39.1 「行こう。ブリタシア島へ」
アルドゥイノたちと別れたオレたちは、無事に車を取り戻してアムスタを発った。
フルシという国は、ガイド『北半球の歩き方』によると文化と芸術の国。『大陸ヒッチハイクガイド』によると『プライドの高さは世界一。気難しくて疲れる。貧乏人はさっさと逃げよう』と書いてある。
「どちらも本当だ。気難しく感じるのは価値観の違いとでもいおうか。無視、差別、不親切――旅人には欠かせない体験をくれる世界でも重要な国である」
口ぶりからすると褒めているつもりなんだろうけど。
オレは再びガイドに目を落とす。
するとファンゲリヲンは運転しながらそれを取り上げた。
「――ガイドブックばかり見ておる。少しは景色を楽しめ」
「いいだろ。返せよ」
「返さぬ。コンシェルジュになるのだったか? 勉強熱心なのはいいが、この本を丸暗記することはあまり良い勉強法とは言えぬ」
「――わかったよ。で、どうするんだ。橋を渡ってブリタシア島に行くのか?」
「先を急ぐこともなかろう。金もできたのだ」
「オレはそうだけどお前らは違うんじゃないのか? ――こいつもいることだし」
オレは後ろを振り返る。
狭っ苦しい後部座席には、インターフェイスという風変わりな少女が座っていた。
新しい旅の仲間だ。
こいつは何か用があってファンゲリヲンを迎えに来たはずだ。
「インターフェイスのことを気にする必要はあらぬ。そやつも旅を楽しむ」
――そうは見えないから言ってるんだけど。
***
フルシの首都アル・ペアリーズ・オ・フルシン。
ファンゲリヲンによればこの名前の長さが市民の虚栄心の現れらしい。
「長いので単に『ペアリーズ』と。尤も、ペアリーズっ子は外部の者が『ペアリーズ』と呼ぶのを嫌うがね」
気後れするような大都会だ。
まるでウェガリアかと見紛うようなごつい車が多く、せっかく広い街路が狭く感じるほど。
他では見ないようなお洒落――なんだろうか、ベリルの官僚が着ている服を派手にしたような恰好の人たちがカフェーやら路に座り込んでいる。
もちろんこの広場にもだ。
広場はそういうお洒落な人たちと、オレたちみたいな見るからにお上りさんがはっきりと分かれている。
オレなんかはまるで人前に引き出された山出しの猿。
ファンゲリヲンは何かを勘違いした年寄りの猿。
唯一、インターフェイスだけは余人の見る目が違った。
ペアリーズっ子たちはインターフェイスを指さして、ある者はうっとりと称賛し、ある者は威嚇するように歯をむき出しにする。
大変なところに来てしまったなぁ、というのが率直な感想だ。
素朴な港町が恋しくなる。
その広場の脇に、大きな美術館があるらしい。
「――美術館だって? どんな風の吹き回しだ」
「医術と美術は切っても切れぬ関係にあるのだよ。宗教ともな。だが今はそんなことは枝葉だ。どうでも良い」
美術館に入ったオレは――圧倒された。
外界とは空気が違う。
ファンゲリヲンも押し黙り、呼吸さえ変わり、館内の空気そのものを堪能するかのようだ。
芸術というヤツはデカい。
入るなり、天井と壁を覆いつくすフラスコ画。
展示物も像も絵画も、思っていたものの倍ほどもあって、とにかくデカくて精緻。
「うわぁ……すげぇ……」
思わず声が漏れる。
ファンゲリヲンがそれに耳聡く気づいて振り向いた。
咎められると思ったのだが、ファンゲリヲンは小さく頷いて「そうであろう」と誇らしげに言っただけだ。
展示物に目を奪われながら奥へ進む。
絵画にその瞬間を切り取る感性がすごいのか、切り取ったものが美しいのか、根気よく色を重ねる技術が素晴らしいのか――それともその全てが尊いのかも知れないが、オレにはハッキリとは判らない。
ファンゲリヲンは言う。
「人はここに何を観に来ているのだろうか。人それぞれだ。稀有な高級品、人の足跡、美、或いは至福――征服欲かも知らぬ」
「どれだっていうんだ。お前は答えを知ってるんだろ」
ファンゲリヲンは肩を竦めた。
「知らぬよ。珍しく、結論を決めずに訊いたまでだ。――だがそうだな、例えばソウィユノは、ここにあるものは欲望だと言った。だから壊すと」
