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そして野生児は碧眼の姫に出会い、彼女と瞳に恋をした  作者: 内村一樹
第5章 野生児と人魚姫

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第51話 背中の哀愁

「ごめんねぇ~。私、てっきり知り合いなのかと思っちゃって」

 ひとしきり涙を流した人魚にんぎょは、目元めもとぬぐいながらそう言った。

 知り合いと思って声を掛けたら人違ひとちがいで、ずかしかったから泣いたのかな?

 そんなわけないか。なんて、俺が心の中で自分にツッコミを入れていると、ロネリーが告げる。


「いえ、大丈夫です。ちょっと驚きましたけど」

 対する人魚は、一瞬いっしゅん首を傾げた後に納得した様子でうなずきながら続けた。

「あ、そっか。君達はあんまり人魚を見慣みなれていないんだっけ? まぁ、私達もなるべく人前に出ないようにしてるから」

「なるほど」


 人魚の肉を食べれば不老ふろうになれる。なんて話が出回っている以上、人前に出るのは危険きけんともなう。

 そう考えれば、彼女の判断は至極しごく真っ当な判断だろう。

 じゃあなんで俺達の前に姿を現したんだ? という答えが、きっと『知り合いだと思った』ということにつながるんだろう。


 もしくは、俺達が4大精霊だいせいれいを引き連れていることを知っていることと関係があるのかもしれない。

 と、そんなことを考えている俺のとなりにいたサラマンダーが、不思議そうな表情で口を開いた。


見間違みまちがえたって言ってましたけど、僕らの中に、その知り合いと似てる人がいたってことですか?」

 彼の問いかけを聞いた彼女は、大きくうなずいた後、ロネリーを見ながら言った。


「うん。私ね、金髪でウンディーネを連れてたと、仲が良かったんだ~」

「その方って、前のウンディーネ継承者けいしょうしゃですか?」

「そうなるのかな? って、そう言えば自己紹介じこしょうかいしてなかったね。私はテレサ。君達は?」

「私はロネリーです。そして、知ってると思いますが、彼女がウンディーネ」

「俺はダレン。で、この小っこいのがノームだ」

「アタチはペポだチ。んで、そこを飛んでるのがシルフィだっチ」

「僕はサラマンダー。で、この子がアパルだよ。それと、彼はガーディ」

「オデ、ガーディ」

「よろしくね。それにしても、随分ずいぶん大所帯おおじょたいなんだね」


 ひとしきり自己紹介をし終えたところで、あらためて皆を見た俺は、思わずつぶやいてしまう。

「確かに、こう見ると、結構増えたよなぁ」

 そんな俺に呼応こおうするように、ノームが口を開き、そして、いつも通りシルフィが続いた。


「オイラ達2人で山に住んでたころと比べると、にぎやかだよな。まぁ、こっちの方が良いけど」

「ノームは一人っきりだとしても、うる……にぎやかだったんじゃない?」

「おいシルフィ。今うるさいって言おうとしただろ? オイラの耳はごまかせないぜ?」

「もう、喧嘩けんかしないの。ダレンさんもペポさんも、止めて下さいよ」

「え? 別にいいんじゃね? 喧嘩けんかするほど仲が良いって、ガスも言ってたしな」

「そう言う問題チ!? まぁ、アタチも別にいいと思うチ」

「おいおい、オイラとシルフィが仲良いだって? ダレン、お前の目ん玉は節穴ふしあなか!?」

「そんなにれなくてもいいじゃ~ん。ウチとノームの仲なんだしぃ~」

「なんでお前が乗り気なんだよ!?」

「あはは。やっぱり君達は面白いね」


 軽口かるくち応酬おうしゅうり返す俺達を見て、ケラケラと笑うテレサ。

 彼女の反応に少し違和感いわかんを覚えながらも、俺は単刀直入たんとうちょくにゅうに話をすることにした。


「ところでテレサ。ちょっと教えて欲しいことがあるんだけど」

 そう切り出して、不死についての情報を何か知らないかたずねてみる。

 するとテレサは、思っていた以上にあっけらかんと言ってのけた。


「あ~。なんか、そんなこと言ってた時期が確かにあったね。でもそれ、誤報ごほうだよ?」

誤報ごほうなんだ!? ってことは、また振り出しに戻っちゃったってことだね」

 あからさまに視線を落として落ち込むサラマンダーに対し、テレサがあわてながら声を掛ける。


「まぁまぁ、落ち着いてよサラマンダー。誤報ごほうだけど、あくまでもそれは、伝わり方があやまってたってことなんだよ」

「ツタワリカタ? どういうイミだ?」

「なんていうのかな。確かに私達の中には、不死ふしに関する伝承でんしょうがあるんだ。だけど、私たち自身がその能力のうりょくを持っているわけじゃない」


 そこで一度、言葉を区切くぎったテレサは、その黒い髪をかき上げた後、少し低い声で問いかけてきた。

「君達は、フェニックスってとりのことを聞いたことあるかな? 不死鳥ふしちょうとも呼ばれてるんだけど」

「フェニックス?」


 思わずオウム返ししてしまった俺を見て、テレサは笑う。

「あんまり知らないみたいだね。まぁ、詳細しょうさい竜宮城りゅうぐうじょうで話してあげるよ」

 そう言ったテレサは、肩をすくめて見せると、自身の下半身を引きずりながらきびすを返した。


 そのまま、海の深い方へ向かおうとする彼女を、俺は引きめる。

「ちょっと待った。どこに行くんだ? その、竜宮城りゅうぐうじょうってところか?」

「うんそうだよ。竜宮城りゅうぐうじょうは私達が住んでる海の中のお城で、とってもきれいだから、ぜひ見て行ってよ」

「海の中に入るチ!?」

「それはちょっと、私とウンディーネは何とかなるかもですけど、他の皆はどうしたら……」

「オデ、ミズの中でイキできない」

「アパルもいるからなぁ。僕もむずかしいかも」


 当たり前のように海の中にさそわれた俺達は、戸惑とまどいを言葉にしてらした。

 ところが、俺達のそんな様子を見たテレサは、なんてことなさそうに言ってのける。


「なんだ、そんなこと? それなら、シルフィがいるから何とかできるんじゃない? 前はそうやって一緒に着いて来てたよ?」

 当然、全員の視線しるふぃがシルフィにそそがれたにも関わらず、いつも通りフワフワと浮いているシルフィ。


 流石さすがに視線に気が付いたらしい彼女は、ちゅうに寝そべった体勢たいせいのまま、右手をブンッと振って見せた。

 途端とたん、俺達の周りを無数むすうの風が吹き荒れ始める。


「ん~。これで大丈夫だと思うよ~」

「本当に大丈夫チ!?」

「大丈夫だって~」

「私も大丈夫だと思うよ。ほら、早く行こう。私が案内するから、着いて来てね」


 少しざつに言ってのけるテレサの背中を追いかけて、海の中に進み始めた俺は、海中にもぐる前にたずねてみた。

「なぁテレサ。もしかしてだけどさ、16年くらい前に4大精霊達だいせいれいと会ったことある?」

「う~ん。そうだね。多分それくらい前だったと思うよ」

「そっか」

「みんなを送り出した時の事、覚えてるから。間違いないね」


 そう言った後、しばらく沈黙ちんもくしたテレサは、俺の胸元むなもとまで水位すいいが来たところで、思い出したように告げた。

結局けっきょく、帰ってこなかった。君達には悪いけど、私は帰って来るのを、ずっと待ってたんだ」


 そんな彼女の言葉と背中に哀愁あいしゅうを感じながら、俺は海の中にもぐり込んだのだった。

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