7-2
「話は聞かせてもらいました。動機についてはよくわかりました」
仙道は、立とうとしていた安村を押えつけるようにもう一度座らせてから言った。
「動機って何ですか? どうしてあなたがここに?」
「あなたに殺人教唆の疑いがあると藤井寺さんから聞いて、ここで待っていたんです」
「殺人教唆? それは残念でしたね。僕のやったことは何の罪にもならない。警察の出る幕じゃない」
安村はフンと鼻で笑って、涼子と仙道の顔を交互に見た。
「さあ、それはどうでしょう。藤井寺さんの話が終わったようなので、次は私の話を聞いてもらいます」
仙道は涼子の隣に腰を降ろすと、その鋭い視線を安村に向けた。
「何の話をするっていうんですか?」
「もちろん事件のことです」
そう言いながらも仙道は安村から目を離さなかった。
「だから、僕は何も――」
「全ての罪を山辺奈津子さんに押し付けて終わりに出来ると思ってるの?」
「どういうことですか?」
思わず涼子が仙道に訊いた。仙道が自分の知らない何かを掴んでいると直感した。
「藤井寺さんは、山辺さんが川淵さんを殺害したと思っているようですが、川淵忠志殺害は山辺さんの犯行ではないということがわかりました」
「え? でも……」
「確かに、山辺さんは川淵さんの殺害を計画していたようです。しかし、その方法は練炭を使った方法でした。彼女はそんな不確定な方法を使うことで、運命を天に任せようとしたんです。だから、車内には練炭が残され、ガムテープで目張りをされた痕があったんです」
「でも、忠志さんは確か……」
「そう、川淵さんは絞殺されたんです。残念ながら山辺さんの計画は、確実に川淵さんの死を望んでいる人間によって邪魔された。その人物は山辺さんが車を離れた後、車内に残されている川淵さんを絞殺し、車を駅裏のコンビニに移動させました。その時に練炭やガムテープは処分されました。そんなものがあったら移動させることが出来ませんからね。では、いったいなぜ犯人が車を移動させたのか、それが問題なんです。犯人はその犯行現場に車を置いておくことが出来なかったんです。そこに車があることで犯人が絞り込まれるからです」
「犯行現場って……どこなんですか?」
涼子が訊いた。安村はさっきから口を真一文字に結んで黙っている。
「ずっとそれがわからずに困ってました。しかし、残された山辺さんのパソコンを解析して、やっとそれがわかりました。多賀城です。あの日、山辺さんが多賀城駅から仙台方面の電車に乗ったことが確認出来ました。おそらく川淵さんを残したまま、電車で仙台に帰ったんでしょう」
「多賀城?」
「あなたの会社では多賀城に倉庫を持っていますね? 川淵さんが殺害されたのは、その倉庫裏と思われます。倉庫には滅多に人が訪れないそうですね。しかも、あそこなら倉庫の陰になって、周りから停めた車を見られることがありません。しかし、山辺さんがそこを犯行現場に選ぶには無理があるんです。それは鍵です。門扉を開けるための鍵が必要なんです」
そう言って、仙道は鋭い視線で黙り込んでいる安村を睨んだ。
「あなたはあの日、総務から倉庫の鍵を借りていますね。あなたは多賀城にある倉庫を、犯行現場として使うように山辺さんに提案したんでしょう」
「何のためにそんなことを?」
涼子にはその理由がわからなかった。奈津子に忠志を殺させたいのならば、わざわざ自分が出かけていく必要はないはずだ。
「確実に川淵さんを殺すためです。あなたは山辺さんが本当に川淵さんのことを殺すことが出来るかどうか不安だったんでしょう」
答えてから仙道は再び安村に視線を向けた。
「あの日の朝、あなたは仙台から多賀城駅まで電車で向った。時間や場所はあなたが山辺さんに指示したんでしょう。あなたは山辺さんがやってくる前に門を開け、倉庫に隠れて様子を見守っていた。そして、山辺さんが去った後で川淵さんを殺したんです。しかし、車をその場に残しておけば自分にも疑いがかかるかもしれない。そのため車をコンビニ前に移動させた」
「何の証拠があってそんなことを」
安村の声が震えている。
「今朝、そちらの課長さんの許可を得て、多賀城の倉庫を調べさせてもらいました。駐車場の隅から練炭が捨てられている発見されました。それと倉庫の奥からも、川淵さんの車に搭載されていたと思われるナビも見つかりました」
「そ……それだけで僕を犯人にするつもりですか」
反論するように安村は言った。だが、その声に力は感じられない。
「あなたは多賀城の倉庫に行った時、どうやって帰られたんですか?」
「え? 電車で……」
「JRの駅構内の防犯カメラは、そちらの会社で扱っているわけではないようですね。あの日、多賀城駅の防犯カメラには、仙台行きの電車に乗る山辺さんの姿が映っていました。それは車を移動させたのが山辺さんではないことを意味しています。そして、それよりも前に多賀城駅で仙台からの電車を降りるあなたの姿も映ってます。しかし、それ以降、あなたの帰る姿は映っていませんでした。あなたはどうやって帰られたんですか?」
「……」
「あなたは車をコンビニの前に置いた後、南方面へ向って現場を離れた。それはあなたがあの辺りに設置されている防犯カメラの位置を把握していたから出来たんでしょう」
「そ……それは……」
言い返そうとする安村に対して、仙道はさらに畳み掛けるように続けた。
「あなたへの容疑はそれだけじゃありません。あなたには上杉拓也殺害の容疑もかかっています」
しだいに仙道の声のボルテージが上がっていく。
「上杉?」
その名前は涼子も記憶していた。確か泉で殺されたという興信所に勤める若者だったはずだ。
「上杉拓也は川淵さんの調査をしていました。調べていたのはさっき藤井寺さんと話していた川淵さんの資料の行方でしょう。上杉拓也に仕事を依頼したのはあなたですね」
「な……何で俺が?」
「メールです」
「メール?」
怯えるような目で安村は仙道を見た。
「あなたは彼の携帯やパソコンを盗み去ったことで、彼との関係がバレないと思っていたみたいですが、上杉拓也はフリーメールを使っていました。いざという時のためにバッグアップとして利用していたようです。アクセスIDがわからなかったので、調べるのに時間がかかってしまいましたが、ネット上にメールの全てが残っていました。もちろんあなたからのメールもね。上杉拓也はあなたの依頼によって、川淵忠志の持つ資料を捜して奪おうとしていた。そんななかで川淵さんが殺された。上杉拓也は川淵さんが誰に殺されたのかをすぐに気づいてあなたを脅した。そこであなたは上杉拓也を殺さなければいけなくなった。上杉拓也の部屋から盗んだと思われるノートパソコンも見つかりました。まだ言い逃れが出来ると思っているの?」
「……」
安村は何か言おうと口を動かしたが、それは言葉にならなかった。
「今回の二つの殺人、それはどちらもあなたがやったことです」
そう言うと仙道は、うつむく安村のほうへ顔を寄せてさらに小声でささやいた。
「逃げられると思うなよ。覚悟しなさい」




