帰ってきた地球には日常は待っていてはくれない
はい、二話目
「それであなたはどこから来たの?」
テーブル越しにレストがそう問いを投げかけて来た。
俺は答えに困った。ふと、シルフィーに目を向けると全力で目線をそらして来た。
「え、えっと……」
もう一度シルフィーを見る。
ダメだ、やはりガン無視だ。
あいつは使い物にならない、チィッ! 使えない。
俺のなにかを察したシルフィーはなぜか怒っていたが、俺よりはマシなはずだ。と言うか俺の方が怒ってるので、逆ギレは良くない。
その様子を見ていたレストは何故か困惑している。が、俺とシルフィーの様子を何となく察したレストはうんうんと頷き遠い目をした。
「何となく事情は把握したわ。シルフィー後で私の部屋に来なさい」
「いや、待って……待ってください。違っ、いや、違わないんだけど、兎に角これには浅くて広い訳が」
何そのパッとしない言い訳は。
「それとそこのゴミ、ドンマイ」
「余計なお世話じゃー!!」
レストは哀れみの目を俺に向けほくそ笑んでいた。
食事が終わり、シルフィーはレストに首根っこをがっしりと掴まれ引きずられるように何処かへと連れて行かれる。
やる事の無い俺は用意されていた自室に戻ることにした。
部屋に戻ろうと席を立つとリアが俺の裾を引っ張った。なんとなく俺が怯える犬の目をしたら顔を引攣らせていた。何となくバツが悪かったのだろう。
その後、唾を吐き捨てていたのを俺は見逃さなかったが……。
お行儀の悪い娘さんですこと。
何故か頭にかかるバナナの皮らしきもの。
手にとって見ると、ネバネバしていて黄色いバナナの皮らしきもの。なにこれ?
匂いを嗅いで見ると……臭! え、これくっさ。
卵と尿、それとマンゴーを発酵させて納豆を混ぜた匂いだ。なにこれ嗅いだことねーくらい臭〜ありえねーー。
頭についた異物をゴミ箱に捨て、俺は部屋に戻ったのだった。
何故かネットリする頭を触りがっかりする俺を慰めるかのように鳥たちが窓から顔を覗かせる。
「かわいいなー」
俺が窓辺に近づくと、鳥たちはご自慢の羽で鼻を抑え、急いで何処かへ飛んでいってしまった。
「え〜〜そんなにこれ臭いんだ……ははっ嫌われたもんだなー。ぐへへありがとうございます」
しばらくのんびりベットで横になっていると、ノックが聞こえた。
「ん? どうぞ〜」
扉を開け入って来たのは泣きべそをかいているシルフィーと先ほどの臭すぎるバナナの皮らしきものを持ったレストの姿だ。
「えーと、どうしましたか?」
「この子からお話があるので聞いてください」
とうとう泣き始めてしまうまたシルフィーさんは俺を見るたびギロリと厳つい目をして来たが、その度にクサイバナナみたいな物を近づけられては泣く。
うわ〜あれやっぱりそう言う類のものなんだー。
「それって何なんですか?」
レストは俺にそれを投げつけ、説明を始めた。
「これは、バナナの皮をあらゆる臭い物に何年もつけ、黄色い染色を浸したものです。なので安心してください。毒は入ってないです」
いえ、毒以前に腐ってるし、食べたら間違いなく死にますって、シルフィーも顔を青くしているし、多分食べたいのって脅されたんだな……。
「そう言えば、レストさんは臭くないんですか?」
「臭いですか? 私は好きな匂いですよ?」
あ、この人鼻が死んでる人だ。
「何ですか? そのかわいそうな人を見る目は?」
「いえ、特には」
「ならよろしい。因みに私の鼻は正常です」
あ、はい。
「さ、シルフィー。話すことがあるんでしょう?」
「はい、お母様……」
いきなり白装束に着替えたシルフィーは刀を腹元に当てた。
「あなたにした事は謝っても許されない事だと母から教わりました……ここで腹を切るので許してください」
「…………え?」
「え?」
俺の驚いた声にレストは驚いた顔をし俺の顔を覗きこんできた。
「許してあげるんですか?」
「だってやっちゃった事には変わりないですし。何よりご飯も出してくれるし!」
「……」
何故かおし黙るレストと泣き過ぎて変な顔になってるシルフィーのなんとも言えない度し難い空気が出来上がった……。
自身の自決まで決めたシルフィーは助かった……と言う表情をし安堵の表情をした。
「私は死ななくても良いのですか?」
「えっと、そこまでされると逆に嫌って言うか、かわいい女の子に死なれると後味が悪くなるっていうか……その……」
「ありがとうございます。なら、一つだけ貴方の望みを聞きます。お母様、これで私は許されますか?」
「ん〜そうね……一様貴方がやった行為は神の神罰を受けても文句は言えないレベルの事をしたのであって、でも、ゴミが別に良いって言ってるからいいのかな〜?」
何ともあやふやな返答にシルフィーは困った顔をした。
「願いですか……そうですね…………」
「何か、あるのですか?」
「それって二、三個くらいお願いしてもいいんですか?」
シルフィーとレストは互いに顔を合わせ頷きあう。
「それくらいでトントンになるかな? お願いの度合いにもよるけど」
レストはシルフィーに言い聞かせるようにそういうと肩を持ち、慰めるように背中をさすった。
「お母様……私死ななくてもいいんです……」
「えぇ、そうよ。その代わりにいくつかの願いを聞き届けなければならない。取り敢えずこの人を元の世界へと戻す所から始めないと行けないわ。さて、どうしたものでしょうか?」
ん? 雲行きが怪しくなっている気がする……?
