14.精神感応金属と焼肉。
「ふふふ~ん♪ さあ~、【無垢の薄紗】~♪ キレイキレイにしましょうね~♪ あっ、もちろん【甘美なる眠り】も【純白の乙女】もね~♪」
「ん。これも焼けた。これも」
「わわわっ!?」
「んん~。美味しいです~」
満天の星空が照らす夜。魔界跡地の野営地で。
熱せられた鉄板の上でタレのついた厚切り肉がイニアの手でジュウジュウと次々に焼かれて、僕たちの皿の上に乗せられていく。
「ん。焦げる前に早く食べて」
「う、うん! はぐっ!」
「はい~、いくらでもいただきます~♪」
シャルティーは次々と、僕は遅れながら、イニアは焼きながら、立ったまま熱々の肉を頬張った。
染みこんだタレと肉汁の味が混ざって口いっぱいに広がり、思わず顔がほころんでしまう。
昼に引き続きとても冒険中とは思えない、豪華でなんだか楽しい食事。
ちょっとしたイベントに参加しているような気分すら僕はしてきていた。
「さあ~♪ イニアがあたしに買ってくれた~【星屑の輝油】をぬりぬりしましょうね~♪ ツヤッツヤのテカッテカのキラッキラにしてあげる~♪」
そんな中、少し離れたところに座りこんだプレサは、食事にまったく見向きもせずに、自分の大剣とその鞘を熱心に布で磨き上げていた。
どうやら布には、さっきイニアからもらった【星屑の輝油】というものがたっぷり染みこませてあるらしい。
その名のとおり磨いたところがキラキラと星屑をちりばめたように輝いて、そのたびにプレサはうっとりと息を吐いていた。
「イニア~、このパンもちょっとあぶってください~」
「ん。わかった。鉄板にのせて。あとこれも焼けた。食べて」
イニアとシャルティーは、そんなプレサには一切かまわずにどんどん食事を進めていく。
「【甘美なる眠り】~♪ さあ、開いて~♪ 外はぬり終ったから次は中よ~♪」
バシャっと音がして、プレサが持っていた鞘が根本から開いた。
すでに表面は磨き上げられてキラッキラだ。
「あれ? 昼間もそうだったけど、そういえばなんであの鞘、しゃべっただけで開くんだろ……?」
「えっ? それはそうですよ~。ロシュ、プレサの武器は剣も鞘もすべて精神感応金属製ですからね~」
「えぇっ!?」
焼いたパンに肉とサラダを挟んだ即席ホットサンドをはむはむと口にしつつ、こともなげにシャルティーがいい放つ。
精神感応金属。
見つけて売れば一攫千金まちがいなしの超希少金属。伝説とまでうたわれる武具の素材。
その性質は軽く、しなやかで頑丈。名工が鍛えた精神感応金属の武具は持ち主の意志に応え、まるで自分の手足のように動かせると伝わる、数多の冒険者が追い求めてやまない、まさに伝説の、究極の武具。
そ、それがこんな近くに……!?
「見~えないところも~キレイにするのが~淑女のたしなみなの~♪」
ところで、その伝説の武具の持ち主だったらしいプレサはノリノリでなんかついに節をつけて歌いだした。
武器を磨くたびにどんどん恍惚の表情になっていって、正直ちょっと怖い。
「さて、ごちそうさまでした~。では、イニア~」
「ん。ごちそうさま。シャルティー」
「やりましょうか~」
「ん。やろう」
口元をふいて立ち上がったシャルティーとイニア。
ゆっくりと左右からそれぞれ、ノリノリで歌うプレサへと近づいていき、両となりに立つと、ふたりはおもむろに手を伸ばした。
「キレイになったわふぇ~♪ モグモグ。スイートレふゅほ~♪ モグモグ。じゃあ~最後は~ヴァージひふぁふぉ~♪ モグモグ」
「ん。はい、プレサ。肉」
「プレサ、お野菜もとってくださいね~。はい、よくできました~。じゃあ、次はパンですよ~」
「モグモ……!? うっぶふぇっ!?」
「あらあら、むせちゃいましたか~? あんまり急いで食べちゃだめですよ~? はい、お茶です~。ゆっくり含んでくださいね~」
「ん。落ちつくまで背中さすっててあげる」
「ごほっごほっ……ごくごく。さあ~、白いお肌にお化粧しましょうふぇ~♪ モグモグ」
左からイニアが皿にごっそりとっておいた肉を。
右からシャルティーが野菜やパンを。
口元に持っていくと無意識にそれを口にする真ん中のプレサ。
むせれば、ふたりはかいがいしくお茶を飲ませ、背中をさする。
え? なにこれ? 介護?
そんなかなり失礼なことを思ってしまうくらいに異様でシュールな光景は、プレサがすべての武器を思う存分に磨き上げ、満足するまで続いた。
「……うん。湯加減はこれでいいと思う」
「ん。ありがと」
お礼をいうイニアにうなずきを返すと、露天風呂になみなみと張ったお湯から手を引き上げ、僕は立ち上がった。
「いよいよですね~。なんだかドキドキしてきました~」
「せっかく大きなお風呂つくったたんだもの! 思いっきり体伸ばすわよ!」
「ん。ロシュがいれてくれたお湯。楽しみ」
シャルティーが耳にかかっていた金色の髪をかきあげ、ようやく正気に戻ったプレサが結っていた赤いポニーテールをファサっとほどいた。
イニアがとんがり帽子を脱ぎ、とん、と地面に置く。
「じゃ、じゃあ僕はしばらくここから離れるよ。ゆっくり入ってね、みんな」
これからみんなが僕が用意したお風呂に入るってだけで妙にドキドキしてしまって、思わずどもり気味になってしまった。
でも本当にゆっくり浸かって、少しでも疲れをとってほしい。
気休めかもしれないけど、みんなが気持ちよく入れますように、疲れがとれますように、って思いをこめながらお湯を注いだから。
だが、次のプレサの発言に僕はそれどころではなくなってしまった。
「は? なにいってるの? あんたも入るのよ、ロシュ?」
「ええ!? プ、プレサ!?」
「そうですよ~、ロシュ? 貴方がいれてくれたお風呂に、貴方が一番に入らないなんておかしいじゃないですか~?」
「しゃ、シャルティー!? で、でででも!?」
「ん。ロシュが先に入るか、わたしたちと一緒に入るか、その二択」
「い、イニアッ!? い、いや、ぼ、僕が先になんて、ででででででも……!?」
「はあ。らちが開かないわね? まあ、最初だから仕方ないかしら? じゃあ、シャルティー」
「は~い、プレサ~。これの出番ですね~。それ~」
混乱の極致にある僕の目の前で、シャルティーが持った小瓶の中身が露天風呂の中に振りまかれた。
瞬く間に透明だったお湯が乳白色へと変わっていく。
「ま、これが妥協点かしらね?」
「そうですね~。はあ~。ミルク入りの香油、いい香りです~」
「ん。それじゃあ、冷めるともったいないから、そろそろ入ろう」
パチンッ。
プチッ。
シュルッ。
硬直する僕の目の前で、3人はそれぞれの服に手をかけた。
お読みいただきありがとうございます。
余談:【星屑の輝油】塗ると星をちりばめたような輝きを得られる。ただし、実用的な効果はいっさいなし。イニアが当初買うのを渋った理由。




