エピローグ
エピローグ
深夜に降りだした雨は、朝になっても止む事なくいつまでも激しく降り続いている。
主のいなくなった部屋に立ち、涼子はぼんやりとその写真を見つめていた。
そこには奈津子の夫の康平と一人息子の晋平の姿がある。
――私はもう楽になりたい。
奈津子の言葉を思い出す。
あれは正直な心の叫びだったのだろう。
奈津子の気持ちが痛いほどよくわかった。
何もない部屋。
奈津子は、夫と子供の復讐のためだけに生きようとしていたのだろう。それがどんなに理不尽な復讐であったとしても、奈津子にとっては何よりの生きる糧だったのだろう。
もし、安村が関わらなければ、奈津子はいつかその苦しみから抜け出すことが出来たのかもしれない。
3ヶ月も一緒に暮らしていて、奈津子の苦しみに気づいてあげられなかったことが悔しかった。
(もっと早く気づいてあげることが出来ていれば)
今更、考えても仕方のないことかもしれない。
だが、どうしても考えてしまう。
恵美の忠志への気持ち。
そして、奈津子の愛。
初めて『愛』の怖さを感じた。
(奈津子さん……)
ぼんやりと外を眺めた。
激しく雨が窓を打っている。
まるで奈津子の涙雨のように……
了