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63.なりきり師、十階層突入。

 話も一段落しギルマスやマーガレット所長に少し寝るように言われホークと並んで雑魚寝する。

 ただおれの心境は簡単に寝れる程穏やかでは無かった。


 やっちまったぁー。目標達成の一歩手前でなんたる失態だ……

 おれが作者だったらウキウキ顔でグレイトワーウルフを登場させるぞ!

 『因縁の対決』とか『あの時の恨み』とかシルバさんの憂いを無くす方向にアクセル全開ベタ踏み状態にするぞ…。


 いや、あえてここはスカシの展開もありだな…。

 そうだ!そうに違いない!!そうであってくれ!!!そうに決まってる!!!!




 …はぁ、辞めよ。少なくとも今のおれにはこの世界は現実だ。

 ドラマやラノベやアニメみたいに作者なんかいないストーリーを書き直す事もできない現実の生きている世界なんだ…。


 やってしまった物は仕方ない。次の階層でグレイトワーウルフが出ない事をプライに祈ろう。



「グレイトワーウルフか…会いたくないな。」


 ボソッと一人で呟く。


 でもなんでシルバさんなんだ?シルバさんが標的になる理由が全くわからない…。

 別に転生人ってわけでも無いしその時のシルバさんは中級パーティーの内の一人だ。

 生かした理由も分からないし一体グレイトワーウルフは何がしたかったんだ?


 考えれば考える程謎だ。このまま寝て次に起きたらグレイトワーウルフが出なくてもどっちにしろ強敵が出てくるんだよな…

 あ〜あ…やだなぁ……せめてクリスタルカブトみたいに能力がわからない敵は辞めてほしいな…。



「ユウキちゃん、寝れないのならあたしが添い寝してあげましょうかぁ〜?」


「うわっ!!!いえ、結構です!もう寝ます!だから大丈夫です!」


 考え事してたら目の前に突然化け…マーガレット所長が現れた。

 驚いてホークが寝てるにも関わらず大声を出してしまった。



「ん〜…ユウキ…どうしたの…?」


「なんでもないよ。ごめんな大きな声出して。ゆっくり寝てくれ。」


「ん〜……。」


 よかった。完全には起きなかったみたいだ。ホークはまた即寝してくれた。



「マーガレット所長!ホークが起きちゃうでしょ!辞めてくださいよ!」


 小声でマーガレット所長にクレームを入れる。


「だってぇ〜、あなた達のキャワイイ寝顔を見ようと思って忍び寄ったのにぃ、ユウキちゃん起きてるんだもの。」


「忍び寄らないでください!何するつもりだったんですか!」


「乙女にそんなこと言わせるなんてユウキちゃんのイ・ケ・ズ!

それより明日はボスよ。あなたは本当に寝なさい。戦闘でもたないわよ!」


 マーガレット所長が語尾を伸ばすのを辞め忠告してくる。これはこれで怖いんだよな……



「わかりました。もう寝ますから向こう行ってください。おれ他に慣れてない気配があると寝れない体質なんで…。」


 もちろんそんな体質ではない。



「わかったわぁ〜。それならあたしはここを離れるわぁ〜。でもねユウキちゃん、これだけは覚えておいて!」


「? なんですか?」


「あたし腕枕得意なの!」


「早くどっか行けぇー!!!」


 なんだよその含んだような言い方!重要な事でも言われるかと思ったのに今後一生必要の無い情報だったよ!



「んん゛〜………スー…スー…」


 危ない…またホークを起こすところだった…ここまで来るのに相当疲れも溜まっているだろう。寝れる内に寝かしておいてやりたい。


 もうマーガレット所長は相手にしないでおれも寝よう。

 おれはマーガレット所長に背中を向けやけくそ気味に寝る。



「おやすみぃ〜♪ボーイズ。」


 足音が離れていった。それに安心したのかおれもすぐに寝てしまった。








「キ君……ユウキ君。そろそろ起きようか。」


「うーん…」


「おはよう、ユウキ君。ホーク君ももう起きてるよ。」


「おはようございます…んー身体痛って…あぁそうだった、ここダンジョンだ……」


 久しぶりにガッツリ寝た気がする。今までは寝れても1時間とか少ない仮眠だったもんな…


 そういやダンジョンに入ってどの位経ったんだろう?

