表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
勇者が村を灼きに来る ~七の勇者と第二の法~  作者: 浅海亜沙
Ep.24: 鉄、ニッケル、コイル
108/229

24.2 「オレは勇者を引き寄せることに関しちゃ、ちょっとしたもんなんだぜ」

 翌朝四時。

 まだ真っ暗なうちに、オレ達は集まった。

 昨夜は随分遅くまでかかって正直寝不足だ。

 作戦を確認する。昨日夕方に話した内容と大きな差違はなかった。

 ただ採石場に奴を(おび)き寄せる大役がオレになっていた。

 何となくそうなるんじゃないかという気はしていた。昨日誰も言い出さなかったのが不気味だったんだ。


「ミラ、本当に大丈夫なんだろうな」

「任せとけ」


 ミラは操縦席の上に登って、鉄橋のような|バケットホイールエクスカベーター《BWE》の首を渡ってゆく。

 オレはその後姿に声をかけた。


「ミラ」

「なんだよ」

「――がんばれ」

「てめえもな。せいぜい死ぬな」


 オレはノートンの部下の一人を(あて)がわれ、共にロマン街道の終わり、街の入り口へ向かうことになった。


「ノヴェルさん。ボブです。よろしく」

「よろしくボブ」


 ボブか――なんだかあまりいい予感がしない。

 ボブの運転する貴重なホイールローダーで街の入り口を目指す。これを含め、三台しか調達できなかったらしい。

 この火力式内燃機は魔力を使わないのだそうだ。


「なぁ、オレにも運転させてくれよ」

「だめです」


 明るく爽やかに笑いながらも、ボブははっきり拒否した。

 採石場からの道は、(ほこり)っぽくはあったが広く綺麗だ。ロマン街道へ向けてなだらかに下っている。

 途中、倉庫や何かの処理場はあるものの市街地は通らない。

 市街への道に合流し、左へ曲がると少ししてロマン街道に着いた。

 上手く採石場に(さそ)い込めれば被害は最小限に抑えられるだろう。

 でも採石場の向こう側はすぐに人が住む家や、操業中の処理場がある。

 何としても採石場でイグズスを止めなければならない。


「でも、君一体何者なんだい? 本当に巨人は君を狙ってくる?」

「たぶんな」

「たぶんじゃ陽動になりませんね」

「――心配すんなって。切り札もある」


 周囲が少しだけフワッと明るくなった。

 テーブルマウンテン。

 眼下に広がるそれは平らで、平原のように広々とした高地だ。

 まるでそこに築かれた巨大な長城――または城壁のような尾根の上を通っている。

 その壁はこの鉱山に続いていて、その上を通るのがロマン街道だ。

 それを挟んで東から西の地平までも丸見えだ。

 本当だ。この星は丸い。


「日の出です」


 東の地平から朝陽が昇る。

 闇のカーテンが払われるように地平は開け、壁の作る影が際立った。

 その道を来る者がある。

 バトルハンマーを手に(ほろ)付きのキャラバンを引いて、破壊を()ぶ死の王の使者だ。


「イグズスのお出ましだ」


 待ち伏せは得意戦術のつもりだが――今回ばかりは空手形だ。オレにはたった一撃浴びせることもできない。

 イグズスは(はや)る様子もなく一定のペースで淡々と、着実に近づいてくる。


「来たっ! で――でかい! 逃げましょう! 早く」

「まだだよ。もっと引き付ける」

「あんなの無理っすよ!」


 大丈夫、とオレは言った。

 オレは助手席を抜け出し、ホイールローダーの後部で立ち上がった。


「オレは勇者を引き寄せることに関しちゃ、ちょっとしたもんなんだぜ」


 ハンマーを肩に担ぎ、大声でなら会話ができるほどの距離まできた。


「遅かったなデカブツ!」

「お前――列車のガキかよ! ジャックだっけ?」


 ほんの少し肩透かしされた気分だ。オレを探してきたんじゃないのかよ。

 こっちは重機の上に立っているのに、目線の高さはまだ一メートルも上。全然合わない。

 それほど奴は巨大だ。


「ノヴェルだ! ノヴェル・メーンハイム! 覚えておけ!」

「ノヴェル……ノヴェル……」


 イグズスは考えているようだ。


「聞いたような気もするが覚えちゃいねえな! おれは名前覚えるのが苦手なんだよ!」

「これから覚えろって言ってんだよ!」

「まぁいいや。でな、お前、おれを殺してくれるんだろ? いったよな!」


 子供たちがキャラバンから顔を出した。

 明らかに敵意をこちらへ向けている。

 肩に二人、左腕に四人。そして見えにくいが――ポケットにも一人いるか?


