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勇者が村を灼きに来る ~七の勇者と第二の法~  作者: 浅海亜沙
Ep.41: 会議は踊り、されど進まず
188/229

41.4 「讃えましょう! 我らの英雄を! その威力を示す尊い犠牲に弔意を!」

 一点の曇りもない青空の下、ベリーロングアイルのグレートウォールを背にして、女王ルイーザは壇上に立つ。

 五万人の聴衆を前にだ。

 集まったのはブリタシア全土、およびその植民地である大陸の国々からの当年十三を数える少年少女、三万人。

 城門たるグレートウォールに下げられた真っ赤な幕はさながら舞台。

 その舞台に立って、女王のスピーチは例年のように始まった。


「まずは本日――戴魔(たいま)を迎えた我が子供たちに、グレートブリタシアの地と天の祝福をいたします」


 賢そうな子、愚鈍(ぐどん)そうな子供、粗暴そうな子供、優しそうな子供、そのいずれでもなさそうな子供――。

 十三ともなれば、概ねその者の個性が外見に現れると、女王は考えている。

 鉄の女として知られるルイーザ女王は、世界の頂点の一人として決して他人には(おもね)らない。作り笑いもしない。

 よって彼女が微笑むならば、その微笑みは本物だ。

 女王は――三万人の子供たちに微笑んだ。


「皆さまが持って生まれた魔力。その真価を発揮する年齢になりました。本日、皆さまが授かりましたのは生きる力です。生涯の宝であり、世界の一員として力を使う、その証明です」


 魔力は二階建てだ。

 その二階部分を、今日この日、集まった三万人が手にした。




***




「耳が痛くなってきた。オレ、そっちで休んでてもいいか?」


 オレは女王の攻撃的な祝辞から逃げようとした。


「気にするな。あの『鉄の女』は毎年同じようなこと言ってるんだぜ」

「強い魔力で社会参加、国防、学問――はぁ……」

「まともに聞くなって。そんな聖人が毎年何万人も増えてたまるか」


 ジャックは快活に笑って、オレの肩をバンバン叩く。

 ――本当にここにスティグマが来るのか?

