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戦国不精で何が悪い〜米作りとか面倒なのでやめました〜 ―神様のチート、無意味でしたよ。人口比10対1の東北なのに、なぜか天下が見えてきたかも―  作者: 犬童好嬉


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第71話 暗茶卿登場

発端は、そろそろ蜂蜜の収穫時になり、修平、空然、八田屋が養蜂譜に沿った採取方法を検討していた席である。


そこへ、甘味と銭と、ついでに美容の気配を嗅ぎつけた琴が加わり、話はそれなりに整いかけていた。だが、その流れを後ろから崩したのが、当の貴丸だった。


腕枕で転がりながら、鼻に指を入れては修平の着物にこすりつけ、ひとり楽しげにしていたその不精者が、ふいに口を挟む。


「それ、非効率だと思うよ? あ、えぇと……それでは手間がかかりすぎるよ」


場の視線が一斉に集まる。思いのほか真剣に聞かれたことで、貴丸は少しだけ調子に乗った。


「もっと簡単なやり方あると思う」


ぽつぽつと現代の知識を混ぜて語ると、しばしの沈黙の後、琴が静かに言った。


「それほど言うなら、貴丸も一緒にやりなさい」


「えぇ、いや、それは――」


言い訳を並べかけたところで、琴の声が重なる。


「私、この度、結衣殿と文通を始めたのです。家族になるわけですからね」


貴丸の動きが止まる。


「あなたの普段の様子、伝えたらどうなるでしょうね。腕枕でごろごろしながら、鼻に指を入れて、修平殿に――なすりつけているその様を」


そこでようやく修平が顔を上げた。


「……えっ?」


おそるおそる脇腹を見ると、確かに何か得体の知れないものが付いている。修平の肩が小さく震えた。


一方の貴丸は、内心でだけ舌打ちする。確かに結衣には良いところを見せたい。とはいえ、あの酔った勢いの“オタ芸”の奇行を見られている時点で今さらではある。


破談の話が来ていない以上、大丈夫だろう――そう結論づけかけたところで、琴がさらに畳みかけた。


「別に手伝わなくても構いませんよ。その代わり、蜂蜜を食べれるのは、実際に体を動かし働いた分だけです」


その一言で、貴丸の思考が止まる。


甘味。この時代に来て、最も不足しているものだ。しばしの逡巡ののち、貴丸はむくりと身を起こした。


「……やる」


ぼそりと呟き、視線を蜂の巣へ向ける。


「遠心分離の開発は無理だな……時間がかかる。となると……自然に垂らすか、潰して絞るか」


誰にともなく言葉を落とし、やがて顔を上げた。


「まず、養蜂譜どおりにやる分。あれは一番いい蜜になると思う。透明度も高いし、そのまま売れば高くつく。まぁ、エクストラバージンハニー、だな」


琴がすぐに眉を寄せる。「えくすと……はにー?」


八田屋も続いた。「その、えくすとら……とは、何にございます?」


貴丸は面倒そうに手を振る。


「いいや、名前はどうでもいい。一番いいやつって意味」


間を置かず、続ける。


「で、残りを潰して絞る。多少濁るけど、量は取れる。味も悪くない。それが、ボマスハニー」


八田屋がすぐに拾う。


「ぼますとは?」琴が小さくため息をついた。


「また訳のわからぬことを……」


貴丸は気にした様子もなく肩をすくめる。


「だから、二番手ってこと。一番いいやつと、その次で分ける」


一拍置いて、わずかに口元を歪める。


「一番いいやつを高級って扱いにして、残りは普通の蜂蜜として回す。分けて売ればいい」


八田屋が小さく頷いた。


「……それは、良い考えにございますな」


貴丸は肩をすくめる。


「どうせやるなら、無駄なくやりたいからね」


その声音は相変わらず気の抜けたものだったが、場の空気は確かに変わっていた。


琴に言われ、貴丸は一度は渋々ながら蜂蜜の採取に加わると口にした。


だが、わずかに間が空いたのがいけなかった。


その気の緩みとともに、貴丸はいつもの調子を取り戻し、あれこれ理由を並べては動かぬまま、話を引き延ばし始める。


結果として、採取の段取りはそこで足踏みした。


もっとも、問題はただ一つ――貴丸が出るかどうか、それだけだったのだが。




それから数日後の今日の朝食の席は、いつもより静かだった。


賑やかなはずの食卓には、慶久、琴、元伯、空然、そして今日は慶光と久秀といった大人たちだけが並んでいる。


肝心の貴丸、敦丸、希丸の三人がいない。貴丸が時間通りに現れないのは珍しくもないが、敦丸と希丸まで姿を見せないのは、少しばかり異様だった。


配膳の傍らに控えていた敏とお佳に、慶久が問いかける。


「敦丸たちはどうしたのだ」


敏は困ったように視線を落とし、言いにくそうに口を開いた。


「早朝に、貴丸様に呼ばれまして……今、貴丸様の部屋で何かをしているようでございます」


「何か?」


慶久が眉をひそめると、敏はさらに言葉を濁しながら続けた。


「……きっと、貴丸様に頼まれていた奇抜な茶色のお着物のことかと」


「奇抜な着物?」


慶久は首をかしげたが、すぐに小さく息を吐いた。貴丸の奇行は今に始まったことではない。


「まぁ、仕方あるまい。困ったものだ……」


そう言って食事が始まる。だが、その静けさは長くは続かなかった。


