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そして野生児は碧眼の姫に出会い、彼女と瞳に恋をした  作者: 内村一樹
第6章 野生児と頂の守り神

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第69話 身を焦がす

「どけぇ!!」

 突如とつじょ現れた女性に気が付いたのか、叫びながらタックルを仕掛けたイエティ。

 しかし、彼の攻撃は彼女を取り巻くように現れた大量の雪によって、はばまれた。


 まるで、濁流だくりゅうに飲まれていくように、雪の流れに沈んでゆくイエティ。

 完全に沈む前に、何かを叫んだように聞こえたけど、もうすっかり気配が消えてしまった。

 その様子を見て、思わず「すげぇ」と呟いた俺に、ふっと笑みを見せた女性は、口元を手で隠しながら歩み寄ってくる。


「お怪我けがはございませぬか? ダレン様?」

「え? あぁ、うん。怪我はしてない。助けてくれてありがとう。ところで、どうして俺の名前を?」

わたくしのことが分かりませぬか? それはなんとも、さみしゅうございます」

「え、あ、いや、それは……」


 白い吐息と共に視線を落とす女性の様子に、俺は動揺どうようしてしまう。

 なんていうか、彼女の持つ雰囲気はどことなくロネリーに似ている気がした。

 はかなげで、か弱そうに見えるけれど、とても強い女性。

 見た目は全然違うんだけどなぁ。


 そう思いながら、俺は改めて女性の姿を観察する。

 身にまとっている衣服は、俺が見たことのない物で、すごく上品な印象を受ける。

 肌は白く、長くてつやのある黒髪は、大人の女性を感じさせる。

 その端正たんせいな顔つきで見つめられたら、なんか鼓動が速くなるなぁ。なんて考えていた俺は、女性と目が合っていることに気が付いた。


「そんなに見つめないでくださいまし……ずかしゅうございます」

「あ、ごめん。そんなつもりは無かったよ。それにしても、不思議な服だな。なんていう服なんだ?」

「これですか? これは着物という服ですよ。触ってみますか?」

「良いのか?」


 そう言って俺の目の前にしゃがみ込んだ女性は、そっと右手を前に差し出してくる。

 そんな彼女の衣服に触れようと、俺も手を差し出した瞬間。

 まるでねらっていたかのように、女性が思い切り俺を抱きしめて来た。

「おわっ!?」

「ふふふっ。感触はどうですか?」


 顔面に柔らかな温もりを感じる。

 その感触があまりにも心地よくて、そのまま身を委ねてしまいそうになった時、ペポの声が響き渡った。

「何してるチ!?」


 直後、俺の顔面を覆い尽くしていた柔らかな感触が、一瞬で消え去ってしまい、俺は顔から雪の中に落ちてしまう。

「かはっかはっ!! ……な、何が起きたんだ?」

「ダレン、大丈夫かい?」


 すぐ傍に駆け寄ってくるサラマンダーに視線を投げた俺は、さっきの女性が居ないことに気が付く。

 どこに行ったんだろう。と、思わず彼女の姿を探そうとした俺は、しかめっ面のまま頭上を旋回するペポを見つけた。


「ペポ? どうしたんだ?」

「何をしてたチ? って言うか、さっきの女は誰チ?」

「何って、俺も突然のことで何が何だか」

「ダレン、さっきの白いお姉さんに抱きしめられてたんだよ。少しずつ抵抗しなくなってたから、きっと意識が飛びかけてたんだね」


 サラマンダーの言葉を聞いて、俺はようやく何が起きていたのかを理解した。

 そして、さっきまで顔面を満たしていた柔らかさの正体も。

 理解すると同時に、顔が引きつっていくのを感じた俺は、サラマンダーのありがたい解釈に乗っかることにする。

「そ、そう! 思ったよりも強い力で締め付けられたから、意識が飛びそうに……」

「私、それほど強い力で抱きしめてはいないと思うのです。ふふふっ。もう一度確かめてみます?」


 不意に背後から聞こえた声に、勢いよく振り返った俺は、いつの間にか姿を現していた女の姿を捉えた。

「また現れたチ!!」

 女に向かって急降下して、攻撃を仕掛けるペポ。

 しかし、彼女の攻撃が当たる直前に白い粉となって霧散むさんした女性は、少し離れた位置に再び姿を現す。


「ど、どうなってるチ?」

「ふふふっ。鬼ごっこします? 私、得意なのですよ? 鬼ごっこ」

 攻撃が当たらないことに困惑している様子のペポと、この状況を楽しんでいるらしい女性。

 鬼ごっこって、どっかで聞いたな。

 ふと、そんなことを考えた俺は、彼女の首元に巻き付いているキツネを見て、思わず声を張り上げる。


「あぁぁぁぁぁ!! あんた、もしかして、あの白い奴か!?」

「白い奴だなんて、無粋ぶすいな呼び方は嫌ですね。ユキコとお呼びくださいませ。ダレン様」

「やっぱりダレンの知り合いチ!?」

「敵なのかな? だとしたら、流石に僕らの方が不利だよね」

「いや、違う。少なくとも、俺が皆とはぐれた後も生き延びることができたのは、彼女のおかげ……だ? そうだよな? 彼女達って言った方が良いのか?」

「どちらでもあっていますよ。あの子たちは私でもありますので」

「ワケが分からないチ……」


 困惑するペポとサラマンダーに、詳しく説明しようとした俺は、サラマンダーの言葉を聞いて現実に引き戻されることになる。

「皆、話は後にしよう。イエティはまだ倒せてないみたいだよ!」

 彼の言葉に反応した俺達は、こんもりと積もっている雪の小山に目を向ける。


 と、次の瞬間、その雪の小山の中から、大きな腕が突き出してきた。

「ぶはぁ……ったく、ムカつくぜ」

 そう言いながら、雪をかき分けてノシノシと出て来たイエティは、少しだけ目を見開いた後、ユキコをマジマジと見始めた。


「ほう、良い女じゃねぇか。オレ様に対する不敬は、その身体でつぐなってもらうとするか」

「ふふふっ。面白いことをおっしゃいますわね。貴方に私の相手が務まるとでも?」

「試してみるか?」

「試すまでもありません。既に冷たさで小さくなっているのは確認済みです。私は雪の精。貴方が先ほど埋もれていたのが何だったのか、お忘れかしら?」

「……」


 冷めた目でユキコがそう告げると、辺りに沈黙が流れた。

 なんでか分からないけど、ペポや周囲にいる魔物達が、イエティを見ながら笑いをこらえている。

 すると突然、怒りに顔を赤らめたイエティが、叫び出した。


「仕方がねぇだろうが!! 冷えたら小さくなるのは生理現象なんだよ!! このクソ女がぁ!! ズタズタに引き裂いてやる!!」

 両の拳を握りしめて怒りを顕わにするイエティ。

 そんな彼の様子を見て、ユキコはまた楽しそうに笑うのかなぁ。

 と思った俺は、しかし、イエティよりも顔を真っ赤に染めている彼女の表情を目にする。


 そして、イエティとは違い、恥ずかしさにられるように目をつぶったユキコが、叫んだのだった。

「ち、違います!! そのような下品な話をしているのではありません!! 私が求めているのは、身を焦がすような愛情の事です!! あなたにはそのような物が備わっていないと言いたいのです!!」

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