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そして野生児は碧眼の姫に出会い、彼女と瞳に恋をした  作者: 内村一樹
第3章 野生児と樹海の神秘

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第36話 刻み込まれた希望

 夕日が地平線ちへいせんしずみ始めたころ樹海じゅかいの上を西に向かって飛んでいたリューゲは、眼下がんかみずうみを見つけた直後、急降下きゅうこうかした。

 すっかり暗くなってしまった樹海じゅかいの中、木々(きぎ)合間あいまって着地した彼は、足元に広がる闇に向かって両手をかかげる。


「さぁ、そろそろ出てきてください」

 彼の呼びかけに答えるように、暗い地面の中から、2人のゴブリンがヌーッと姿を現す。

 まるでやみの中から引っり出されたように直立ちょくりつしたゴブリン達は、目をパチクリとさせた後、リューゲに気が付いて口を開いた。

「リューゲ様……ゴブ?」

「あれ? オラ達、何してたゴブゥ?」


 混乱こんらんさいなまれているように、辺りを見渡すベックスとケイブ。

 そんな彼らを見やったリューゲは、小さくため息をいた後、説明を始めた。


「まさか、もう忘れたというのですか? はぁ……仕方がないですね。私は親切しんせつな男ですので、教えて差し上げましょう」

「それよりも、お腹空いたゴブゥ」

はらを満たす必要のない体にして差し上げましょうか?」

「ご、ごめんなさいゴブゥ!!」

「よろしい。ではまず簡潔かんけつに、あのノームが『ワイルド』に目覚めてしまいました」

「あの、リューゲ様。その『ワイルド』って、なにゴブか?」

「あなた方も見たでしょう? 植物をあやつるノームの姿を。あれこそが、『ワイルド』に目覚めたノームなのです」

「『ワイルド』に目覚めたノーム……って、なんか、カッコいいゴブね」

「……無駄口むだぐちたたけないように、したを引っこ抜いて差し上げましょうか?」

「じょ、冗談じょうだんゴブ!! 許してくださいゴブ!!」

「そうですか。残念ざんねんですね。話を戻すとしましょう。ノームが『ワイルド』に目覚めたということは、私達も本腰ほんごしを入れる必要があるということです」

「確かに、あのノームは強かったゴブゥ。でも、リューゲ様なら、勝てるゴブゥ?」

「もちろん!! わたくしの手に掛かれば、あのような子供の1人や2人。造作ぞうさもなく始末できるのです!! ですが!! 忌々(いまいま)しいことに、それですべてが解決するという訳ではない!!」

「どういう意味ゴブ?」

「奴があやつっているのは、単なる岩ではない。そして、植物ではない」


 そこで一度言葉を区切ったリューゲは、短く端的たんてきに告げた。

生命せいめいエネルギーです」

「せいめいえねるぎー? って、何ゴブゥ? ベックス、知ってるゴブゥ?」

「いや、俺も知らんゴブ」


 小刻こきざみに首を横に振って知らないと主張するベックス。

 そんな彼らを見下ろしているリューゲが、半ばあきらめたような口調くちょうで告げた。


生命せいめいエネルギーとは、この世界の全ての生命せいめいみなもとのことです」

「ってことは、オラ達もその生命せいめいエネルギーから生まれたってことゴブゥ?」


 リューゲの言葉を聞いたケイブが、少し思考しこうめぐらせた後、そう問いかけてきた。

 その問いを聞いたリューゲは、おどろきとよろこびが混ざったような表情で声を上げる。


「その通り!! ケイブ、私は今、君のみ込みが早くて関心かんしんしてしまいました」

「そ、それくらい、俺だって分かったゴブ!!」

「そんな力をあつかえるようになったノームの存在は、非常に危険です。したがって、すみやかに排除はいじょしなければなりません」


 首を大きく横に振りながらそう言ったリューゲは、おもむろにふところからふえを取り出した。

 それは、遺跡いせきの中でノームに追いめられた際に彼が吹いたふえだ。


 そんなふえを前に差し出したリューゲは、おそおそる手を出すケイブに手渡すと、再び口を開く。

「このふえ魔寄まよせのふえです。このふえを探して、あの遺跡いせきもぐったことは、2人も知っているでしょう。少々(しょうしょう)もったいない気もしますが、これをあなたがたに差し上げます」

「こ、こんなすごいものを、オラ達が使っても良いゴブゥ?」

「このさい仕方しかたがありません。出ししみをしている場合ではないのです。私は一旦いったん、魔王様の元へ向かい、事情じじょうを説明してきます。ですので、2人に2つほど、命令をしておきましょう」

