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そして野生児は碧眼の姫に出会い、彼女と瞳に恋をした  作者: 内村一樹
第3章 野生児と樹海の神秘

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第34話 大地の奥深く

「ところで、この状況。分かっていますよね?」

 リューゲがそう言うのを、オイラは地面の中から見ていることしかできない。

 奴の指摘してきするように、ロネリーとペポが人質に取られている以上、オイラだけが勝手に動くのは危険だ。


 ダレンの足元に潜伏せんぷくしたまま、ぼんやりとする視界と音を頼りに状況の観察かんさつをしたオイラは、歯を食いしばりながら視線を上げる。

 この状況を打破するためには、オイラとダレンが連携れんけいして2人を助け出すしかない。


 ウンディーネもシルフィも、相方の命を握られている状況で簡単には動けないだろう。

 かといって、ガムシャラに動くのはダメだ。オイラ達があなどれるほど、リューゲと言う悪魔の目は節穴ふしあなじゃないはずだ。


「おやおや、怒ってしまったのですか? 良いですねぇ。もっと怒ってください。どうせ、ここで全員死ぬのですから。その前に、面白い話をして差し上げましょう」

 するど眼光がんこうを飛ばすダレンに対してそう言ったリューゲは、まるで、オイラの油断ゆだんさそうように淡々(たんたん)と話を始めた。


「この遺跡いせきはかつての人間が、大地の神とやらをあがめるために作った場所とのことです。どう思います? あなたの墓場はかばとして、格好の場所だとは思いませんか?」

 この状況、このタイミングで、この話をするリューゲは、やはり抜け目がないらしい。

 少なくとも、奴の脳裏にオイラの存在がチラついてるのは明確だ。


「大地の神?」

「そう!! 愚鈍ぐどん軽薄けいはくな、物知らぬ者。それこそが神。だからこそ我らが魔王様が、り代わろうとしているのです!!」

 次第しだいにヒートアップしていくリューゲを注視ちゅうししながら、オイラはダレンの背後はいごに回り込んだ。

 ここなら、奴の目からかくれた状態で姿を出せるかもしれない。


「だというのに!! 貴様きさまらは魔王様にあらがおうとする!! きわめておろかな行為こういだとは思わないのですか!? あぁ!! 腹立はらだたしい!! にくたらしい!! ですが、それも今日で最後という訳ですな」

 さらにヒートアップするリューゲの声を聞きながら、完全にダレンのかげに隠れたオイラは、全力で警戒けいかいしながら、地表に近づく。


 地上では、ダレンが岩のナイフを握りしめ、なにやら思考をめぐらせているようだ。

 その時、ナイフを握りしめていたダレンの右手から、一滴いってきの血が落ちた。毒矢どくやを受けた傷から出血したらしい。


 音もなく静かに落ちたダレンの血は、ジワーッと地面に吸い込まれたかと思うと、深く沈んでいく。


『……沈んでいく?』

 一瞬、脳裏のうりに浮かんだ疑問ぎもん

 そんな疑問ぎもんをかき消すように首を横に振ったオイラは、意を決して地上へと腕を出した。


 直後、今の今まで感じなかった強い殺気さっきを全身に感じる。


「しまった!!」

 見られていた!? どこから? 誰に!?