 オレたちは報道陣に交じって、ベリーロングアイルの木立の外から見張っている。

 ジャックは狙撃銃から取り外したスコープで群衆を。

 オレは双眼鏡を手に空を見張る。


「太陽を直接見るなよ」

「知ってる」

『ジャック君、ノヴェル君、そっちも異常なしか?』

「ああ。式典は続いてる。本当にスティグマはここに来るのか?」

『――来ないと思いたいね』

「ミラ。そっちの様子はどうだ」

『こっちの準備はもうすぐ終わる。完了したらそっちに合流するから、チョロチョロすんなよ』


 ノートンとインターフェイスはロンディアで待機だ。ハンクスの私邸らしい。

 今ノートンと通信ができているのは南岸へ移動させたナイト・ミステスのお陰だ。

 ロンディアとの中継局として利用しているらしい。

 全員の交通費(・・・・・・)はアルドゥイーノたちに出してもらった。

 スティグマを迎え撃つ準備は万端――なわけはない。全然ない。

 結局、軍隊どころか警官隊からすらもいい返事をもらえていない。

 ハンクスからもはぐらかされたまま、ロンディアを追い出されてしまった。

 ジャックはハンクスを信じる構えのようだ。

 頼みの(つな)の、捕虜の開放も――新聞で一切報じられる気配がない。

 ノートンの話だと、どうも女王の圧力がかかっているって話だ。

 だからオレたちにできるのは――この子らを逃がすことだけだ。

 女王のスピーチは続いている。


「――今日祝辞を述べたブリタ軍総帥の言葉を、わたくしも城から聞いていました。本日アトモセム様のお話に感動された方もおいででしょう」


 アトモセムという空気の女神は来ていたのか。

 フィレム、スプレネムは来ていない。

 そうだろうなと思う。


「魔術は力。力とは正義を()す柱です。軍事力なくして平和はあり得ません。我々はそれを『抑止力』と呼んで暴力と区別しています」


 オレは双眼鏡を向けて、軍人っぽい集団の様子を見た。

 アレが軍人か。髭、ひげ、ヒゲ――とにかくごつい。

 少年少女と比べると(いわし)と鮫ほども差がある。同じ人間とは思えないくらいだ。

 あれがああなるとは信じたくないけど――実際、ブリタは戦争せずに植民地を沢山手に入れている。

 今鉄の女が言った力とは、そういう種類のものだ。




***




 ノヴェルが遠巻きに見たのは、世界最強とも言われるブリタ軍の首脳陣だ。

 そして更にその場には、二万人ものブリタシア軍人。

 優れた魔力を持つ者は、ブリタシア軍にスカウトされる。例えそれが新興の属国からでもだ。

 勿論、魔力は計れるものではない。

 当人にだって知れるものでもない。

 酒を飲むのと同様、この日から日々研鑽(けんさん)を積む中で己の限界を知ってゆく。

 だが軍人は、初めて攻撃的な魔術を手にした子供たちの目の輝きを見逃さない。

 魔力の多寡(たか)によらず、軍人となる素養があるのだ。

 ――戴魔式典。そして大規模スカウト。

 このスキームを持たぬ国は、強い軍隊を育てられない。

 モートガルドのような徴兵制も、パルマのような志願制も、ブリタには敵わないのだ。

 だから大勢の軍人が詰めかけ、少年らの儀式を祝い、そして物色するのだ。

 だが今日は、それだけではなかった。


「――我々を守るのは軍事力だけではありませんでした。勇者です。勇者こそ長きに(わた)って、この世界の無明(むみょう)から我々を守ってきました。しかしながら、かつての征東戦線においては助けにはなりませんでしたことは、皆さまお聞きでしょう」


 子供たちは、ざわつきこそしなかったが少し妙な空気が流れた。

 対する軍人たちは――力強く(うなず)いた。


「また近頃、勇者に関しておかしな噂を耳にされた方もいるかも知れません。わたくしは大いに失望しました。この国を背負う者として、間違いあるならそれ正さねばならない」


 今度こそ、子供たちはざわつき始めた。

 女王は一体、この場で誰のためのスピーチをしているのか?