奥の方から、何かが動く音がする。



どこからか、くぐもった奇妙な音が響く。


「ジャッ、ジャッジャッ……ジャージャージャーン!」


妙にリズムを刻むその声に、一同が一斉に顔を向けた。


次の瞬間、縁側の障子が勢いよく――スパン、と開いた。


現れたのは、小さな“何か”が三体だった。


全身を厚手の薄茶色の布で覆い、顔はほとんど見えない。ただ目の部分だけに薄い紗が張られ、周囲を覗いている。


さらに、全身からは薄く煙の匂いが漂っていた。忌避のために燻された煙だと、慶久はすぐに察する。


思わず慶久は、口に含んでいた汁を吹きかけそうになり、慌てて咳き込んだ。


しかし、その慶久の咳こむ音とは別の音がする。


「コホー……コホー……コホー……」


三人の口から、一定のリズムで呟く声。布越しの呼吸音が、さらに異様さを際立たせる。


そのうちの一体が、前に出て叫んだ。


「堕悪主米堕だ!」


後ろの二体も同時に続こうとするが、息が合わず、声は遅れて重なり、かえって不気味なうなりのようになった。


慶久が鋭く声を上げる。


「貴丸であろう! これは何事なのだ!」


すると先頭の布の塊が、首をかしげるようにして答えた。


「暗黒卿?……じゃないよな…暗茶卿か………帝国の執行官?」


慶久は深くため息をついた。


「はぁ……お前の言っていることはさっぱり分からん。一体なんなのだ…それは」


その言葉に、布の塊に手をかけて、ようやく頭部の布を外した。


現れたのは、当然のように貴丸である。


「ぷはぁ……これは意外に暑いな」顔をあおぎながら、満足げに息を吐く。


そして腰に手を当て、片手を高く掲げた。


「今から蜂蜜を採取する!」


後ろの二体も、やや遅れて気の抜けた声で続く。


「おー……!」


その背後では、銀四郎が苦笑いしながら静かについてきていた。


慶久はこめかみを押さえる。


「まぁ、大体は分かった。蜂蜜の採取で蜂に刺されぬよう、そのような装束を用意したのだな」


三人はそろって頷いた。


その様子を見て、琴が静かに口を開く。


「そもそも、食事の後に着替えればよいではありませぬか。それに、その装束、いくつ作ったのです」


貴丸は何の悪気もなく答えた。


「あとは修平の分も作ったぞ!」


琴の眉がわずかに動く。


「ということは、その蜂蜜の採取には修平殿と、敦丸、希丸、それに貴丸も参加するのですね?」


その瞬間、貴丸は固まった。


ようやく気づいたのである。面白そうだから作ってもらっただけで、自分が参加する気など微塵もなかったのだ。


暑そうだし、蜂は危険だし、何より面倒くさい。


こっそり採取した蜂蜜だけを頂くつもりだったのである。


だが琴は容赦なく言い切った。


「貴丸の分もあるのですから、当然、貴丸も参加するのですよ。よろしいですね」


「……あい」項垂れる貴丸。


その横で希丸が呑気に言う。


「なぁ貴丸、お腹すいたから早く朝餉を食べようよ」


だが貴丸は、そこでようやく自分の状態に気づいた。


麻布を重ね、柿渋を塗り固めたその装束は、確かに簡易の防刃服としては優れているのかしれない。


目は紗で覆われ、視界もやや曇っている。頭部は脱げるようにはなっているが、手は上着と一体化し、自由には動かせない。


当然食事など、できるはずもなかった。


そこへ琴が追い打ちをかける。


「そんなもので食事はできません。脱いできなさい」


「……はい」


反論の余地もなく、貴丸はとぼとぼと自室へ向かおうとする。


そのとき、今まで静かだった敦丸がもじもじと口を開いた。


「ねぇ、貴丸……おしっこいきたい」


一瞬の沈黙。次の瞬間、食卓が一斉に慌ただしくなる。


「間に合うか!?」「急げ!」「脱がせるのが先か!?」


厚手の布装束は思った以上に厄介で、朝から騒動はさらに加速する。


それでも、どうにか間に合ったという報せが後に届くことになる。


一方で、空然がぽつりと呟いた。


「……その装束、私の分はないのですね……」


その声は小さく、どこか寂しげだった。


はじめから養蜂を手伝っていた空然。だから、最後の蜂蜜の採取まで携わりたかったのだろう。


大和田家の朝の食卓は、やはり今日も騒がしかった。

堕悪主米堕:念のため、いろいろと怖いのでルビは振りません。ご理解ください。。


貴丸が、エクストラバージンハニー、ボマスハニーと話しましたが、

この小説では、あくまで貴丸脳でのネーミングにしています。

本来は、エクストラバージン(オイル)は低温・化学処理なし・高品質の意味で、

ボマス(オイル)は搾りカスから溶剤などで抽出した物なので、実際はニュアンスが違います。

念のため、指摘があるかもしれないので、上記に記載しておきました。

一番搾りPrime Honey、二番絞りがPressed Honeyの方が正しいかもしれませんね。

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― 新着の感想 ―
複数人登場だから、堕落した無駄飯喰らい一味な感じかと思った。最初のジャは戦闘員のかけ声かと(笑)
堕が二つある+10点!
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