↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
遺界放浪録  作者: 放浪猫
PR
1/15

プロローグ まだ見ぬあなたへ

夜明け前の風が、塔の裂け目を抜けるたびに低く鳴る。


私は今、崩れかけた観測塔の最上階で、手帳を膝に広げている。天井に残された魔導灯が、息も絶え絶えの鼓動のように、淡い青を瞬かせていた。かつてこの光の下で、誰かが星の数を数えていたのだろう。窓の外では、名も知らぬ獣の遠吠えが、砂の彼方へ細く尾を引いて消えていく。


あなたがこの頁を開いているのなら、この手帳は長い眠りから覚めたのだと思う。ならば、まず挨拶を。


はじめまして。私はサフィ。歳を取った。膝は鳴り、朝は遅く、昔のように砂丘を駆け上がることもできない。それでも毎晩、こうして筆を取る。


この世界を、私は遺界(レガシア)と呼んでいる。


正しい名ではない。ただ、終わったはずのものが終わりきれずに残る場所を、ほかにどう呼べばいいのだろう。昼でも白く残る割れた月の片割れ。干上がった海の底に、船が傾いたまま並び、帆柱が風に歌う。砂に咲いた硝子の花は、触れれば祈りに似た音を立てて砕け、乗る者のいない魔導の列車は、今も決まった刻に、誰もいない駅で扉を開く。


どれも、かつて誰かが、確かに生きた証だった。


この手帳の最初の数頁は、角ばった、読みにくい字で埋まっている。私の字ではない。


あの人の字だ。


あの人はよく言っていた。「美しいから厄介なんだ」と。当時の私には、ただの偏屈に聞こえた。今なら、少しだけ分かる。美しいものは、人を立ち止まらせる。立ち止まった人間は、いつか、そこに根を下ろしてしまう。


そして、あの頃の遺界に、人はほとんどいなかった。私たちの歩いた道には、なおさら。


だから私はいつも、人に会えるかな、と思っていた。

あの人は決まって、面倒だ、と答えた。


その意味が分かるまでに、ずいぶん長い時間がかかった。


東の地平が、薄く白みはじめた。天井の魔導灯がひとつ瞬いて、静かに消える。夜明けだ。


これは、あの人が記し、私が書き継いできた記録。

宛先は、まだ分からない。


けれど、あなたに預けようと思う。

砂塵の、あの日から。

初投稿です。

描いてみたかった荒廃世界の放浪録。

再始動。よろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。