 参列した若者たちのためでないことは明らかだ。

 集まった報道陣もばたばたと駆け出す。

 その間で、ジャックとノヴェルはきょろきょろしていた。


『ジャック君! 報告しろ!』

「待て。何か、雲行きがおかしい。女王が、スピーチの途中で――」


 軍人たちだけは、真っすぐに女王を見ていた。


「ブリタシア女王ルイーザ・ヘルメス四世の名に()いて宣言します。今日この日、我らの新しい抑止力を(もっ)て、我らは勇者と決別します」


 祝砲の準備を、と女王は軍人らに呼び掛ける。

 ノヴェルはそれを聞き逃さなかった。


「――祝砲?」


 女王の背後、グレートウォールにかけられた大きな幕が落とされた。

 ウインドソーラー城が一望できる。

 グレートウォールは城門であり、その向こうの庭は内郭(インナー・ベイリー)だ。

 そこに一式の、巨大な機械が設置されていた。

 一斉に報道陣が写真機を向け、撮影を始めた。

 重力式巨大カタパルト――トレビュシェットだ。

 内郭に堂々と復刻されたそれは、かつてウインドレザー城を守る象徴的存在だった。

 三つの垂直縦坑(たてこう)に鉄の(おもり)を投下して、一トンを超えるペイロードを街の外まで投下できる。

 ただし今日、それが投げるペイロードは――石ではなかった。

 全長およそ八メートル。

 (にぶ)く光る金属のボディ。

 なだらかで、長い円筒形が、先端で細くなっている。

 しかも、人が座るような椅子をセットした(くぼ)みまである。


「ジャック! あれはなんだ!?」

「俺が知るか!」


 ノヴェルは先ほど、軍人を鮫に例えた。

 だが間違いだ。そのカタパルトに乗せられた物体のほうが、よほど鮫に似ていた。

 ただしそれは金属で覆われており、(ひれ)の代わりに羽がついている。

 ――これが『祝砲』だってのか。

 ノヴェルが反芻(はんすう)する。


「風魔術の応力計算、更に火魔術の結晶――強酸化剤の生み出す推進力が、北半球のどこにでも我々の抑止力を届けるのです」


 彼女の言う抑止力は、巨大な鉄の塊の姿をしていた。


「人は、空を飛ぶ夢を見てきました。ドラゴンでもなく、初めて人の造った機械で空を飛ぶのに、勇敢な軍人が志願してくれました。エスター・クイン、初の空軍(・・)パイロット――どうぞ前へ」


 クインと呼ばれた男は、軍服に襟巻(えりまき)をした姿で女王の隣に来て、(ひざまず)く。

 頭をすっぽり密閉できるヘルメットを小脇に抱えていた。

 それを横に置き、クインは女王の手の甲に口づけ。

 女王が(うなず)いて許しを与えると、壇上のクインは立ち上がって両手を高々と挙げる。

 二万の軍人たちはそれに歓声で応じた。


「尚、開発にはアトモセム様の後押しがありましたこと、この場を借りて御礼を申し上げます」


 前列で瀟洒(しょうしゃ)なスカートの(すそ)を持ち上げ、軽く挨拶したのは――風の神、アトモセム。

 揚力(ようりょく)の計算や人の知らない高高度の空気の密度――そうした技術的な知恵を、彼女が授けたのだ。

 クインはステージを下り、グレートウォールを過ぎて、その機械の(そば)へと歩いていた。


「神々の授けた魔術、そしてそれを振るう人の意志。これこそが、世界最後の無明、勇者を過去のものとし、新たな歴史を開く第一歩です。今日魔術を手にした若者も、今日まで魔術を研鑽(けんさん)してきた(つわもの)も、これより共にこの道を()くのです!」