「あいつらしいぜ」
「拙僧は反対した。ソウィユノが間違いを言うとは思わぬ。奴流にいえば芸術とは欲望の紡いだ一つの世界。だからこそ拙僧はここを守った。これを守りたいと思う。拙僧にはここにある絵の一つ、作り出すことはできないのであるからな」
オレは、そう語るファンゲリヲンの掌に、あの指輪があるのに気付いた。
デルの遺品だ。ルビーか何か、赤くて大きな宝石が嵌められた一ツ目の指輪。いつの間にインターフェイスから取り返したのだろう。
ファンゲリヲンは掌を持ち上げ、まるでその指輪に絵を見せるようにした。
「人には二つの目を持ちながら、片目でしかモノを見ない者もいる。一つの目に光を映すなら、もう片方の目には何を映すのだろうか。のう、インターフェイス」
インターフェイスはここまで一言も喋らず、おとなしくファンゲリヲンとオレに付き添っていた。
「さあ。私にはなんとも――存じ上げませんわ」
そう言いながらも、彼女はその絵を見詰めている。
『光(Light)』
そう題されたその絵は大判で、暗く殺風景な部屋の印影を写実的に描いたものだ。
右のベッドに半端な姿勢で寝そべった女性が左を指さしている。
女性は肉感的で色白。一糸纏わぬ姿だ。その長い手足、そしてタイトルはオレにリンのことを思い出させた。
左の窓から差し込む陽光。
壁際の長い姿見。窓際に置かれたテーブルの上の皿には林檎が二つあり、片方は真っ二つに切られている。それとナイフ、透明なガラスの水差し。
水差しは空っぽだった。
「インターフェイス。君にはこの女性が何を指さしているように見えるかね」
「さて、一向にわかりませんわ」
「我々は、同じものを見ているようで、実は全く違う景色を見ているのかも知れぬな」
「……」
会話が成立していない。
オレは思わずずっと眺めていた水差しから目を離して、インターフェイスをちらりと覗いた。
彼女は――絵の中の、窓から差し込む光を凝視していた。
***
巨大な吹き抜けのあるホールに出た。
そこには高い天井から一本の大きな振り子が垂れて、振り子運動を続けている。
『放浪するセイレーン氷像とリオンの振り子』
振り子の錘にあたる場所には巨大な氷像がぶら下がっており、それがオレたちの頭上を掠めてまた戻ってゆく。
リオンの振り子は知っている。
惑星の自転で、長い腕を持つ振り子の軌道が僅かに変わってゆくというアレだ。
足元に描かれた円盤には方角が刻まれていて、氷像がゆっくりとその円盤上を彷徨う趣向だ。
「元船乗りのエイブラムスがリーン川で出会ったセイレーンを、水魔術で氷像化したものだ。常温でもこの通り」
「いや、凄いことは凄いけど――なんかこの作品だけ他と違わないか? 発想が曲芸的っていうかさ――」
「振り子だけに軸がブレている――と? 上手いことを言うな」
「いや、そうは言ってないが――」
クスクスと笑い声がして振り向くと、そこには真顔のインターフェイスが立っているだけだ。
きっと気のせいだろう。
「――であろうな。エイブラムスは生涯様々な作品を物したが、一言でいえばセイレーンの美に憑りつかれていた。この作品は、彼そのものと言える。よく見たまえ」
見ていると、振り子があっちへ行った時と戻ってきたときで――セイレーンの姿が違う。
揺れながらこの氷像は姿を変えているのだ。
「彼の出会ったセイレーンの美しさを全てこの像に込めた。そしてこの作品を完成させる前に彼は没した。未完成なのだ」
はぁ――とオレは口を開けた。
「でもこれ、裏で水の魔術師が頑張ってるんだろう? エイブラムスの作品って言えるのか?」
「魔術師などおらぬ。これは、この惑星が宿す魔力を、振り子を経由して僅かに享けているのだ。氷像への結晶化は全て生前のエイブラムスが指示したもの」
「そんなことができるのか。すげえな」
「だがいずれは尽きる。この氷像は、どんどんと摩耗し、ある日ただの水になって消えてしまうだろう。その点で、他の芸術作品とはまるで異なるのだ」
――尽きる? 摩耗?
