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そして野生児は碧眼の姫に出会い、彼女と瞳に恋をした  作者: 内村一樹
第2章 野生児と若草色の少女

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第23話 風の大精霊

 オルニス族の族長、ホーネット様。

 ロネリーがそう呼んだ真っ白な女性を、俺は改めて見上げた。


 その真っ白な羽毛うもうは、ペポ以上にフワフワしていそうだ。

 彼女がオルニス族の族長なら、色々と聞きたいことがある。

 それらの中で一番気になっていることを、俺はとりあえず聞いてみることにした。


「えっと、ホーネット様。もう知ってると思いますが一応……。俺はダレン。で、頭の上のこいつがノーム。大地の大精霊だいせいれいです。実は俺達、風の大精霊だいせいれいシルフィがオルニス族にしか継承けいしょうされないって聞いて、ここに来ました。何か知ってたら、教えてくれませんか?」


 視界の端で心配そうな表情を浮かべているアニカとロネリー。

 彼女たちは俺の言葉に不安でも感じているんだろうか?


 まぁ、そのあたりの話は後で本人たちに聞くとして、俺はホーネットの反応に注意を注ぐことにした。

 一瞬訪れた沈黙の中、少しだけ目を細めたホーネットは、まんしたように口を開いた。


「ダレン。主が話をくのも理解はできるが、まずは順序じゅんじょだてて事を進めたく思う」

「順序だてて? というのは?」

「我らはまず、ぬしれいをせねばならない。と言うことよ」

「礼? あぁ……」


 ホーネットが何を言っているのか一瞬分からなかった俺は、不意に風の魔石のことを思い出した。

 多分、礼って言うのは、魔王軍のたくらみを防いだことに対しての話かな。


 俺の推測すいそく肯定こうていするかのように、ホーネットは話を続ける。

「ペポからすべて聞いておる。主達ぬしら、特にダレンはみずからの危険をかえりみることなく、このロカ・アルボルを救うために尽力じんりょくしたとな」

「いや、そんなだいそれた考えは無かったですよ?」

「だとしてもだ。我らはぬしに感謝をせねばならん。我らの故郷こきょうを、英霊えいれいたましいまもってくれたこと、まことに感謝する」

「はぁ……って言うか、あの場にペポはいなかったと思うけど。どこで見てたんだ?」


 おどそかな口調で礼を告げながら小さく頭を下げるホーネットを見て、俺は少しばかり気恥ずかしさを覚えた。

 そんな恥ずかしさをまぎらわすために、疑問を口にしてみる。

 すると、俺の右後方みぎこうほうにいたペポが、ペチペチと歩きながら話し始める。


「アタチはダレンが戦ってるところは見てないチ。でも、穴の底に目掛けて降りてる途中で、ダレンの声は聞こえたチ」

「声?」

 俺が短く発した疑問の声を、ペポは完全に無視して続ける。


「その後、変な声を出す岩とダレンが、穴の底から飛んで来たチ。その時の叫び声が、穴の底から聞こえた声と同じだったから、アタチはすぐに助けに向かったチ」

「あ、それは私達も見てました。ね、アニカさん。ノームさんが作った階段を降りてる途中で、ペポさんが縦穴たてあなの壁スレスレを急降下して行ったんです。そのあとすぐに、ダレンさんが砂塵さじんの中から飛び上がってきて、追うようにペポさんが急上昇していきました」