 クインはカタパルトの上に乗った長い円筒形の機械にかかった梯子を上る。

 抱えた丸い物体をすっぽりと頭に(かぶ)ると――手を振ってその機械に乗り込んだ。

 その様子をスコープで見て、ジャックは思わず舌を巻く。


「――なんだか知らないが、訓練も研究もされてるみたいだな」


 一体何が起こるのか、多くの人間は知らされていない。

 予想すらできず、聴衆は緊張した様子で見守る。


「エスター・クインの志に、国を代表して謝意を。バロンの称号を授けましょう」

「サー・クイン!」

「サー・クイン!」


 軍人らの呼び声がヒートアップしてゆく。


(たた)えましょう! 我らの英雄を! その威力を示す尊い犠牲に弔意(ちょうい)を!」

捧げ銃アームズ・トゥ・ザ・プレセント!」

「勇者と決別する威力に! 祝砲を!」

捧げ銃アームズ・トゥ・ザ・プレセント!」


 女王の声を合図に、カタパルトが少し動いた。

 ゆっくりと北北東に向け調整され、更にペイロードが首を(もた)げる。

 狙う先は――ジャックとノヴェルにははっきりと判った。

 ――アレン=ドナだ。


『向かってる! 聞こえたぞ! 抑止力だの何だの、クソみてえな言い回しが気に入らねえ!』


 ミラが通信機越しに叫んだ。

 ノヴェルも、その言い回しに違和感を覚えていた。


「あ、ああ。抑止力だの対勇者だのって――どっかで聞いたような」

「元老院のジジイどもが言いそうな――」

「それって――」


 ペイロードは白い煙を吐き始めていた。

 その煙はグレートウォールを抜けて広がり、女王をも包み込まんとする。

 女王は両手を広げ、一際力強い声で「御覧なさい!」と五万人の聴衆に呼びかけた。


「新しい抑止力――核の力(・・・)です!」


 煙は聴衆のところまで迫った。

 煙の中が赤く光った。

 がごん、と三つの錘が縦坑に落下する。

 カタパルトの歯車が(うな)り、ペイロードを跳ね上げると同時に――カタパルトはバラバラに自壊した。

 同時に、煙を貫いてペイロードが高々と撃ちあがる。

 聴衆は見上げた。

 それは放り投げられるように四、五十メートルほども真上に()び上がり、空中でやや体勢を修正し――。

 ゴアァァァッ――と聞いたこともない音と火炎を上げ、飛び去った。

 北北東の空へ向けて。

 後には強烈な風が、立ち()めた白煙を(さら)って聴衆を洗い、ベリーロングアイルの木々を揺らす。


「――」


 聴衆は、子供たちはおろか軍人までも言葉を失っている。

 笑っているのは壇上の女王だけだった。


「す――素晴らしい!!」


 女王の、まるで少女のような嬌声(きょうせい)に、聴衆は拍手すらも忘れていた。




***




「撃ちやがった!! 核とか言ってたぞ!」


 何が祝砲だ。

 祝砲であんな破壊兵器を打ち上げる奴がいてたまるか。


『城で一体何が起きてる! 核だと!?』

「女王が――勇者と決別するといって、北北東へ向けて祝砲――鉄の鮫みたいなものを飛ばした! たぶん核を積んでいる! ウェガリアから買ったんだ! あれに()けてたのは、元老院だけじゃなかった!」

『待ってくれ! 順序良く頼む! 核を!? 飛ばした!? 空へ!?』


 オレは通信機に怒鳴りながら、詰めかける報道陣とは逆へ走る。

 ベリーロングアイルの出口側だ。


『なぜだ! なぜ今、そんな無茶な真似を――』

「たぶん捕虜のことだ! 捕虜をスティグマに渡してたのを、隠せないと思って、それで――」


 軍人は歓喜でパニック。

 集まった子供たち――といっても歳はオレとそんなに変わらないが――は半分は呆然として、半分は興奮している。

 たぶんこれが、軍人の適正ってやつなんだろう。

 オレは――興奮していた。

 あの力を知ってる。

 山を揺るがすほどの爆発力。イグズスを殺し、イグズスのハンマーをぐずぐずに変形させた。

 スティグマを殺せる、唯一の望み。

 上手くいきさえすれば――でももし、もし失敗したら――。

 だからオレとジャックは、全力で走った。




***




 エスター・クインは両手できつくレバーを握っていた。

 操縦(かん)と意識から手を放してしまわないように。

 訓練での短距離飛行は経験していたが、ブリタを縦断するほどの飛行は初めてだ。

 加速の影響は強く、気絶しないように必死だ。

 この速度でパイロットを守るのは風の魔術。そして気密性の高いヘルメット。

 ただし加速度への耐性だけは、彼の適正であった。

 彼の夢は空を飛ぶことだった。

 毎年何人も、飛行実験で墜落死しているのは知っていた。それでも彼は飛びたかった。

 彼の研究に出資してくれる人もいた。

 会ったこともない、どこの誰かも知らない人物だったが、毎年彼に資金を送ってくれたのだ。

 資金だけでなく、飛行機を使ったデモの企画書や、将来の航空会社のビジネスモデルまでも。

 しかし今年はなかった。

 去年の春を最後に、手紙に返事が来ることもなかった。

 クインは自分が見放されたのだと思った。

 代わって彼を見出したのは女王だった。

 女王は空軍という新しい軍隊や、火薬を使った遠隔爆撃のプランを描いていたのだ。

 だが――遠隔爆撃に耐える軌道の計算が間に合わなかった。

 そこで浮上したのがこの有人飛行だ。

 しかし飛行に耐えたのはクインただ一人。

 自分が初の有人遠隔砲のパイロットに選ばれたとき――クインは嬉しかった。

 絶対に助からないと知っていてもだ。

 ――これで歴史に名を残せる。

 航空会社の夢は叶わなかったが。


(カレドネルは、ま、まだか)


 実際の時間ではほんの数秒から数十秒だ。

 それが彼にとっては数時間にも感じた。

 彼は重力の(かせ)を逃れ、空高く高度を上げてゆく。

 高度千――千五百。

 ターゲットは北部、カレドネルにある湖の島だ。


(あ、あ、あああ――行くぞ!)