ファンゲリヲンは、今何かオレたちの知らない理に立って話しているように感じた。
そこへ、ピシッとした礼服を着た口ひげの男がすり寄ってきた。
「ファンゲリヲン様。こちらにおいででしたか」
「館長。壮健か」
「お陰様でこの通り――おもてなしが遅くなって面目もございません」
「いや良い。壮健かと尋ねて、良い返事をする者も少なくなった」
館長はオレとインターフェイスに気付いた。
「今日はお連れ様がおいでで――聡明そうなご子息とお嬢様です。キュレーターをお付けしましょう」
「年寄りの楽しみを奪うな。一通り見て帰るところだった」
「どうぞごゆるりとお過ごしください」
小声になって館長は続ける。
「ここにも手配書が出回ってございます。外にはあなた様を狙う者もおるでしょう。しかしペアリーズっ子で、パルマ皇女に尻尾を振る者は一人もおりませぬ」
「気にするな。追手など物の数にも入らぬ。ところで、預かってもらいたいものがあってな」
なんでしょう、と館長は揉み手をする。
ファンゲリヲンは、掌の中の、デルの遺品を渡した。
「これを寄贈しよう。名品である。カンパネラ生まれの、さる勇猛な男の形見と知れ」
「畏まりました。手続きをして参ります。しばしあちらでお待ちを」
館長は一ツ目のルビーの指輪を白い布に包んで、踵を返した。
「――いいのか。大事なものなんだろ」
「大事なものだからここに収めるのだ。それに――ここのほうがデル坊も喜ぶ」
ここに住みたいと言っていたからな――とファンゲリヲンは、高い天井を仰ぎ見た。
何があったかは知らないが。
オレには――振り子の周りをはしゃぎ回る小さなデル坊と、それを眺めるファンゲリヲンが、今もそこにいるように見えた。
***
ブリタ――正式には大ブリタシア・カレドネル連合帝国。その首都ロンディア市。
神聖パルマ・ノートルラント民王国と同様の連合国だが、一系の女王が専ら統べるという点で異なる。カレドネルはわずかな自治権をもつだけで国の運営には関わらない。
ジャックはジャック・トレスポンダとしては初めて、その街に戻ってきた。
たった六年。されど六年。
短いようでいろいろなことがあった。
かつて世話になった情報屋などを手繰って聞き込みをしたが、どうやらここ数日中にファンゲリヲンと思しき姿は目撃されていない。
奴らは指名手配犯だ。その情報の確度は高い。
「なぁ、もう通り過ぎちまったってことはねえのか」
ミラは憮然と言う。
「奴らが陸路なら船の方が間違いなく速い。奴らの出発が俺たちより先でも間に合うハズだ。おそらく明後日以降にはここに――」
「スティグマって奴が出てくれば、車でも列車でも浮かべて空を飛んじまう。そうしたらわからねえぞ」
「それはそうだが――ならジタバタしても追いつかん。腹を括って、数日ここで待ち受けよう」
実はミラの危惧するようなことも、何度か議題には上っている。
結論は変わらなかった。もし空を飛ばれたなら、こちらも飛べない以上アレン=ドナに先回りする方法はないのだ。
「勿論、奴らが遅れてるなら話は別だ。俺たちだって先回りをする。アレン=ドナへのルートを探る」
「例の探検隊の生き残りか?」
「そうだ。市内に住んでいる」
だがその前に――とジャックはトラウマと強がりの綯交ぜになった歪な笑いを浮かべた。
「情報収集なら、外せない場所がある」
ジャックの向かう先は第三層。
小奇麗なアパートメントの並ぶ急な坂を上ってゆく。
その脇を、不快な音を立て自動車が行き交う。
「話にゃ聞いてたが、本当に街が上下にあるんだな。いや、その意味じゃベリルもそうだが」
「慣れればただ坂が多い街ってくらいだ。街全体が一つのクソでかい建物だと思え」
