79 戦場までは3マイル(機動戦士ガンダム0080~ポケットの中の戦争~)
「機動戦士ガンダム0080~ポケットの中の戦争~」は、シリーズ屈指の異色作です。
何が変わってるって、主人公がガンダムに乗らないどころかモビルスーツパイロットですらないのです。
最強の主人公が誰かは人によって色々でしょうが、戦って最弱の主人公が誰かと言ったら、本作の主人公アル以外を挙げる人はいないでしょう。
主人公アル──アルフレッド・イズルハ──は、サイド6に住む11歳の男の子です。
作中時間は、タイトルに反してほとんどが宇宙世紀0079年末であり、ラストシーンのみ0080年になります。
ホワイトベースがサイド6を離れた後の、ホワイトベースが立ち寄っていないコロニーを舞台に話は進むのです。
ジオン独立戦争(1年戦争)のさなか、ややジオン寄りの立場を持った中立のサイド6において、アル達小学生男子は戦争と兵隊に憧れ、軍の階級章を模したワッペンを集めたりしています。
そんな中、実働試験のため秘密裡に持ち込まれたガンダムNT1──アレックスを奪取または破壊するために潜入したジオンの工作員部隊とアルは知り合います。
秘密を知ったアルを監視するため、部隊最若手のバーニィ──バーナード・ワイズマンがアルに接近し、懐かれました。
部隊によるガンダム強奪作戦は失敗し、バーニィ以外の部隊員は戦死、ジオン本国はコロニーごとガンダムを破壊すべく核ミサイルを積んだ巡洋艦を送り出しました。
このままでは無関係の市民が犠牲になる──バーニィはミサイル到着までにガンダムを破壊すべく罠の中にガンダムを誘い込んでザクで倒す計画を立て、アルと共に準備します。
そして、作戦を開始した頃、ミサイルを積んだ巡洋艦は連邦軍に降伏したとの報が入ります。
もう戦う必要はないと告げるため駆けつけたアルが見たのは、首を落とされたガンダムと、コクピットを貫かれたザクでした。
年が明け、新学期の朝礼で戦争が終わったとの校長の話を聞きながら、アルがひとり泣き崩れるシーンで物語は終わります。
この作品は、映像作品としては初めて富野監督が関わっていない(原作者としてクレジットはされていますが)作品です。
そして、前述のとおり、主人公はモビルスーツに乗りません。
主軸は、バーニィらジオンのガンダム強奪部隊であり、かなり地味な物語になっています。
で、ストーリーが大変よくできているんですね。
アルの台詞回しなどが少々うるさく感じるところはあるんですが、そんなガキンチョだからこそ成立するお話でもあります。
軍事関係の荷物が入ってこないかと見に行ってガンダムを見付けたり、その時そこにいた作業員から納入先を突き止めたり。
アルが、バーニィの居場所を突き止めるために交通事故を装って警察を利用したがゆえに、いざ核ミサイルの話をしても狼少年扱いされて信じてもらえないとか。
アルを監視していたためにバーニィがクリスチーナ・マッケンジー──クリス──と知り合うことになったりとか、恋愛的な部分も、アルを基点として紡がれていきます。
クリスは、アルの隣家の娘にしてガンダムのテストパイロットなわけで、ジオンのパイロットであるバーニィと、連邦のパイロットであるクリスが、お互い相手の立場を知らないまま惹かれ合い殺し合うという切なさが、とても自然に構築されていくのです。
ガンダムとザクの戦いでは、お互い敵のパイロットが誰か知らないまま戦っています。
これは、富野作品でないからこそ、原典の「ガンダム」同様、敵味方で通信がなされないからです。
「ガンダム」世界では、これが当然なんですよね。
富野作品では、「聖戦士ダンバイン」以降、戦闘中に敵パイロットと会話するようになり、「Ζガンダム」でも、ミノフスキー粒子が撒かれた戦場で電波通信するという頭の痛い描写が当たり前になっていますが。
結果的に、核ミサイルのことはサイド6では公表されることはなく、だからこそ“コロニー内でのモビルスーツ同士の戦闘”とだけ認識された事件で、連邦がコロニー内でモビルスーツの試験なんかするからジオンがやってきた、程度の話になっているわけです。
これがクリスマスのことなので、時系列的にはこの直後にア・バオア・クーの決戦が行われ、年明けの新学期の校長の挨拶で終戦が語られるわけです。
アルは、クリスがガンダムから救出されるところを見ているので、クリスがバーニィを殺したことも知っています。
バーニィがアルやクリスを救うために戦ったことも。
バーニィとクリスがお互い惹かれ合っていた、というのも、この作品の大事なポイントです。
アルを監視していたバーニィを覗きと勘違い(実際アルを覗いていたわけだけど)してバットで殴り倒したクリスと、言い訳のためにアルの腹違いの兄という設定を語ったバーニィ。
「あと1機でエースだった」とか、その場凌ぎの嘘をポンポン言えるのがバーニィなのですが、ここではいい具合に信じられています。
クリスもクリスの両親も、父の生活を壊したくないから名乗り出ないという説明に、バーニィを気に入っているようです。
そして、おそらく2人は、お互いに好意を抱いていることに気付いているでしょう。
クリスは、コロニーを去るに当たって、バーニィに会おうとしました。
多分、連絡先を交換するため。
バーニィがコロニーを離れたと聞いて、よろしく伝えてとアルに伝えたのは、脈がないと諦めてのことか、繋がりを残すためか。
バーニィにしても、死ぬとわかりきった戦いを挑むことにしたのは、エースになりたかった想いとか、夢を見させたアルへの責任とか、全滅した隊のメンバーへの想いとか、色々なものがない交ぜになった結果なのですが、そこには“クリスを死なせたくない”という想いもあったことでしょう。
そんな男の意地と見栄を想像させてくれる流れでした。
傷を負い、ガンダムを失ってコロニーを離れることになったクリスが、アルにバーニィのことを尋ねる──できればバーニィに会っていきたいというニュアンス──シーンの残酷さも特筆ものです。
その会いたい相手は、あなたが殺しちゃいました。
アルにとっては、バーニィもクリスもいい人で、自分の守りたい者を守って戦ったことも理解できていて。
それでも殺し合うことになってしまったのが、憧れていた戦争の本質で。
戦争がもたらす悲しみを体験して一歩大人になったアルと、被害に遭っていないから変わっていない友達との落差が巧く描かれています。
“ガンダム”という枠の中で、「戦争」を描いて見せた秀作だと思うのです。
ノベライズでは、バーニィが生き残った可能性が示唆されたんですが…。
そんな救いはいらないんですよ、このお話には。
みんな助かってハッピー♡ じゃ、テーマが吹っ飛んじゃうんだってば!