 覚悟も何もない。

 来た。だから行く。それだけ。

 意味? 知らない。

 来た。だから行く。それだけなんだ。


「うあああああっ! いっくぞぉぉぉ」


 彼の声は誰にも届かない。

 誰にもだ。

 そう、目の前にいた、銀髪の魔人にさえ。


「あああ誰あああ――!?」


 一瞬のうちに、時間の流れが変わったかに思えた。

 時間の流れにブレーキがかかる。

 そこに誰かがいると気づいて、気付いた瞬間にはもう通り抜けているはずなのだ。

 飛翔体の速度からすれば、それは刹那(せつな)より短い0.01秒ほどで――。

 いや――それ以前に、こんなところに人間がいるわけがない。

 上昇中だ。高度は二千メートル近い。

 それなのに――男はそこに立ってこちらを(にら)んでいる。

 これは幻覚。

 きっと低酸素と高加速度が見せる、幻だ。それ以外の何かであるはずがない。

 男は、クインとの間の空間に小さな黒点を出現させた。

 黒点は、この世に存在する物体とはとても思えないほど黒かった。

 クインは視界の異常を疑う。

 それは(またた)く間に巨大化し――視界を完全に(おお)った。

 気が付くと、自分の手さえ見えることはなく、クインは、自分の――




***




 女王は勝利を確信していた。

 空の彼方へと飛んでゆく兵器を眺め、それが見えなくなるまでいつまでも見ていようと思った。

 だが――突然それが、パパッと光った。


「ば――!?」


 爆発――だと思った。

 いやそれは確かに爆発ではあったのだ。

 だが核の連鎖的大爆発よりも速く、空に現れた黒点が巨大化し、爆発を飲み込んだ。

 突如現れた黒体が、爆発を(はら)んでボコボコと(いびつ)に変形する。

 後には巨大な、そして真っ黒な物体が残る。

 対勇者の最終兵器――ノートルラントの古狸が(たくら)み、ウェガリアが(みが)いたその科学の(やいば)を、振るうのは自分だと女王は信じていた。

 それを振るって、あの男(・・・)に引導を渡すのだと。

 今、刃は振るわれた。

 だがそれはアレン=ドナには(はる)かに届かず――(はば)まれた。

 巨大な黒体は、徐々に球体へと形を整えながらこちらへ近づいている。

 女王の喉笛(のどぶえ)を目掛けて、急速に迫りくる。


「――なんだ、今の光は」

「爆発には早過ぎる」

「何が起きた」

「失敗したのか?」


 異常に気付いた軍首脳陣が、慌て始めた。

 無論、初の実戦投入だ。失敗する可能性は高かった。

 それでも失敗の仕方というものはある。

 最悪は――勇者を殺せず、刺激し、のみならず反撃の大義名分を与えてしまうこと。

 まさか向かっていようとは。

 まさか勇者たちがすでに真っすぐここに向かって、砲撃の軌道上にいようとは、彼らは知り得なかったのだ。

 女王はまだ呆然としていた。

 アトモセム神は――いなくなっている。

 子供たちはまるで待ち望んでいたかのように――。

 彼方を呆然と眺めていた。

 それ(・・)の到来を。

 詰めかけた報道陣も、女王よりそれ(・・)を撮像している。

 怒りに燃えて、空の彼方から降りてくる彼の姿を。それが背後に従えた巨大ブラックホールを。

 ウィンドソーラー城を越え、こちらへ真っすぐ空を歩いてくるのは(まぎ)れもないあの男であった。

 空を歩く魔人。七勇者の指導者。恩人。

 呼び名は様々ある。

 ただそれは、人にとって等しく災厄であった。


Episode 41完結です。

明日は更新お休みして、 23日から再開したいと思います。

Episode 42 人を喰う数式

でお会いしましょう。


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