80 偉大なるマンネリ(「タイムボカン」)
「タイムボカン」というアニメがあります。
今やリアルタイムで見た人というのも少ないのではないかと思いますが、一世を風靡した作品です。
好評故に二度の放映期間延長を経て、「ヤッターマン」から「イタダキマン」までのタイムボカンシリーズが製作されたほどです。
「タイムボカン」の基本設定は、こんな感じ。
タイムマシン:タイムボカンの試運転に出掛けた木江田博士の代わりにオウムのペラ助が乗って帰ってきた。
ペラ助は、妻とのケンカから逃げるため、木江田博士が降りて無人になったタイムボカンを乗っ取ってしまったのだった。
木江田博士が置き去りにされた時代はどこかわからない。
ペラ助が宝石──ダイナモンドを持っていたことから、マージョ一味は木江田博士のいる時代へ行こうとする。
マージョ一味のグロッキーは、タイムボカンの技術を盗むために木江田博士の助手として潜り込んでいたのだった。
グロッキーは、その技術でタイムマシン:タイムガイコッツを作り、一味でダイナモンドのある時代を目指す。
木江田博士の娘:淳子はは、もう1人の助手:丹平と共に博士のいる時代を探すことになる。
こうして、ペラ助のおぼろげな記憶やシュークリーム目当ての嘘に踊らされながら、両陣営がダイナモンドのある時代を追い求めることになる。
意外ときっちりした背景設定です。
実は、当初の段階では、丹平達は博士を、マージョ一味はダイナモンドを求めているので、競争する必然性は乏しかったりします。
まぁ、丹平達にしてもあわよくばと思ってはいるので、違和感があるほどではないのですが。
当初、タイムボカン(単にボカンとも呼ぶ)は1機だけだったのですが、木江田博士救出後は3機に増えます。
この救出が、木江田博士とペラ助の妻が未来人に攫われて現代に現れたところで未来人を倒して助けたというもので、結局博士がどの時代にいたのかはわかりませんでした。
呆れたことに、博士自身も自分がどの時代にいたのか覚えていない有様で、以後、両陣営はダイナモンド争奪戦を繰り広げることになります。
ちなみに、この時未来人が乗っていたタイムマシンを改造したのが2号機であるドタバッタンであり、完全新造が3号機クワガッタンです。
これに伴い、1号機はメカブトンと呼ばれることが多くなります(それまでは主に「タイムボカン」と呼ばれていた)。
正式名称はめっちゃ長くて、
タイムボカン1号タイムメカブトン
タイムボカン2号タイムドタバッタン
タイムボカン3号タイムクワガッタン
となっています。
マージョは「ドタバッタン」が覚えられなくて「ドッタリバッタリ」と読んでいました。ナレーターも一度間違えてましたね。
それぞれに小型機が2機
メカブトン……テントウキとヤゴマリン
ドタバッタン…ヘリボタルとシャクトリン
クワガッタン…ピーチクリンとダンゴロリン
搭載されていて、必要に応じて別行動を取ったりします。
タイムボカン各機は、意外と簡単に壊れるので、いつもガイコッツとの戦いでは満身創痍です。
メカブトンは角と羽、ドタバッタンは脚、クワガッタンは羽と、壊されやすい場所も大体決まっていました。
序盤は割と普通に戦っていたと思うのですが、いつの間にか“ボカンが絶体絶命のピンチに陥ってトドメを刺されそうになるが三悪のミスなどで逆転する”という流れになりました。
挿入歌「チュク・チュク・チャン」は、かなり勇ましい曲なんですが。
三悪のグロッキーが「今週のハイライト!」と言うとガイコツのラッパ隊メカがファンファーレを鳴らし、トドメの武器のボタンを押すという流れですが、負けが込んでくると、“誰がボタンを押すか”を押しつけあうようになり、それで手間食ってる間に反撃を受けるとかするわけです。
圧倒的に有利だったはずの三悪が、ちょっとしたミスとか、誰がトドメのボタンを押すかとかで無駄に時間が掛かったせいで負けてしまう、という展開がデフォでした。
すごく印象に残っている大逆転が、“動くものをどこまでも追い続けるミサイル”で、追い詰められて身動きできなくなったタイムボカン(たしかクワガッタン)の車輪が弾いた小石がガイコッツの方に転がっていき、それを追いかけたミサイルがガイコッツに命中した、というものでした。
ボカン側が動けなくて焦っているのと、小石が軽やかに跳ねていくのと、余裕ぶちかまして爆発を待っている三悪が、代わる代わる映るのが面白かったです。
何が面白いって、ボカン側はなんとか移動しようと必死になっているのにそれはうまくいかず、偶然弾いた小石(必死になった結果ではあるけど)が突破口というか怪我の功名的に勝っちゃうのがいいのです。
この辺りは「タイムボカン」特有の展開で、後続の「ヤッターマン」ではなくなった部分です。