「命令ゴブ?」

「私が魔王様の元に行っている間、あなた方はその笛を駆使くしして、奴らの足止めを行いなさい。可能であれば、殺しても構いません。これが1つ目です」

「足止めと、殺し……むずかしそうゴブゥ」

「そのための魔寄まよせのふえです。はなから、あなた達2人に期待はしていません。次に2つ目の命令です。奴らがサラマンダーと接触せっしょくすることを防ぎなさい」

「サラマンダーゴブか? でも……」

「オラが知る限り、まだサラマンダーは見つかっていないって聞いてるゴブゥ」

「その通り!! だからこそ、奴らもサラマンダーを探しているはず。なればこそ!! ありとあらゆる妨害ぼうがいほどこして、探すひまを与えないことこそが、我らのすべき事!! 魔王様への忠義ちゅうぎを示す方法に他ならないのです!!」

流石さすがはリューゲさまゴブ!!」

「オラ、感動したゴブゥ!!」

めるでない。これは、魔王軍の幹部かんぶとして至極しごく真っ当な考え方です。それでは、私はそろそろ出発する。2つだけ助言じょげんをしておきましょう。この先に大きな湖があります。奴らは恐らく、そこに向かうでしょう。それと、ふえには使用回数しようかいすう制限せいげんがあります。1度使っていますので、残りは2回と言った所でしょう。気を付けて使いなさい」


 それだけ言い残したリューゲは、颯爽さっそうと空へと飛び上がり、そのまま西の空へと姿を消した。

 去ってゆく姿を見送ったケイブとベックスは、たがいに顔を見合わせた後、西に向けて歩き始める。


「なぁケイブ。そのふえ持って、逃げ出さないゴブか?」

「何を言ってるゴブゥ!? ベックスは、リューゲ様が怖くないゴブゥ?」

「もうあのくそ悪魔は居ないゴブ!! 逃げるなら今のうちゴブ!!」

「オ、オラ、何も聞いていないゴブゥ」

「大体、あのくそ悪魔はゴブリンづかいがあらいゴブ!!」

「そ、それはそうゴブゥ。でも、オラ、さっきの話で少し気になったことがあるゴブゥ」

「ん? 気になったことゴブか?」

「うん。生命せいめいエネルギーとかの話ゴブゥ」

「ん? あんなの、あのくそ悪魔の戯言ざれごとに違いねぇゴブ!! 命をあやつって、どうやって根っことか岩をあやつるゴブか!?」

「そこじゃないゴブゥ。オラが気になったのは、オラ達が生命せいめいエネルギーから生まれたってことゴブゥ」

「は? それの何が気になるゴブ?」

「オラ達も、あの人間達も、同じように生命せいめいエネルギーから生まれたんだとしたら……」


 そこで言葉を区切くぎったケイブは、少し言いづらそうに顔をしかめながら、小さく告げた。

「どうしてオラ達には、バディが居ないゴブゥ?」

「どうしてって……それは……ゴブ」


 ケイブの言葉を聞いたベックスは、小さく言葉をらしながら、足を止めてしまった。

 まるで、何か気が付きたくないものに気が付いてしまったかのように。

 そんな彼に追い打ちをかけるように、ケイブが話を続ける。


「オラ、ずっとバディが欲しかったゴブゥ。それはベックスも同じはずゴブゥ」

「ケイブ……やめるゴブ」

「やめないゴブゥ。ベックス、ノームは生命エネルギーをあやつるゴブゥ。ってことは……」

「やめろ!! やめろゴブ!!」


 話をやめるつもりのないケイブに、ベックスは叫んでみせる。

 しかし、そんなベックスの叫びを聞いたケイブが、口をざすことは無かった。


「もし、バディも生命せいめいエネルギーから生まれてるなら、オラ達もバディを持てるかもしれないゴブゥ」

 真っ暗な樹海じゅかいの中に、ケイブの言葉が溶け込んでいく。


 まだかすかに聞こえる鳥のさえずりと、木々のざわめきの中に溶け込んでいったその言葉は、一瞬で消え去ってしまった。

 それでも、ケイブとベックスの脳裏のうりにその希望きぼうきざみ込まれたことは、言うまでもない。


 そうして、しばらくだまり込んだまま立ち尽くしていたベックスは、何も言葉を発することのないまま、西に向かって歩き始めたのだった。

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