「元の世界へと戻るには契約の契りを破き、契約をした者、された者の唇を合わせなければならない……と言う何とも面倒くさいものがあってね……」
「お母様、それって……」
なんだ〜このへんな空気は?
とぼけた顔をし二人の表情を眺めていると。
「つまりどう言う事だってばよ?」
「つまりはね、キスをしなければ貴方は戻れない。シルフィーはキスをすれば貴方と結婚しなくてはならないと言うわけなの。それでね、この子そう言う事に疎いというか男性陣が寄ってこないというか……」
「お母様それは違います。あれは男どもが弱くて稽古をつけてやって……」
もじもじしながらシルフィーは講義するが、頭に鉄拳制裁をくらいうずくまっている。
「へぇー、え? どうしてキスをしたら結婚をしなくてはならないのですか? 嫌ですよこんな大剣持った女の子。いつ粉微塵に刻まれるかわからないですし……」
「それもそうね……」
「お母様!!! そこまではしませんよ」
そこまでってなに? それよりもマシな事であって死ぬかもしれない事には変わりないって事じゃないか?
俺が自身の身を案じているの扉の隙間から目が見えた。
その目と俺の目をじーっと合わせていると、舌打ちが聞こえました。
多分これはリアだな。うん、間違いなくリアだ。唾を吐き捨てるタイミングがリアそのものだ。
あれ? 俺いつの間に唾吐きソムリエになったんだろう。
そんな事を考えていると、レストが扉を勢いよく蹴飛ばし、その後ろにいるであろリアを吹き飛ばす形で扉は開いた。
「おぅ、バカジカラ!」
「あ?」
「いえ、なんでもないです。いつもと同じく美しいレストさんです」
「そう、おだてても蹴りしかあげられないわよ」
うん、いらね。
「ご遠慮いたしまーす」
「あら、そう?」
どこか残念がるレストさんは廊下に伸びているリアを片手で掴み上げ、顔に強烈なビンタをかました。
「あれは痛いやつや〜」
痛みに目を覚ましたリアは必死に抵抗しレストの手から離れようとするが鳩尾に重過ぎる腹パンをくらい轟沈した。
「まさに大破か……」
シルフィーが無表情のままリアを見ていた。
まるで、私には来ませんようにと祈るように……。
てか、俺にも来て欲しくないのだけど……。
どさり、地面に落とされたリアはお腹を抑えてうずくまっている。
「ひぃっ!」
短く悲鳴をあげ、俺は腰を抜かす。
「さて、お話の続きをしましょうか?」
いつもと変わらない笑顔がとても怖いです!
生唾を二人して飲み込み、リアの身代わりに感謝をした。
(リア、ありがとう)
(妹よ、安らかに眠れ)
俺たち二人をうらめしそうに睨むリアはまだ死んでいないようだ。
「それじゃあ、シルフィー。契約の書を出しなさい」
「は、はい〜お、お母様」
震えた声でシルフィーは契約の書を母親に渡した。
淡く黄緑色に光るその光を纏ったその画用紙みたいな紙。
長さ二十センチ、横幅十五センチ程度の紙をビリビリと破り捨てるレスト。
その様子を目を見張るシルフィー。
「なんでそんなに簡単に破れるの?」
「あれ、そんなに硬いのか?」
「いいえ、違うわ。あれ、破るたびに身体中に激痛とかなり酷い下痢を催すの。破る人は必ず便秘で痛みに疎い人がやるんだけど……まさかお母様が出来たなんて……」
なにその嫌がらせみたいなやつ。
よく分からない契約破棄の儀式は最悪の形で幕を開けた。
レストの表情が見る見るうちに青く、そしておトイレに行きたそうな顔をしてゆく。
足をバタバタさせ、今にも漏れそうだ。
「あ、あの……大丈夫ですか?」
「今、話しかけないで貰えますか?」
「あ、はい」
痛みには強くとも下痢には弱いのか?
