表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
戦国不精で何が悪い〜米作りとか面倒なのでやめました〜 ―神様のチート、無意味でしたよ。人口比10対1の東北なのに、なぜか天下が見えてきたかも―  作者: 犬童好嬉


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

38/50

第37話 請戸に帰る途中の桑折館02

その夜、二人は桑折の館にて、過分とも言えるもてなしを受けることとなった。


夕刻。日が落ち、薄闇が庭を覆い始める頃には、座敷に灯がともり、膳が次々と運び込まれていく。


炊きたての米の湯気がやわらかく立ちのぼり、焼き物の香ばしさが空気に溶け、静かに満ちていくその中で――いつの間にか、貴丸は場の中心に座していた。


言葉は軽やかで、返しは早く、それでいて決して騒がしくはならない。


相手の間合いを測り、懐へ入り込むその柔らかさは、年端もいかぬ子供のそれとは思えぬものだった。


武の話を振られればさらりと応じ、土地の話となれば興味深げに聞き入り、やがて自ら話題を転じて、日常の些細な出来事にまで広げていく。


その流れは淀みなく、まるで最初から組み立てられていたかのように自然であった。


やがて、ふと、貴丸が懸田殿の方へと向き直る。


「お姉様」


その一言に、場の空気がわずかに止まった。


だが、貴丸は意に介さぬ。


「初めてお目にかかった折、てっきり桑折様のご息女かと見紛いました」


あまりにも自然に、さらりと言い切る。


「そのお肌のきめ細やかさ……赤子よりもなお滑らかに見えましたし、髪もまた、実に艶やかでお美しい。まつ毛の一本に至るまで整っておられる。手も――ああ、これは日々を守られておられる方の手にございますな」


言葉は途切れることなく重なっていく。


顔、唇、指先、爪先に至るまで、視線を移すたびに賛辞が添えられ、まるで途切れることを知らぬかのようであった。


懸田殿の頬が、みるみるうちに紅を帯びていく。


普段は決して見せぬであろう柔らかな表情を浮かべ、目を伏せながらも、その口元には抑えきれぬ喜びが滲んでいた。


その様子を、桑折がちらりと横目で見る。


胸の奥に、わずかにざらりとしたものが走る。


だが――


その次の瞬間、貴丸は何事もなかったかのように向きを変えた。


「それにしても、桑折様」


今度は、桑折へと視線が向く。


「この領に足を踏み入れた途端、空気が変わりました。良い意味で、でございます。道を行き交う民の顔が皆、穏やかで……ああ、この地はよく治まっているのだと、すぐに分かりました」


言葉には押しつけがましさがない。ただ、見たままを述べているかのような自然さがある。


「父よりも、桑折様の武勇と善政のお話は、かねてより伺っております。領を守るということは、戦のみでは成り立たぬもの。まこと、見事なお働きにございます」


桑折は、思わず小さく息を吐いた。


先ほどまで胸に引っかかっていた棘が、いつの間にか消えている。


気づけば――


自分もまた、笑っていた。


やがて場は、静かな笑いに包まれていく。灯の揺らぎとともに、その和やかさはゆるやかに広がり、誰一人として、その流れから外れることはなかった。


その中で、桑折は改めて貴丸へと目を向ける。


肌は白く、日焼けの跡もない。体つきもどこか緩く、とても戦場に立つ者のそれには見えぬ。


だが――それでもなお、目を離せぬ何かがある。


人を惹きつけ、場を動かし、空気そのものを塗り替えてしまう力。


言葉一つで、人の心の向きを変える才。


桑折は、静かにそれを見定めるように――


この少年を、そう評した。(誤解です……多分、沙蚕程度に誤解です)



翌朝。


館の前に、懸田殿が見送りに立つ。


別れ際、ふと歩み寄り――貴丸の両手を、そっと取った。


「どうか、お気をつけて。またいらしてくださいね」


その声は柔らかく、どこか名残惜しさを含んでいる。


視線は、慶久ではなく――貴丸へ。


貴丸は、にこりと笑い返す。


「はい! お姉様、またぜひ参ります!」


その呼び方も、もはや自然に馴染んでいた。


桑折もまた、苦笑しながら口を開く。


「まるで我が縁者のようだな」


だが、その目はどこか惜しむように、貴丸を見ている。


そうして――


大和田の一行は、再び道へと戻った。


春の風が背を押す。


館はゆっくりと遠ざかり、やがて視界の端へと消えていく。


しばし歩いた後。


慶久が、ぽつりと呟いた。


「……普段はあれほど人見知りをするくせに、なぜ、ああも饒舌になるのだ」


貴丸は、ふう、と大きく息を吐く。


「営業スマイル……商売のおべっか………ええと、阿諛(あゆ)でっす!」


肩をすくめる。  


「銭になるなら、おらぁ、なんだってすっぞ!」


ふっと肩をすくめ、軽い調子で言い放つ。


(不労所得のためなら、たとえ火の中、水の中……いや、火は勘弁だな……)


一瞬だけ思案し、


(……ならば、砂温和(サウナ)の中と、浅瀬の水くらいで手を打とうか…)


と、妙な折り合いをつける。




慶久は一瞬、何か言いかけて――やめた。


いつもの妙な言い回しを咎めるのも、今さらである。


ただ、苦笑が漏れる。(……まったく、何を考えておるのやら)


春の道は続く。


その先に何が待つかも知らぬまま――それでも、足は止まらなかった。




春の道は緩やかに続き、風はやわらかく背を押す。草の匂いと、遠くの海気がわずかに混じり合い、どこか気の抜けた穏やかさが一行を包んでいた。
















――が。道中、唐突にその声が響く。


「阿諛でーす、阿梨那ー!」


不意に、場違いな声が響いた。


間の抜けたような、それでいて、やけに張りのある声である。


供の者たちの足が、わずかに乱れる。


もう一度。


「阿諛でーす! 阿梨那ーー!」


貴丸だった。


遠くを見つめながら両手を軽く広げ、どこかで見たような所作を真似ている。


本人はいたって真剣な顔である。




ただ、よく分からぬ奇声を上げる童が一人。


周囲は沈黙するしかなかった。


慶久が、ゆっくりと視線を向ける。


「……貴丸」


低い声。だが貴丸は気づかない。


今度は、右手を高く掲げ、左手は耳に当てる仕草をする。




「阿諛でーす! 阿梨那ーーー!!」




慶久が深く息を吐いた。


「……それは、なんなのだ」


呆れと疲労が滲む。


貴丸は、ぴたりと動きを止め――


「盛り上げ役」


真顔で言った。


「やめよ」


即答である。


風が吹く。


草が揺れる。


その中で――なぜかその後も、しばらくの間、「阿諛でーす、阿梨那ー!」




という声だけが、帰路の道に虚しく響き続けていた。

阿諛と阿梨那のくだりは申し訳ございませんでした。

だが、反省はしない! いや、反省でございます。

勝手に指が動いて、、キーボードを叩きまくって。。。


阿諛:本来は相手の顔色をうかがって、へつらうこと。

ただ、貴丸のそれは………某著名歌手……ではない…はず……あえてルビは振らない。あっ、振ってる。。

「えむ・季節・航海・青い鳥」とか大好きです。。

砂温和:蒸し風呂。平安〜室町時代はサウナ形式が主流だった。砂温和とは貴丸が勝手に作った当て字。

阿梨那:円形や楕円形の客席に囲まれた競技場? 観客が全方位から見られる構造で、主にスポーツ、ライブなどが行われる? これもあえて…ルビは振らないので……何と読むのかは、私もわかりません。。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