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「設けられたリミット」

 





「まずは自己紹介からだな」


 青年は短く切り揃えられた金色の髪を撫でつけ、少々どや顔で言う。過剰な自信が見て取れ、カトルは眉が寄りそうになるのを堪えるので精一杯だった。


「俺はアンバーディア・ロイ・メセス。人間界では名の知れたもんだ」

「カトル・サーペント」

「前の名はよ?」

「それは別に言わなくていいだろ」


 積極的に明かしたい情報でもない。前は前、今は今なのだ。が、彼にとってはそうでもなかったらしく、妙に身を乗り出してくる。


「歳は? ああ、前のな」

「……16」

「なんだよ俺と変わんねえのか。今はいくつだ?」

「もうじき7だけど」

「したら俺のが10、上だな」


 別に知りたくもない情報を勝手に喋っている。カトルは思う。コイツはあれだ、あまりコミュニケーションが上手くないタイプの人間だ。普段はどうか知らんが、少なくともプライベートで付き合いたいとは到底思えない。


 へらへらと笑いながら、アンバーディアは問いを続ける。


「で、なんで魔界なんかにいて普通に暮らしてるわけ?」

「なんでもなにも、気づいたら赤ん坊の姿でこっちにいて、拾われたんだよ」

「ああ、そういうの訊いてなくて」


 じゃあなんだよ。


 あんまり怒らせたりするとまた攻撃されかねないとは思いつつ、イラッときて語調が荒くなる。幸いにしてアンバーディアも気分を害さなかった。相変わらずムカつく笑みを浮かべている。


「魔界は滅ぼすべき世界、ってのが人間界での基本だぜ?」

「知らねえよ、オレは人間界……こっちの世界での人間界には行ったことねえから」

「まあ、そうだろうなー」


 どうにも彼はカトルを下に見るきらいがあった。見たがる、というのが正しいのかもしれないが、いずれにしてもあまり気持ちのいいものではなく、カトルの発言を真面目に聞いている様子もない。


 さっさと逃げる方法を考えるのがよさそうだな。ノブナガに報告して、あまり魔界に害を為すようなら最悪殺すしかないかもしれない。


 そう考えるカトルだが、魔界に思い入れがあるわけではない。単純に自分の住む地を守りたかったし、これが魔界を滅ぼすために人間界から送り込まれたのであれば結局どこかで戦うことになる。


 それが今かもしれないというのは、少し頂けないのだが。


「サーペント、お前、俺と来いよ」

「……は?」


 唐突に投げられる言葉。意味不明が過ぎ、カトルは自身の表情が顕著に変化するのを感じた。空気の読めない金髪に悟られなかったのは幸いである。


「お前も人間なんだし、それにお前ほど強い人間はそういない」

「……人間界の連中は怠け者ばかりなのか?」

「魔法兵器に頼るから訓練は雑なんだな、それが」


 魔族とは大違いだが、人間は知恵を絞って戦うというイメージは確かにある。魔族は魔族で寿命が長いせいかおっとりした性格の者が多く、よほどの努力家か才覚のある血筋の者でもなければさほど強くない。それでも人間とは比較にならないほど、身体の作りは戦闘向きなのだが。まるでそういう風に作られたみたいだと、彼は密かに疑っている。


「で、どうなんだ?」

「どうしてオレをそんな風に誘う?」

「別に~。同じ転生者のよしみっつーか。ただまあ」


 アンバーディアの青い瞳。その瞳孔が収縮し、狂喜を宿す。威嚇……にしては獰猛が過ぎるそれは、獲物を狩らんとする獣の瞳に酷似していた。


「俺に加担しないんなら殺すだけなんだけどな」

「こっちの人間界ってのは、そんな身勝手が許されるのか?」

「違うね。俺だから許される。才能があって、精神年齢もずっと高い。人間界じゃ俺は英雄も同然だからなァ!」


 カトルが砂を巻き上げながら立ち上がる。刀に手をかけ、腰を下ろしたままの自称英雄を見据えてじりじりと後退する。


 余裕の笑みをたたえたままのアンバーディア。腰を上げることもせず、ただ楽しそうに笑う。


「3日後だ」

「……何?」

「3日後、俺は魔界の侵攻を開始する」

「悪いことは言わないからやめとけ。オレなんかより強え奴は山ほどいる」

「心配してくれンのか? 嬉しいねェ」

「抜かせ。オレはテメエが嫌いだ」

「俺はお前が嫌いじゃない」

「クソ食らえ」


 口汚く罵っても効果が見られない。向こうの神経が図太いのか、あるいは今のカトルの声では迫力も何もないせいかもしれない。


 狂暴な獣を前にした時のように、とにかく目を離さず、ゆっくり下がる。だが人間界の使者はカトルを追うどころか、横になって目を閉じた。このまま殺そうとしても無駄だろうが……カトルは見逃すらしい。


 未だ身体の成長が足りない少年は、急いで主の元へと帰還する。迷子だろうが、方向がわからなかろうが、3日以内にノブナガに伝えなくてはならない。


 この男は、躊躇いなく魔族を殺すだろうから。





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