 ひしひしと伝わって来る強い殺気さっき混乱こんらんしたオイラは、立て続けに視界に入る情報を処理しきれない。


 一閃いっせんの風がダレンの眼前を上から下へと切り裂き、くだんのダレンは血飛沫ちしぶきを立ててくずれ落ちる。

 当然、ダレンが倒れこめばオイラとリューゲの間にあった死角しかくは消えてなくなってしまう。


 顔の上半分を地上に出していたオイラは、自然と、こちらに向かってニヤけて見せるリューゲと視線を交わしてしまった。

 振り下ろされた奴の手には、さきを血でらした剣が握られている。


 してやられた。

 直感的ちょっかんてきにそう思ったオイラは、次第に全身から力が抜け落ちてゆくのを感じる。


 ダレンからこぼれ落ちてゆく大量の血液けつえきと一緒に、地面の中へと、深く、深く沈み始める。

『大地の大精霊だいせいれいは、4大精霊だいせいれいの中で唯一ゆいいつ途絶とだえる可能性を持つ大精霊だいせいれいだ』


 少し前にホーネットから聞いたことを脳裏のうりに思い浮かべたオイラは、薄れ始める意識の中で思う。

 これで終わりなんだ。

 オイラが、オイラとして、この世界に存在できなくなってしまう。

 それはつまり、魔王に対抗たいこうする手段が失われるということで、ダレンもロネリーもペポも、ロカ・アルボルの人々も、コロニーの人々も。


 全ての人にとっての希望が失われるってことだ。


 笑うのは、リューゲと魔物まもの魔王軍まおうぐん。そして、魔王だけ。

 嫌だなぁ。

 そう思ったオイラは、視界の中でどんどん小さくなっていくダレンの姿を見つめた。


 地面の中ならどこだって、オイラの思い通りに動けたはずなのに。

 地上にいるダレンの場所になら、いつだって戻れたはずなのに。


 身体からだが言うことを聞かない。すべなく離れてしまう。

 そんなオイラは、ぼやけていく意識の中で、あることに気が付いた。


 オイラとダレンの間をつなぐように、ダレンの血液がみ込んできている。

 大量にこぼれた彼の血液は、まるでオイラの後を追うように染み込み、一筋ひとすじの線を描きつつあった。


「まるで、道みたいだな……」

 皮肉ひにくを込めてそうつぶやいたオイラは、直後、顔のすぐ横を登ってゆく何かを目撃する。


 まばゆかがやくそのすじは、まっすぐにダレンの血液が作るすじに向かって伸びていった。

 まるで、沈みゆく彼の血液けつえきむかえに来たかのように。


 それの正体が何なのか不意に気になったオイラは、かろうじて動く上半身だけをひねって、はるか下、大地の奥深くに視線を向ける。

 すると、不思議なことに、うすれ始めていたオイラの意識が、一瞬にして鮮明せんめいになってゆく。


「なんだ……これ」

 気が付けば、オイラの胸元にまで伸びてきているそのかがやすじのおかげで、全身に力がみなぎる。


 やがて、オイラの身体にまとわりつき始めたそれらのすじは、ゆっくりと光を失って消えていった。

 動ける。見える。聞こえる。使える。

 以前よりも鮮明せんめいになってゆく五感に身体からだ馴染なじみ始めた時、オイラは地上の方から聞こえて来た声を耳にした。


「ダレンさん!!」

 咄嗟とっさ頭上ずじょうを見上げると、意識を失っていたはずのロネリーが戦斧せんぷを持ったケイブに押さえつけられながら叫んでいる。


「仕方がねぇなぁ」

 みなぎるチカラに身を任せながら、そうつぶやいたオイラは、両腕を大きく広げると、勢いよく上にり上げた。


 直後、地面の中を無数むすうすじが伸びてゆくのを感じる。

「やられっぱなしで居られねぇんだよ!! オイラ達は、2人を家まで送り届けるって約束したんだからなぁ!! だろ? ダレン!!」


 いまだに倒れ込んだままのダレンに目を向けながら、猛烈もうれつな速度で上昇したオイラは、地上に出ると同時に、もう一度両腕を振り上げた。

 そうして、地面から勢いよく飛び出したオイラは、振り上げていた両腕を激しく動かす。


 そんなオイラの腕にしたがうように、地面から無数の植物の根が姿を現した。

「なっ!?」

 唐突とうとつに飛び出したオイラに驚いたのか、リューゲがそんな声を上げる。


 そんな奴を完全に無視したオイラは、縦横無尽じゅうおうむじんに伸び回る根を使って、ベックスとケイブの四肢ししからめとり、ロネリーとペポの救出きゅうしゅつ専念せんねんした。

 戦斧せんぷやりで、伸びる根を切ろうとする2人だったけど、無尽蔵むじんぞうな根の数の前に手も足も出ない。


 そうして、最後の仕上げとばかりにオイラが指を鳴らすと、ダレンの真下から巨大な花が姿を現す。

 緑色に輝くその花の上に寝そべるダレンの頭の上に着地したオイラは、薄っすらと目を開けたダレンに向けて告げたのだった。


「ようダレン。オイラ、新しいチカラに目覚めちまったらしいぜ」

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