「そうなのか……でも、あの砂塵さじんの中で声を聞きわける事が出来るとは思えないけどなぁ」

「それは、シルフィに手伝ってもらったチ」

「へぇ……え? 今、なんて?」


 思わず聞き返してしまった俺を見て、少し微笑ほほえみを浮かべたホーネットが、ゆっくりと告げる。

「紹介が遅れてしまったの。ダレン、主の探しておる風の大精霊だいせいれいシルフィは、ペポのバディよ」

「そうチ!! シルフィは風をあやつれるチ。だから、ダレンの声もひろえたっチ」


 ふさふさとした胸を張り、得意げに告げるペポ。

 そんな彼女の左腕辺りから、なにやら小さな人型の生物が姿を現した。

 銀色の短い髪を持ち、緑色の衣を身にまとった妖精のようなその生物は、満面の笑みを浮かべて口を開く。


「ウチがシルフィだよ~。よろしくねぇ。ダレン」

 少し語尾を伸ばす不思議な口調で、語り掛けて来るシルフィ。

 そんな彼女は、フワフワと俺の元に飛んで来たかと思うと、頭の上のノームを見てプククッと笑った。


「君がノームかぁ。大地って言う割に、小さいんやねぇ」

「な、なんだと!?」

「その分やと、器も小さいんかなぁ?」

「ぐっ。お前もオイラと同じくらいの大きさじゃねぇか!! 人のこと言えないだろ」

「ウチは別に、大きいなんて言ってないもん」

「シルフィ、その辺にするチ。ノームが怒ってるチ」

「はぁ~い」


 歯を食いしばりながら怒りをおさえようとするノーム。

 ウンディーネを初めて見た時の反応を考えると、お前も何も言えないだろ。

 などと思ったけど、俺はその言葉をグッと飲み込んで、話をらすことにした。


「ってことは、今この場に4大精霊の内の3人が集まってるんだな。後は、火の大精霊サラマンダーだけか」

「そのことだが、ダレンよ。主達ぬしらは4大精霊を集めて何をするのか、知っておるのか?」

「何をする? えっと、単純に集まって、魔王軍に対抗しようと思ってただけですが……なぁ、ロネリー」

「はい。具体的には、全員(そろ)ってから話し合おうと思っていました」

「やはり……いや、当然というべきかの」


 俺達の反応を見たホーネットは、そんなことをつぶやく。

 そのつぶやきから察するに、彼女は何かを知っているに違いない。

 そう考えた俺は、1歩踏み出しながら、ホーネットに質問をぶつけた。


「ホーネット様。もしかして、何かご存じだったり?」

「……当然であろう。なにしろ、16年前に主らの前任者を集め、魔王軍に対抗するように差し向けたのは、我らオルニス族なのだからな」

「差し向けた……!?」

「おいおい、そんな話、俺達も聞いたことないぞ?」


 ホーネットの言葉を聞いて最も驚いていたのは、アニカとラルフだ。

 2人は、口々に驚きの言葉をらしながら、興味深そうにホーネットの話に耳をかたむけている。


「まずは何から話すべきか……」

 思考をめぐらせるように目を細めたホーネットは、そんなことをつぶやいたかと思うと、その場にいる全員を見渡して話し始めた。


「我らオルニス族は流浪るろうたみと呼ばれていた。それは、この世界が2人の魔王によって蹂躙じゅうりんされるよりも前のことだ」

「2人の魔王に蹂躙じゅうりんされた?」

「ダレン、主はそのことも知らぬのか?」

「ホーネット様、ダレンさんは生まれてからずっと、山にこもってたのです。だから、基本的に山のこと以外は何も知りません」


 ロネリー。確かに、間違ってないんだけど。言い方(ひど)くない?

 などと独白どくはくする俺を置いてきぼりにして、ホーネットは納得したように大きくうなずいた。


「それなら仕方あるまい。今から150年前、突如とつじょとして現れた2人の魔王が、この世界にある国をことごと壊滅かいめつさせてしまった」

 国。というのもいまいち良く分かって無いけど、もう馬鹿にされたくないので、だまっておくことにする。


「そんな荒れ狂う世界の中、我らオルニス族もまた、魔王軍の襲撃しゅうげきを受け続けていた。だが、我らは元来がんらい流浪(るろう)たみ。移動し続けることには慣れている。だからこそ、魔王軍の襲撃しゅうげきにもえ、こうして多くが生き延びることができたのだ」

「……でも、今はこのロカ・アルボルにとどまってるんですね」

「その通り。それにはれっきとした理由がある」


 力強く告げるホーネットは、一度大きく息を吐き出すと、何かを思い出すように空を見上げながら話を続けた。

「この地にあったオルニスの大樹に、我らがたどり着いた時。とある者と出会ったのだ」

「とある者?」

「その者は人ではなく、オルニス族でもない。我らが旅してきた中でも出会ったことのない者。死にかけていた彼は自らのことをドラゴニュートと称すると、大事そうにかかえていたモノを、我らにたくした」


 そこで一旦、言葉を区切ったホーネットは、ゆっくりと視線を落とすと、静かにペポを見つめる。

 そして、一瞬の沈黙の後、静かな口調で告げる。


「それが、シルフィの前継承者ぜんけいしょうしゃ、ホルーバだった。まだ幼子おさなごだったホルーバを、彼がどこで拾ったのかは分からない。ただ1つ、彼は息絶える前に我らに教えてくれたのだ。4大精霊こそ、魔王軍に対抗する術なのだということを」


 言いながら視線をペポから俺に向けたホーネットは、不意に語気を強めて言い放った。

「『西にそびえる霊峰れいほう、そのいただきにて4大精霊がつどいし時、かの災厄さいやくすることができるだろう』それが、ドラゴニュートののこした最期の言葉だ」


 おどそかな響きが、周囲の空気を振動させる。

 思わずホーネットの話に聞き入っていた俺は、今しがた聞いた話を頭の中で整理する。


『つまり、俺達4大精霊が西にある霊峰れいほうに集まれば、魔王を倒せるってことか?』

 ちょっと聞いただけじゃ、すぐに信じることができない。そんな簡単に、魔王ってのは倒せるものなのか? って言うか、ドラゴニュートって何者だよ。


 色々と疑問は湧き上がって来るけど、少なくとも、ホーネットたちはこの話を信じて、実行に移したってワケだよな。

 で、失敗した。


 だったら、俺達はマネしない方が良いんじゃないだろうか。

 そんなことを思った時、ラルフが口を開く。


「おい、今の話が本当だってんなら、なぜ16年前は失敗したんだ?」

 そんな彼の質問を聞いたホーネットは、ゆっくりと首を横に振ったかと思うと、小さく告げたのだった。

「分からぬ」

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