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戦国不精で何が悪い〜米作りとか面倒なのでやめました〜 ―神様のチート、無意味でしたよ。人口比10対1の東北なのに、なぜか天下が見えてきたかも―  作者: 犬童好嬉


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第41話と42話の間の話 農業フェイズ

どうりでおかしいなと思ったら、

なんと1話抜けておりまして、、、申し訳ありません。

第41話と42話の間の話あたりだったと。。

下書きがなぜか残っているなぁ。と思っていたんですが。

本編とはあまり関係はないのですが、

話の繋がりがおかしくなるかもしれないので、

唐突ですが、ここに急遽載せておきます。

明日にでも移動させようかと。。

今日は実右衛門の屋敷に貴丸一行が揃っていた。


敦丸、希丸、銀四郎、助九郎、空然、そしてお佳。


庭先には低く張られた縄と杭が並び、その一つひとつに作物が区分され、まるで小さな実験場のような様相を呈している。


胡麻(白・黒)、朝鮮人参、木綿、お茶の木――いずれも、同じ時期に植えられたものを、大和田の庭と実右衛門の畑で比較するための試みであった。


実右衛門――正しくは真野実右衛門といい、この地では乙名として村を束ねる男である。


農政と治め事を主としているが、いざ戦となれば騎馬で駆けることもある半農半武の気質を持ち、しかし普段は戦よりも土と人を見ることに長けていた。


彼の畑では脇百姓の仁作が黙々と手を動かし、土の癖を読むように作物を育てている。


貴丸は実右衛門の家に来ていたが、特に動く気配はなく、いつものように縁側に寝転がっていた。


事前に敦丸へ「何をどう比較するか」はすべて伝えてあるため、現地で細かく動く必要がなかったからである。


貴丸の今の状況を良く言えば、館でも畑でも自ら手を動かすよりも“結果を眺める側”に回っていると言える。


もっとも実情を正せば、単に面倒事を避けたいがために、余程のことがない限りは口と目だけで済ませたいというのが本音である。


本来であればこの場にも出たくはなかったのだが、琴の視線だけは容赦がなく、結局こうして半ば引きずられる形で同席しているのが実際のところであった。


今回の観察は順番が決まっている。まずは大和田館の庭、それから実右衛門の畑という流れだ。


最初に一同は大和田館の庭へと向かった。


お佳と助九郎が中心となって苗の状態を見て回り、敦丸がその補助に入る。貴丸は縁側に横になったまま、報告だけを聞いている。


「胡麻、良好。葉色も濃く安定しています」「木綿、発芽は揃い、乾きにも耐える様子」「茶の木、まだ幼いが枯れはなし」


助九郎が帳面に記録し、お佳が細部を確認しながら補足する。


敦丸は同じ苗を無言で見比べ、差を確かめていく。


庭の段階では、全体的に生育は安定していた。


やがて一行は、次に実右衛門の畑へ移動した。ここで初めて環境が変わる。


土はやや湿り気が強く、踏むと柔らかく沈む。


それでも貴丸の行動は変わらない。畑に着くと、草の上にそのまま横になり、空を見ているだけだった。


「こちらの胡麻、やや葉が薄いが生育は問題なし」「木綿は発芽は同じ。ただし伸びは遅い」「茶の木は庭よりわずかに弱い」


敦丸の観察が進むにつれ、差がはっきりしていく。


結果は単純だった。同じ苗でも、大和田館の庭のように水が抜ける土の方が全体的に育ちが良いようだ。


お佳が小さく息を吐く。


「……場所で、ここまで違うのですね」


助九郎は帳面を閉じかけながら頷いた。


「逆に言えば、この地の多くは庭側の条件に近い。つまり、応用できそうだな」


空然も静かに目を細める。


「荒れ地でも育つ作物、ということですな」


その言葉に、貴丸は草の上から一度だけ手を上げた。


「じゃあ、問題なしだな」


それで終わりだった。


胡麻は収穫が近く、木綿は長く実をつけ、茶はまだ時間が必要。


そして朝鮮人参は、どちらでも沈黙したままだった。


やがて風が一度だけ畑を抜け、観察の一日は静かに締めくくられた。


その後、一行は実右衛門の屋敷へと戻った。


そこで土間に設けられた簡素な座敷で今回の比較結果をまとめることとなった。


帳面を開いた助九郎が淡々と数値と所見を読み上げる。


お佳が現場の感触を補い、敦丸が差異の要点を静かに整理していく。


胡麻は安定して収穫の目処が立ち、木綿は庭側の方が明らかに伸びが良く、茶の木も同様に生育差が見られた。


結論としては一つ、水はけの良い土壌の方が、この領の主要作物には適している可能性が高いというものである。


その報告を受け、場の空気は次第に現実へと収束していった。


雑穀中心の作付けに切り替えたことで飢えは遠のいたが、その代償として収入は薄い。


領民が食うには困らぬが、富を生むには足りないという、静かな停滞が領全体に横たわっていた。


「米を減らした分、命は繋がっておりますが……このままでは村の蓄えが増えませぬな」


実右衛門が低く言うと、助九郎が帳面を閉じながら頷く。


「そうだな、新しい作物の導入が急務、ということだな。胡麻は油になる、木綿は衣になる、茶は……商い次第かな」


お佳も淡々と続ける。


「ただし、いずれも“売れる形”にしなければ意味はありません。育つだけでは足りませぬ」


空然はその言葉を聞きながら、静かに視線を庭の方へ向けていた。土と作物と人の手、その間にある目に見えない違いを探るような視線であった。


そのとき、貴丸は縁側の端でごろりと寝転んだまま、天井を見上げていた。議論の半分以上は頭の上を通り過ぎているが、特に気にする様子もない。


「まあ、そのうち何か当たるっしょ」


投げやりとも楽観ともつかぬ一言に、場の空気は一瞬だけ緩んだが、すぐに現実へ引き戻される。


助九郎とお佳は、いつの間にか並んで帳面を覗き込んでいた。


互いに言葉少なに意見を交わしながらも、その距離は妙に近い。


それを見た貴丸が、何の気なしに言った。


「お、二人は仲が良いな」


その一言は軽かった。軽すぎたとも言える。


助九郎は一瞬で耳まで赤くなり、言葉を詰まらせる。


「な、なにを……貴丸、そんなこと言うんだよ!」


一方のお佳は、視線だけをゆっくりと貴丸へ向けた。その目は氷よりも冷たかった。


貴丸はその視線に気づき、すぐさま顔を逸らす。


「いや、あの、別に深い意味はなくてだな……その…」


言葉は途中で迷子になり、貴丸は咳払い一つで強引に話題をねじ曲げる。


「まぁ、あれだ、比較検討するってのは良いってことだ!」


誰も助け舟は出さなかったが、場はそのまま次の議題へと流れていった。


庭先に残るのは、わずかに揺れた空気と、言わなければよかった一言の余韻だけであった。



乙名:村の意志決定を担う指導者層で、領主との交渉や村内の掟の運用、祭礼などを取り仕切る長老。

本百姓:自分の名義で田畑を所持し、年貢だけでなく軍役や伝馬といった諸役を負担する村の正会員。

脇百姓:本百姓から分家したり、土地を借りて耕作したりする者で、本百姓の補助的な役割を担う層。

水呑百姓:自分の土地を持たず、有力農民の被官や小作人として働き、年貢よりも労働力の提供が主な義務。

という感じです。

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