 明るさも天気も変わらないので時間の感覚がつかめない。



「地面で寝るのは慣れてないみたいだね?これからもダンジョンに行くなら早く慣れないとね。

それと今日は僕達がいるからいいけどダンジョンでの熟睡も辞めた方がいい。いつ敵が襲ってくるかわからないからね…。」


 あっ、いつものシルバさんだ。昨日あんな事を言った手前もっと避けられるかなって思ってたけどシルバさんはいつもと変わらなかった。



「おはようございますシルバさん。あの…昨日は生意気な事言ってすいませんでした…」


「いいんだ。僕もあれから君達に言われた事をよく考えてみたんだ。

確かに僕は彼等に申し訳無いって言う僕の事しか考えてなかった。シード達の気持ちを考えた事が無かったんだって気付かされたよ…

まだまだ時間はかかりそうだしこの思いが変化するのかわからないけど、これからしっかり考えていくよ。」


 よかった…少しでも前向きになれたなら大きな前進だ。

 悪いのはグレイトワーウルフなのにシルバさんがその責任を負う必要はないんだ…。


 ……グレイトワーウルフ!!!



「ユウキ君、もうすぐ十階層に出発するよ。君も準備はちゃんとするんだよ。」


 しまった!昨日のマーガレット所長の夜這い未遂のせいでふて寝しちゃったんだ!

 あぁどうしよ!何も次の階層の事考えて無いぞ!



「…ユウキ君?」


「あっ、はい!大丈夫です!準備はちゃんとします!」


「そう?じゃあ階段でご飯だからね。早く来るんだよ。」


「わかりました。すぐ行きます!」


 バカかおれは!次の階層で死んじゃうかもしれないのになんでぐっすり寝てるんだよ!


 そりゃ疲れてたよ。ダンジョンに来てやっとまともに寝れたんだ。だけど今は絶対対策方法考えないとダメだろ!


 はぁ…昨日に引き続きやっちまった。完全に詰んだ。ワンチャン出てこないって可能性にかけるしか無くなったよ…。



「朝ご飯食べよ……」


 もうこうなったらヤケクソじゃ!こっちにだって3人の化け物が揃ってるんだ!他のボス同様倒してやるよ!


 考える事を放棄して結局他人任せにするしかなかった。



「ユウキ!遅いよ!はい、これユウキの分!」


 階段に行くとホークが朝ご飯を渡してくれた。



「ごめん、ありがとうホーク。」


 誰も料理ができないらしくオークの肉の干し肉とパンを食べていた。

 どうやらギルマスが持っているマジックバックにも食事やアイテムが入ってるみたいだ…。

 でもこれはインベントリと違い時間劣化してしまう。保存食なので問題ないが温かい物が食べたいよな…。



「あっ、皆さんこれもどうぞ。」


 おれは前に屋台で買っていた熱々のできたての串焼きとガルーダの止り木の主人ポポさんに作って貰ったスープを出した。


 インベントリに入れておくと時間経過がないので料理をしなくてもストックさえしていればいつでも食べられるから便利だ。



「おっ、ありがてぇ!やっぱりパーティーには料理ができる奴かインベントリなんてとんでもねぇスキルを持ってる奴がいねぇとな!」


 インベントリ持ってる奴なんておれ以外にそう簡単にいないだろ!?勇者ですらアイテムボックスだったぞ…。


 まぁスキルの書もあるし空間支配者だっているだろうから0じゃ無いと思うけど…。



「インベントリ便利ですもんね。今回の攻略で素材がウハウハです。あっ、換金の際はお願いしますね。」


「ユウキちゃん、あなたちゃんと素材も拾ってたのぉ〜?」


「もちろんですよ!おれが倒したモンスターはドロップ率100%みたいなんで…。

それにおれかホークが倒したモンスターの素材なら触らなくても収納できますし。

あっ!皆さんが倒した分はちゃんと分けてますから安心してもらって大丈夫ですよ。」


「はぁ…ユウキ君、君はまたサラッととんでもない事を……」


「えっ?」


「ドロップ率100%に触らなくても収納できるだと?なんだそれは!?お前のスキルか?」


「スキルって言うか自然と?そうなってましたけど…」


 多分ドロップ率はEXスキルのドロップアップが原因だろう。

 今までモンスターを倒して来て素材がドロップしなかった事は無かった。


 でも触らないで収納はEXスキルにないけどやってみたら最初からできたよ?これは空間支配者の初期能力なのかな?

 あれ?でもおれまだ空間支配者になった事ないんだけどな…



「ち、ちなみにどの位の素材があるのかしら?」


「そうですね…多いので言ったらトレントの大木が86本ありますね。

その内の72本がおれとホークのです。帰りはもっと取って帰りますよ!