そんな事を考えていると、冷ややかな風が頬を撫でた気がした。
目をパチクリさせているとレストが半目で死にそうな顔をしている。
あれはダメなやつや。
「お化粧直しでも行って来たらどうですか?」
「…………そ、そうね……ちょっとお花を摘んでくるわ」
がっつり内股になり、生まれたての子ヤギのような歩き方でレストは部屋から出て行った。因みに、ちょっと漏れていた事を俺は知っていた。やべ、考えただけで刺されるかもしれない……。
「はぁ、後は契りの接吻だけですね……」
汚物を見るかの様な目をし、口をゆすぐシルフィー。未だに床で伸びているリア。そして、未だに状況が飲み込めない俺は固まっていた。
「えーと、別にほっぺとかでもいいんですよ……」
「ダメなんです! 契約の契りは口でないとダメなんです。一般的には神獣とか霊獣なのでそういうことにはならないんですけど、人と接吻するという事は…………そ、その……」
顔を赤くし、もじもじと体をくねらせる。
泣きそうな顔になり、自身のほっぺをペチンとビンタをした。
気合いを入れるためなのだろか?
シルフィーは俺の顔を両手で掴み、逃げられない様にした。
「ちょ、ちょっと待ってよ。俺の準備が……」
「ん〜〜」
シルフィーは目を瞑る。
顔をがっしりと掴まれている俺は抵抗も逃げることも出来ず、ただそれを受け入れることしかできなかった。
唇と唇がそっと重なる。柔らかい食感と少し甘酸っぱい匂い、少しだけ涙が溢れた。
嬉しさと、感動と、罪悪感が入り混じる。
顔を赤らめ、シルフィーは顔を離した。
唾がたらりと二人の口から伸び妖艶さを物語る。
俺は心臓の鼓動を抑えることができなかった。
早まる心臓、そして現れる紫色に輝く小さめの魔法陣。いつもの幾何学模様が光を発しながら浮かび上がる。
ジェットコースターの様な浮遊感を感じる。
「待って!!」
リアが目を覚まし、シルフィーの背に手をかけた。
その様子をレストはドアの隙間から見ていた。
(ムフフ、これであの子は用済み……これで子供でも産んで戻って来てくれればこの家も安泰だわ〜あの人が夢見た妄言もこれで事実となる。リアには少しだけ悪いけどシルフィーには子種の苗床になってもらうわ〜)
ほくそ笑むレストは影に消え、自身も魔法陣の中へと消えて行くのだった……。
「ちょ! リア離しなさい!! 貴女まであちらに行くことになるのよ」
「姉様と一緒がいい!!!」
その時、眩いばかりの光が俺たちを包み込む様に輝いた。
そして、俺たちは俺の部屋へと戻ったのだった……。
◇
「痛いな〜って、あれ? ここ俺の家じゃん?」
「どうやら成功した様ですね……ある一つを除いて……」
「ゴミ一人と姉様を一緒にするのは何かと危険かも思って付いて来ました」
リアはお腹を抑えていた。まだレストに蹴られた所が痛むのだろう。
時計の針を見ると俺だ飛ばされた時間からそう長くは経っていない。
あれだけの時間あの場にいたはずなのにこちらと彼方では時間の差があるということなのだろうか?
ピーンポーン
インターホンを押す音が聞こえた。
まずい、この部屋の状況とこの美少女二人組のペアは非常にまずい……この状況を見られたら俺がこの子達を連れ回し犯したとか思われる……やばい!!
「は〜い?」
リアが迷わず玄関に向かい扉を開けた。
「ちょ! 何してんのーー!!」
俺が声をかける暇もなく開けられた扉の先には妙に顔が赤いレストさんがいた……。
「え、なして?」
レストは土足のまま俺の部屋に上がりあたりを軽く物色し始めた。
時折俺の顔を確認し開けてはいけないところ良いところを見極めている。
何か察してくれているのだろうか?
