4-4
北仙台駅からマンションまではほんの10分程度の道のりだった。
その10分の間、涼子はずっと忠志のことを考えていた。
もう関係ない……。
自分にそう言い聞かせようとした。
それでも考えまいとすればするほど、今日、忠志が休んだことが気になってくる。
忠志が浮気などするはずがない。それは涼子が誰よりも知っている……はずだ。だとしたら、いったい忠志は今日、どこへ行ったのだろう?
それが気になっていた。
たった一日、周りに黙って会社を休むことがそれほど大きな問題ではないことは、涼子もわかっている。だが、それが忠志のとった行動だということを考えると、どうしても理解することが出来ない。
会社を休んだということより、それを恵美が知らないということが問題だった。
(恵美に話したほうが良いのかしら)
親友としては、伝えてあげるほうが良いような気がしている。だが、自分の心のなかには、親友としての気持ちとともに忠志を取られたという蟠りも未だに心のなかには残っていることも事実だ。
そもそも恵美が涼子の言葉を信じるかどうかもわからない。
(なんでこんなことになっちゃったんだろう)
一年前までは楽しい毎日が続いていた。
忠志のことを考えることは、何よりも幸せを感じられることだった。
涼子にとって忠志は何よりもかけがえのない存在だったし、忠志もまた自分をそう思ってくれていたはずだ。
――愛してる。
あの言葉はどこへ消えてしまったんだろう。
今更ながらに忠志との別れが胸をしめつけていた。
この胸の痛みは、今後もそう簡単には消えてくれるものではないだろう。
マンションに入り、エレベーターのボタンを押した瞬間、背後から声をかけられた。
「おかえりなさい」
振りかえると、奈津子がスーパーの袋を二つ抱えて立っている姿があった。
「あ……ただいま。どこか出かけてたんですか?」
「ちょっとスーパーに」
「珍しいですね」
「珍しい? 何がですか?」
「奈津子さん、いつもこの時間には必ず家にいるから。あ、一つ持ちますよ」
涼子は左手を出して、奈津子からスーパーの袋を一つ受け取った。隙間から玉ねぎとレタスが見えた。
「ごめんなさい。今日はちょっとお昼寝してたらいつのまにかぐっすり寝込んじゃって……ご飯も今から作るんですよ」
奈津子はちょっと舌を出して肩を竦めてみせた。
どこかその仕種が人間臭く、好感を持てた。
「へえ、奈津子さんでもそんな失敗することあるんですね。それじゃ今夜の夕食は私が作りますよ」
「でも、涼子さん仕事で疲れてるでしょ?」
「平気ですよ。今日は早かったし。それに、恵美と住んでたときは、いつも私が作ってたんですから。たまにはやらせてください」
奈津子と話しをしているだけで忠志のことを忘れることが出来る。改めて奈津子が一緒に住んでいることに感謝していた。
料理でもしていれば、忠志のことも考えずに済むかもしれない。
部屋に戻るとさっそく夕食の準備に取りかかった。奈津子も一緒にキッチンに立つ。誰かと一緒にキッチンに立つのは、小学校の家庭科の時間以来かもしれない。
涼子は少し懐かしい気持ちになった。
その時、バッグのなかで携帯の電子音が響いた。
電話は恵美からだった。
一瞬、嫌な予感がした。
――涼子……お願い……
電話に出ると、すぐに恵美の震えた声が聞こえてきた。
「何……どうしたの?」
瞬間的に、忠志のことだと涼子は思った。忠志に何かあったに違いない。
――今、警察から電話があったの。
「警察?」
涼子の口から出た言葉に、奈津子が振り向いた。
――忠志さんの車が駅裏のコンビニの前に置かれていたって……それで……忠志さんがそのなかで見つかったって……
泣き声が聞こえてくる。
「どういうこと? 忠志さんがどうかしたの?」
――死んでる……って言うの……どうしよう……涼子、一緒に……助けて……
(死んだ?)
その言葉に思わず涼子も言葉を失った。