あそこはあと一回限りのボーナスステージなんでガッツリ稼ぎますよ!」


 おれはトレントをウッドゴーレムで60体倒したけどホークもなかなか倒してたみたいだ…。

 残りはアブソープトレントに向かってる時に落ちていたのを拾っていた。


 鎮静剤を使ってしまうと元に戻ってしまう。あの階層だけは残ってほしいけどそうはうまくいかないだろう。

 なので帰りにはしっかりと経験値稼ぎをするつもりだ。



「ユ、ユウキちゃん、そんなにあってもギルドで買い取れないわよ?」


「限度があるんですよね?ちゃんと覚えてますよ。小出しにしたり、他の街で売ったり、自分達で使ったりするんで大丈夫です!」


「そう?それならいいけど…でもあなた他の街でどうやって売るつもりなの?インベントリは内緒にするんでしょ?」


「あっ…」


 そこまで考えて無かった…小さな素材ならホークのリュックでなんとかなるけどトレントの大木は無理だ…。

 マジックバック買わないといけないじゃん…インベントリがあるのに完全に無駄な買い物だ…。



「…マジックバックを買います。」


「安くても100万プライはするぞ?」


「はっ?たっか!」


「当たり前だろ!この便利な道具にはそれだけの価値があるんだよ。

お前みたいなスキルを持ってないおれたちからしたらそれでも安い位だ!」


「ちなみにギルマスのそれはどの位の容量でいくらしましたか?」


「そうだなトレントの大木なら丸々一本入れて十本分って所だな。これは300万プライしたぞ。」


 使えねぇ上に高ぇ!完全上位のスキルを持ってるのに100万も絶対に出せない。

 ましてや300万でそれって…100万プライのマジックバックの性能って絶対よくないだろ…。



「決めました。売るのは諦めます。ホーク、今度前の世界でやってたキャンプファイヤーって木を燃やす遊びを教えてあげるよ!」


「バカ早まるな!トレントの大木は定期的に依頼が入ってくる。ギルドで買取はできなくても依頼主が現れる場合だってある!

それにお前の場合丸々一本そのままの状態だろ?それなら金額の上乗せだってあるはずだ。燃やして遊ぶなんてバカな事は絶対するなよ!」


「なんだそれならそうと早く教えて下さいよ!まぁインベントリにしまっておけば問題ないですから全然大丈夫ですけどね。


あっ、でもキャンプファイヤーはやりたいな…。街だと多分迷惑だから、今度村に帰ったらやろうか!皆も多分喜ぶと思うし!きっと楽し………ハッ!!!」


 何どさくさに紛れて未来語ってんだよ…。完全に死ぬじゃん!死亡フラグまっしぐらじゃん!


 もう辞めろよ!昨日から自分で自分の首締めまくってるぞ!



「ユウキ?どうしたの?昨日からなんか変だよ?」


「変?そうかな?そんな事無いけどな!気のせいじゃないか?」


 そんな事あるよね?気のせいじゃないよね?昨日からフラグ立てまくってるよね?

 普段なら死亡フラグなんて絶対に立てたくない派の人間なのに昨日、今日と止まらない、止められない…。



「そう?ならいいけど。それより村に帰ってキャンプファイヤーもいいけどおれ武器屋さんに行ってみたいな。防具屋さんにも行きたいし街も色々回ってみたい!おいしい屋台も見付けられるかもね!やりたい事一杯あるんだ!」


 はい、トドメ頂きました!ホーク君が急にやりたい事のオンパレードを語っちゃいました…。

 笑って話すホークを止められなかった。途中で止めるなんて野暮な事はできなかったんだ…。



「そ、そうだな。街に帰れたら全部回ろうな…。」


「うん!!!」


「さてと、腹ごしらえも終わったしそろそろ十階層の攻略と行くか!」


「そうねぇ〜。いつまでもここにいても仕方ないものねぇ〜。」


 えっ?もう?ちょっとまだ心の準備が…



「次はボスフロアだからな。気合い入れてけよ!」


「はい!」


「はい…」


「なんだユウキ?ビビってんのか?シャキッとしろシャキッと!」


 背中を叩かれ元気を出すように促されるが当然出ない。

 ギルマス達はさっさと進んでしまうしもう覚悟を決めるしかなかった。


 そうして踏み込んだ十階層。五階層と同じようにエリア自体が小さく反対側の壁が見える。

 だが、森エリアで木が道を無くす。そして……

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