俺の秘蔵のコレクションは開けられずに済んだ……。
が……その他諸々は全て曝け出されるのであった。
「……グスンーー俺何かしたかな?」
一通り満足したレストさんはまるで嵐が過ぎ去ったかのようにいなくなっていた。
「……」
「……」
取り残された俺たちは口を開けて呆然としていた。
空気を変えようとシルフィーが大剣を床に下ろした。
ピーンポーン
またまたインターホンが鳴った。
今度は誰だよとややヤケクソ気味で扉を開けると、大家さんがいた。
「先ほど大きな物音がすると下の階の人から苦情が来たので見にきたのですが。何かあったんですか?」
「……その……えっと……」
俺が困った表情をしているとリアが俺の前に飛び出してきた。
さながらポケ◯ンの如く。
「えっとですね……色々ありました」
え、何そのパッとしない言い訳というか何というか……うん、それは無いわ〜。
「そ、そう……色々あったのね。まだ若いしそりゃ色々あるわよね……男の子なんだもん」
どこか大家さんが遠い目をしているような気がしたけど、俺はあえて見て見ぬ振りをした。と言うか、大家さんの反応が少しだけババ臭いです。そして、俺を見るときなんだか大人になったね! みたいな目はやめて下さい。死んでしまいます。
何故か納得したような顔をした大家さんは扉を閉めてどこかへ行ってしまった。
半ば諦めていたが今では全部諦めました……。
だって仕方ないじゃん、なんか同情までされたんだよ……これ以上傷つきたくはありませんよ〜!
俺が葛藤している間、シルフィーは居間でお茶をすすっていた。
「おい、何飲んでんねん!! それ、賞味期限過ぎてるよ……」
ギロリと俺を睨む二つの眼光、サブイボが立ちそうでした。
シルフィーは口に含んだお茶をその場で吐き出し、コップを俺に投げつけてきた。ので、俺はそれを全力回避! そして、俺の奥にい、やらよたリアにクリティカルヒットしたのだった。
◇
すっかりずぶ濡れになったリアはお風呂に行った。
初めて何が起こったか分からず挙動不審な行動をとっていたが、次第に自信がかけられた謎の液体が腐っていることに気がついたらしい。
その後は想像に容易いだろう。
大剣を持って暴れ出したリア、それを止めようと俺は邁進するが、その抵抗むなしくシルフィーがリアを大剣の縁でペコリッと殴った。
え? 俺が止めようとしていたのはリアではなくシルフィーの方です。だって妹の事をいじめて笑う人だよ、そりゃリアが切れればシルフィーは面白がってやるに決まっている。
お風呂に行く半泣きのリアの背中を見送り、シルフィーへと向き直った。
「んで、当分の目標というかルールをを決めたいと思います。いいですか?」
「どうしたんですか、今更そんなに固くなって誓いのキスまでした私達ですよ……その、シルフィーって呼んでください。その愛してるって言ってください」
「……ごめん、ちょっと席を外すね」
◇
え、あれ何? 気持ち悪いんだけど……。
なんであんなに顔を赤らめてるの?
鳥肌立ってきた……怖い通り越して気持ち悪いんだけど……。
トイレに隠れている俺は胸元を抑え、気持ち悪そうにしていた。
(えぇ……何あの態度。チョロインかよ。やめてよ〜そういうの嫌いなんだからさー)
心の声を声を大にして言っていると、ノックされた。
「聞こえてますからねー」
レストさんやい、いつの間に居たんですか?さっき帰ったじゃないですか。怖いんですけど……。
「瞬間移動です」
「あ、はい……」
この人チートだったわー存在自体がチートな人に俺何言ってんだろう?
わけわかめな支離滅裂なことを心の中で口走っていると、再度扉がノックされた。
「ワカメは好きではありませんよー」
「あ、はい」
(聞いてねー)
「はい、聞かれてませんよ」
「あ、はい」
(だめだ、勝てる気がし一ミリたりとも湧かない)
「はい、勝てないと思います」
やめよ、この人には今後一生逆らわない。
「分かればいいですよ。こっちも、腐ったバナナの皮をあなたの顔につけなくてすみますから」
「あ、はい」
(え、え? 何持ってきてるのあの人、バカなの?)
「天才です」
のほほんとした空気から出される殺気やめて下さい。死んでしまいます。
うさぎ並みのストレス値しか持ってないので、これ以上やられたら死んでしまいます。本当に……。
「分かりました」
スッと消えたレストさんは何処へ。
ゆっくりと扉を開けると、そこにはシルフィーとリアの姿が、なぜか恥ずかしがっているシルフィーとリアなんだけど、あれ? 大剣を担いでいないじゃないか?
何かあったのか?
「お母様に言われたんです。この世界ではこんなもの不要と」
「だから、持ってないと?」
「はい……」
今にも消えてしまいそうになる声でシルフィーは言う。
次第にむすっとし始めたリアはとりあえず置いておくとして、今日はもう、疲れたので寝ることにした。
時刻は……時計壊れてるから分かんねー。
明日買いにこ。取り敢えず今日は寝る。
おやすみ。