「タイムボカン」では、等身大戦はほぼ負け、メカ戦でも押され気味ですが、「ヤッターマン」以降は等身大戦で勝ち、メカ戦でも勝ち、という具合に善側が強くなっています。
おそらく「タイムボカン」での“どうやって逆転するか”がネタ的に苦しかったせいだと思います。
逆転劇が「タイムボカン」の魅力でしたし、5クールも続いた理由でもあるし、次回作がオファーされた理由でもあるのですが、次回作もこれでは飽きられてしまうのが見え見えでした。
「今週のハイライト」の代わりが「今週のビックリドッキリメカ!」なわけです。
そのため、次作「ヤッターマン」では、善側がトドメを刺すことになったのです。
そういう意味で、「ヤッターマン」以降の作品は「ヤッターマンシリーズ」と呼んだ方が正解なんじゃないかってくらい「タイムボカン」のコンセプトと離れています。
あと、「ヤッターマン」のみ、時間移動しません。
ドロンボーだけがやられた後、連結自転車で帰ってくるのは、舞台が現代で、地理的移動だけで帰れるから。ほかのシリーズでは、タイムマシン自体が壊れると帰ってこられないのです。
ただ、「ヤッターマン」は明確に「タイムボカン」の後継であり、善側3人(ロボット含む)と三悪、ナレーションの声優が全員残っています。
ペラ助役の滝口順平さんもドクロベー役で出演していますし。
また、「タイムボカンは今週で終わり。来週からはタイムガイコッツが始まります」のようなメタなネタも、「全国一千万の女子高生の皆さ~ん」などに引き継がれています。
地味に、EDのイントロも同じフレーズが使われているくらい繋がりが意識されています。
ああ、そういえば、ヤッターアンコウがタイムマシンに改造された回では、ドロンボーがタイムマシンを作る際、「タイムボカン」のEDの替え歌を歌ってたりしましたね。「なんだか懐かしい」とか言いながら。
アンコウが改造されたのは、ほかのメカは全部乗り込むタイプじゃないから。アンコウだけ潜水艦なので密閉型なんですよね。
ちなみに、当時は基本2クール(26話)ごとに契約更新するスタイルが主流で、そこから1クールか2クール延長する感じでした。
「科学忍者隊ガッチャマン」は、2クールごとの延長をしていたようで、2クールごとに最終回的山場が来るようになっています。
「タイムボカン」の場合も、木江田博士が帰ってきてドタバッタンが登場するのが3クール目1話である27話であり、これが延長に伴う強化策であることがわかります。
これだけ続いた「タイムボカン」ですが、最終回は非常にマヌケです。
なんと、ダイナモンドがあったのは、木江田博士の研究所とマージョの屋敷の中間でした。つまり現代です。
いつもいつも三悪がボカン側の情報を盗むために通ってきたルートです。
この地図がAパートラストにドンと表示されて視覚的にマヌケさを感じさせつつ、CM明けのBパートに続くのです。
しかも、ダイナモンドは、空気に触れていると形質変化を起こすため、ただの石になってしまったというオチが付きました。
これにより、ガイコッツ建造のために私財を消費してきたマージョは無一文になったのです。
この辺が「タイムボカン」の救いのないところというか、雑なところです。
疑問に思いませんが?
木江田博士がタイムボカンの試運転で行った時代が、現代の自分の家の裏なんですよ?
それなら歩いて帰ってこられますよね? タイムマシンの試運転としてそれはどうなの?
少なくとも木江田博士復帰後に“どの時代のどこだったか思い出せない”とか、深刻なボケの症状が出てませんか?
このいい加減な幕の引き方は、このシリーズでは結構あるパターンでした。
「ヤッターマン」では、探していたドクロストーンは宝の地図ではなくドクロベーの本体で、解散した三悪が三叉路で別れた後、その道が後でまた合流しているのが映る、みたいなしょうもないものです。
長く続いた人気シリーズだけに、名言というか名台詞も多く生み出されました。
「豚もおだてりゃ木に登る」とか、格言めいたものまであります。
ネット通販でものを買うことを意味する「ポチる」も、「ヤッターマン」のボヤッキーがボタンを押す時に発する「ポチッとな」に由来しています。
既に元ネタさえ知らずに使っている人がほとんどでしょうが、それくらい世間に溶け込んだ作品だったのです。
「ヤッターマン」に続く「ゼンダマン」では、キャストがかなり変更されますが、三悪とナレーターはそのまま残りました(「逆転イッパツマン」のみ富山敬氏がナレーターでなく主役)。
三悪と富山さんがいるからこそ「タイムボカン」シリーズなのです。
既にこの4人の方々は皆様鬼籍に入ってしまいましたが、「偉大なマンネリ」は、この方々だったからこそのものだったと思います。