「そうだとも! ここでお前を殺してやる! ついて来い!」


 ――釣れた!

 オレは(かが)んで、手摺(てすり)を掴む。

 ホイールローダーが旋回し、走り出す――はずだった。


「――!? ボブ!?」


 ボブは運転席で震えていた。

 震える手で操作をしようとしているが、恐怖のためかエンジンを始動することすらできない。

 イグズスはずんずんとこちらに近づいてくる。


「ボブ! ホイールローダーを出せ! ボォォォブ!!」


 ようやくエンジンが始動した。

 イグズスはハンマーを振り上げた。

 早く早く――ボブはギアを操作し、足元のペダルを踏むとホイールローダーはガコンと大きく揺れて後ろ向きに走り出した。

 思わぬ方向に走ったので、オレは思い切り前のめりに転げて顔面を強打した。


「ボブ!! 逆だ!!」


 イグズスが振り下ろしたハンマーは、ホイールローダーのバケットを(かす)めた。


「うああああっ」


 衝撃とともに世界が回る。

 辛うじて空は飛んでいない。

 ホイールローダーはその場で独楽(こま)のようにくるくると回転しているのだ。


「がはははは!」


 全方位からイグズスの笑い声が響く。

 三回転、四回転までは数えられたが――まだまだ回転は続いている。

 遠心力で鼻血がどんどん流れて飛んでゆく。


「踏み込め! ボブ!」


 急激に、ホイールローダーの大きな車輪のグリップが戻った。

 回転を脱し、ローダーは滅茶苦茶な方向へ急発進する。

 おおう? とイグズスが背後で(うな)った。


「進め! 進め!!」

「やってるよお!!」


 イグズスとの距離が開いた。

 奴はハンマーを構えるとこちらへ向けて一歩を踏み出す。

 ボブは目が回っているのか運転は滅茶苦茶で、大まかな方向はあっているものの道を外れては戻り、戻り過ぎてはまた戻りを繰り返す。

 その度上下に揺れて、振り落とされそうだ。オレが立っているのは座席でもない。辛うじて掴まっているだけだ。


「ボブ! 頼む! 真っすぐ!」


 分岐点に来た。

 右へ曲がれば採石場。直進すれば市街地だ。

 ボブはそこを真っすぐ進んだ。


「そうじゃあねえ!! こっちに行くな!! 右だ!」

「今『真っすぐ』って!!」

「悪かったよ! そういう意味じゃなかった!」


 後ろを見るとイグズスは真っすぐ追ってきている。

 このままじゃ居住区に奴を連れて突撃してしまう。

 居住区は建物が密集し、急な坂ばかり。逃げられるはずがない。


「戻れ! 右へ!」

「道がないよ!」


 オレは助手席に降りて、無理矢理ハンドルを右へ切った。

 道なき道を――上下に激しく揺れながら進む。


「どこへいく!」


 イグズスとボブが怒鳴る。

 低木の中を草木を倒しながら進み、突然視界が開けたと思うと目の前は工場の壁だった。


「危な――!」


 止まれるはずも、曲がり切れるはずもない。

 バケットが工場の壁を破壊し、オレ達は工場の中へ飛び込んだ。

 背後には穴の空いた壁。

 正面にはこれから穴を空けられる壁。

 もうこのまま突っ切るしかない。

 すぐ後ろで、イグズスが穴を拡げて――壁を一面完璧に破壊して入ってきた。


「がははは! 見つけたぞ!」


 子供たちもやんやと歓声を上げる。

 オレ達は正面の壁を突き抜けて――採石場に出た。


「やったぞ!」


 採石場で待機していた部隊は、思わぬところから現れたオレ達に騒いだが――次の瞬間、壁を破壊して現れたイグズスには更に騒いだ。


「連れて来た!」


 作戦は第一段階を完了。

 役者は揃った――第二段階へ移る。


ちょっと短いかな。

続きは明日11:00頃を予定しています。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
script?guid=on
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