「慣れる気がしねえ。さっきは空が見えていたのに、そこのアパートの横からこっちにゃ空がねえ。この上を人だの車だのが通ってるんだろ? 考えられねえな」
「そのアパートが柱を兼ねてるのさ。土魔術の生んだ奇跡だな」
「奇跡とは不気味な話だ。やっぱ慣れる気がしねえ」
意外に気の小さいことを言うので、ジャックは少し笑った。
第三層に着いた。
ここから中心に向けて歩く。中心へ向けてどんどん空は少なくなってゆく。
「上なんか見てると田舎者だってバレるぞ。ここじゃあ誰も空なんか見ない」
「笑うんじゃねえ。――そういや八番街とか十番街とかあるが、外側から一番街、二番街……なのか? 層ごとに?」
「妙なことを気にする奴だな。街区の番地はちょいとややこしい。中心から一番街、二番街……だ。出来た順だ。古い方が若い番号なんだな。層とは関係ない。そこで問題です。『五番街より前は存在しない』。なぜでしょう?」
「さぁ……ぶっ潰れちまったか?」
「まさか。四番街までは、最下L層にあった。貧民街のほうが歴史が古いって事実に耐えかねた連中が、地図から番地を消したのさ」
「――ジャック、お前、この街が嫌いだろ」
「この街を好きな奴がいるとすれば――たしかにそいつほどではないな――ほら、もうすぐ市警本部だ」
市警本部――平たく言えば警察署だ。
警察署は四階建てのしっかりしたビルディングで、第四層のメインストリートを支える柱としても重要拠点である。
「殺人課のハンクス警部はいるか? 昔の部下がお礼参りに来たと言え」
「お待ちを――って――ジェイクスさん!?」
***
降りてきたハンクス警部は、ジャックを見るなり涙ぐみ、しばし無言でその肩を抱きしめた。
よせよ、とジャックが退けると今度は巨躯を揺すってミラのほうへ向かってゆく。
「万年警部のハンクスだ。こいつには世話になった」
ミラに握手を求める。
「こっちはミラ。今の仕事仲間だ。積もる話はあるが、面倒を持ってきた。ファンゲリヲンっていう年寄りの勇者を探してる」
勇者――と、ハンクスは全てを了解したようだった。
「わかった。こっちの情報は全て出す。ひとまずは――」
ハンクスは署内を振り返って両手を挙げた。
「お巡りども! ジェイクスが生きていた! ジェイクスが帰ってきたぞ!!」
署内は沸いた。
ジャックは――照れくさそうにしていた。
***
「丁度昨日捕まえた奴の話だ」
署内の会議室。
「アムスタ帰りで酷く酔っぱらってたが、なんでも水曜の夜にアムスタの通りでファンゲリヲンを見たらしい」
「水曜――二日前か」
「ビンゴだな、ジャック。奴らは陸路だ。そのままこっちへ来る可能性が高そうだ」
「最速ならもう着いてるはずだ。そうでないってことは、どこかへ寄っているのか――ハンクス、そいつは連れのガキを見なかったか?」
「ガキ? ああ――そういえば、パルマ女のケツを蹴ったガキがどうこうって――指名手配の奴か?」
そいつだ、とジャックは頷きながら、カバンから人相書きと顔写真を出した。
「今日日人相書きもないだろうが、パルマじゃ現役でな。写真はこれしかない。これがそのガキ。ノヴェル・メーンハイム」
「ふむ。全員に行き渡るかわからないが、複製しよう」
「ガキのほうは何とか生け捕りにしたい。頼めるか?」
「パルマの指名手配なら話が早い。そう通達を出そう」
ジャックは少し疑うような視線を向けた。
「――やけに協力的だな」
「疑うなジェイクス! あのときは悪かった! 本当に、上層部に囲まれておれも動けなかったんだ!」
「フィルの話じゃ、何か『大物』って話だったが」
