付いてないんだからな!!」

「っ!?」


 聞き覚えのあるノームの声が坑道の中から聞こえて来たかと思うと、その入り口を岩でできた柱が塞いでしまう。

 そして、柱の合間を縫うようにして、赤い髪を靡《なび》かせるガーディが飛び出して来た。

「オデもいるぞ!!」

「ノーム! ガーディ! やっと戻ってきたチ」

「悪いな、遅くなっちまった。でも、もう安心だぜ! 残りはここにいる奴らだけだからな!」


 ガーディと、彼の頭の上にいるノームは、多くの魔物達の背後を取る形で位置取っている。

 簡単に言えば、挟み撃ちってワケだ。


 完全に塞《ふさ》がれてしまった坑道の入り口を見て取ったイエティは、そのことにすぐ気が付いたらしく、声を荒げる。

「てめぇら、何をしやがった!?」

「何って、お前さんの逃げ道を塞いだんだよ」

「逃げ道? この俺様が逃げると思ってるのか?」

「逃げた方が良いと思いますよ? この私から、逃げ切れたらの話ですけれど」


 イエティとノームの会話に口を挟んだユキコは、両手に冷気を纏《まと》わせて身構えている。

 その様子を見たイエティは、フッと小さな笑みを口元に浮かべると、こぶしを握り締めて高らかに告げた。

「面白れぇ。全員ぶちのめしてやる」


 彼の言葉を合図とするように、俺達は一斉に動き出す。

「シルフィ、とっておきを見せるチ!!」

「あれかぁ~。あれって、疲れるんだよねぇ~」

「いいからやるチ!!」

「はいはい」

 やる気のない言葉を垂れ流しながらも、ペポの眼前に飛び出したシルフィは、身体を丸めて周囲の空気を吸い込み始めた。


 その様子を視界の端で見ながら、一気にガーディの元に走った俺は、妨害しようとするゴブリンを足場にして、跳び上がりながら叫びかける。

「俺達もいくぞ! ノーム!!」

「おうよ!!」

 直後、ガーディが頭の上に乗っていたノームを俺に向かって投げた。

 思い切り伸ばした右手で、ノームを掴んだ俺は、そのまま着地して踵《きびす》を返す。


「ガーディ!! 僕らは援護するんだ!!」

「ワカッタ!!」

 サラマンダーとガーディの声が響き、ガーディの赤い影がイエティの懐《ふところ》に潜り込んでいく。


 ガーディの接近を阻もうと両腕を振り回すイエティに向かって、盾を構えたまま突っ込んだ俺は、奴の腕を大きく上にはじき返した直後、地面を強く踏みしめた。

 すると、地面から4本の岩の柱が現れ、イエティの右足を拘束する。


「仕上げは私が!!」

 見計らったように聞こえたユキコの声に、思わず大きく後退した俺は、そこでシルフィの様子が大きく変わっていることに気が付いた。


 普段はノームと同じくらいの背格好のシルフィが、俺よりもはるかに大きく膨らんでいる。

 それでも周囲の空気を吸引することをやめない彼女の姿は、もはやイエティよりも大きくなりつつあった。


「この、程度で! オレ様を!! 止めれると……っ!?」

 俺達の妨害を打ち崩すことに専念していたらしいイエティが、ようやくシルフィの様子に気が付く。

 と、その時。シルフィの背後から勢いよく跳び上がったペポが、大声で叫んだ。


「今チ!!」

 と同時に、急降下したペポが、膨らんだ状態のシルフィを思い切り蹴飛ばしてしまう。

「ぐわぶふっ」


 蹴とばされたシルフィは、変な声と共にイエティの眼前に辿り着く。

 直後、一旦《いったん》、元の大きさまで縮んだ彼女は、大きく開けた口から真っ黒な球を吐き出した。


 激しく回転しているらしいその球は、少しずつ膨張し始めたかと思うと、強烈な音と共に破裂《はれつ》する。

 不思議なことに、破裂した衝撃はイエティのいる正面にだけ影響を与えた。


 空気と共に吸引されていたらしい大量の雪が、暴風に乗って、動けないイエティの身体にこびりつく。

 そんな氷の風が止む直前に、全身に冷気を纏《まと》っていたユキコが告げる。

「凍てつきなさい!!」

 彼女の掛け声は、空気を伝搬《でんぱん》し、イエティに纏《まと》わりついていた雪を一気に凍り付かせる。


 そして気が付けば、氷漬けのイエティの像が出来上がっていた。

「倒せた……みたいだな」

「そうだな。さすがのイエティも、氷漬けにされちゃあ、為《な》す術《すべ》無《な》しだろ」

 ピクリとも動かなくなったイエティの姿を見て、俺達は安堵《あんど》する。


「それにしても、ペポとシルフィのとっておき、すごかったね。ユキコさんの氷も綺麗だし」

「そ、そんなことないチ」

「嘘だぁ。大したことあるでしょ~。だって、ウチが頑張ったんだよ? もっと褒《ほ》めてもらわないと困るって」

「そんな理由で誇るなよ……なんていうか、シルフィらしいな」


 ペポの頭の上でぐったりとしているシルフィに、俺が呆れていると、ガーディが慌てた様子で声を掛けてきた。

「ダレン、ダレン! ミンナ、なかにイル! はやくタスケル!!」

「あ、そうだった。ダレン。坑道の中で捕まってた人を集めて、待っててもらってるんだ。オイラが案内するから、すぐにコロニーに連れ帰ってやろうぜ!!」

「あぁ、そうだな。色々あったし今日は救助した人たちをコロニーに帰した後、俺達も休んでいこう」

「それが良いチ。アタチ、かなり疲れたチ」

「僕も賛成だよ。ベックスとケイブも起きてないし、出発は明日で良いんじゃないかな?」


 皆の同意も得られたことだし、少し体を休めることが出来そうだと息を吐《つ》いた俺は、思い出したようにユキコに声を掛ける。

「ってワケだ、ユキコ、良かったら一緒に……」

「誘ってくれるのは嬉しいのですが、私は一緒に行くことはできません」


 本当に残念そうに告げるユキコに、歩み寄りながら声を掛けたのはサラマンダーだ。

「そうなの? 僕、もっとユキコさんと話してみたかったなぁ」

「あ、あの……ごめんなさい。これが理由ってわけじゃないのですが、あまりあなたに近づかれると、私、溶けてしまいますの」

「あ! そ、そっか、ごめん」


 残念そうに言うサラマンダーを、キョトンとした顔で見つめるガーディ。

 そんな彼は、俺に視線を移した後、首を傾げながら言った。

「ダレン、このオンナ、ダレだ?」

「おぉ、オイラも聞こうと思ってたぜ! 首に巻き付いてるのは、あのキツネだよな?」


 2人の反応を見て、ハッとした俺は、苦笑いを浮かべる。

「あぁ、そっか、ガーディとノームは知らないよな。彼女はユキコ。雪の精? らしい。イエティと戦ってた時に助けてくれたんだ。で、実はあの時、俺達を助けてくれた6人の白い奴が、彼女なんだよ」

「は? え? あの白い奴らが!? どうなってんだよ!?」


 驚くノームを見て、俺は笑う。

 すると、同じく笑みを浮かべて見せたユキコが、なぜか切なそうに告げたのだった。

「女は色々な顔を持ち合わせているものです。きっと、あなた方も近い内に知ることになると思います」

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