フィルの名を出すと、ハンクスは椅子の上でがっくりと項垂れる。
「――勇者のボスさ。何者か知らんが、直接上層部に圧力をかけてきた」
「今は大丈夫なのか」
「ああ。勇者にもう以前のような影響力はない。鎧男の一件で、風向きが変わりつつある。今頃きっと、自分の尻についた火を消すので手いっぱいだ」
「だといいんだが」
果たしてそうだろうかとジャックは考える。
確かにこれまで、五人の勇者を殺し、ファンゲリヲンを追い詰めた。
だが――スティグマが本気になったようには思えないのだ。
スティグマが本気でジャックを阻止しようとしたなら、彼は今頃海の底か、良くてもベリルの白壁の染みになっているはずなのだ。
ジャックはミラの横顔をちらりと見る。
ミラも同様だ。列車の車両と一緒に谷底に落ちていてもおかしくない。
五人の勇者を殺されたことは、スティグマにとって大した痛手ではないのではないか。
「で――お前さんは、真犯人は七勇者の中にいると思うのか。誰か判ったのか」
「ああ。イアンの娘、ダリアだ。妻とフィルを殺害後、奴は戦争へ行き、成果を上げて勇者になった」
まさか、とハンクスは顔を覆う。
「あの娘が……。お前さんの言う通りイアンは犯人ではなかった、と」
「少なくとも共犯だ。車がなきゃ成立しない犯行だからな。奴は、娘の凶行をひた隠すために俺たちを騙した。いいセンいってたんだよ、俺たちは」
「イアンが守らなきゃならない相手の中で、あのとき店の中にいた娘が犯人――ってことか。ならヒポネメスはワイヤートラップにかかった、か」
たぶんな、とジャックは頷いて顔を背けた。
ハンクスはジャックに向けて訊く。
「――そいつを殺すのか」
「『そうだ』と言うと思うか? 殺人課の刑事を相手に」
ジャックはすっ呆ける。
ハンクスは続いてミラを向いた。
「こいつはやる気だぜ」
「ジェイクス! お前――」
「なんだよ。いいだろ。もう刑事じゃない。あんたのことも言わない」
「そういう問題じゃない! 相手が悪いってことだ! 死ぬぞ!」
「――かもな」
「あいつらのところへ逝くつもりか!」
ハンクスは立ち上がって激昂したが、すぐに落ち着いて座りなおす。
「おれはお前にまで死んでほしくない」
「ありがとうよ。だがその前にまず手配中のノヴェル・メーンハイムを捕まえる。それでお互い、貸し借りはナシだ」
「――手配書で機動隊を動かせる。橋と鉄道の駅を封鎖だ。警邏も強化する」
「頼む。ガキは絶対に殺すな。ファンゲリヲンは構わん。――いいな?」
ジャックはミラを見た。
ミラも頷く。
「それと、二十年前にカレドネルで犠牲になった保全探索隊の情報が欲しい。生き残りが市内に住んでるはずだ」
「ああ、それはすぐに紹介しよう」
ハンクスはメモ帳を破って走り書きをする。
「こっちは生き残りを聴取した、かつての担当刑事。そしてこっちは――ダリアの母親の現住所だ。会ってみるか?」
情報は多い方がいい、とジャックはメモを懐に仕舞った。
***
オレたちの車は、フルシを出発しようとしていた。
ペアリーズを出てしばらく走ると、巨大な橋が見えてきた。
海上に突き出す沢山の大きな白い堤防。
それを足場にして、幾つもの跳ね橋が遠くの島まで続いている。
ヴァニラ海、西の玄関口。
その島は白く霞んで見えた。
「遠くに見えるが、四キロほどだ」
ここを渡ればあとはノンストップ。
勇者たちの本拠地を目指すばかりだ。
「行こう。ブリタシア島へ」
オレがそう言うと――ファンゲリヲンは、なぜか緊張した面持ちで頷いた。
Episode39開始です。
最近じゃあ珍しく落ち着いた回になりました。
ここからはもう、こういう回はないかも知れないなぁ。