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戦国不精で何が悪い〜米作りとか面倒なのでやめました〜 ―神様のチート、無意味でしたよ。人口比10対1の東北なのに、なぜか天下が見えてきたかも―  作者: 犬童好嬉


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第34話 相馬盛胤との対面05

おおっと!

二週間かからずに10万PV超!

ありがとうございます!

座敷に残っていた余韻は、もはや静寂とは呼べぬ張りを帯びていた。


畳の上に落ちた言葉の残響が、まだ空気の底に沈みきらず、じわりと広がっている。


障子越しの光は柔らかいはずなのに、その場にいる誰もが、どこか息を詰めていた。


孫子を誦じ、臆することなく盛胤と兵法を語る――その貴丸の在り方は、場にいる誰の目にも異質に映っている。


童の姿をしていながら、語る中身はあまりに重い。


その不均衡が、静かに、しかし確実に場を軋ませていた。


その中心で――


ついに、彦法師丸が弾けた。


「――ふざけるな!」


堪えきれぬ怒気が、声となって噴き出す。


畳を踏みしめる音が強く響き、そのまま勢いのまま一歩踏み出した。


肩は大きく上下し、握りしめた拳に力がこもる。


その視線は、まっすぐに貴丸へと突き刺さっていた。


「何を知ったような口を利く! 戦も知らぬ童が、この相馬を長年率いる父上と、兵法を語るなど片腹痛いわ!」


吐き捨てる言葉は荒く、抑えの利かぬ感情がそのまま乗っている。声量も、次第に増していった。


「剣も槍も、馬すら満足に操れぬ不精者が、机上で何をほざくのだ!」


畳の上に落ちる唾が、乾いた音を立てる。


「焚き火で城が偶然焼けた程度で、勝った気になるな!」


一瞬、息を吸い込む。その胸の動きが、怒りの深さを物語っていた。


そして――


「悔しかったら、城を焼くだけではなく、奪ってみせよ! できぬであろうが!」


叩きつけるような声が、座敷の梁にまで跳ね返る。


空気が、張り詰めた。


誰もが次の動きを測りかねる中で、貴丸だけがわずかに目を伏せる。


怒りに応じるでもなく、反論の気配もない。ただ、ほんの短い間だけ、何かを確かめるように沈黙した。


やがて、ゆっくりと顔を上げる。


その目には、感情の色はほとんどなかった。


「……できますよ。城を奪えば、よろしいのですよね?」


あまりにも軽い。


緊張を削ぐような、気の抜けた調子で言い放つ。




言葉は柔らかいのに、その内容だけが場に重く落ちる。


一瞬、理解が追いつかない空白が生まれた。


そして、遅れて熱が戻る。


「――貴様! 舐めるのも大概にせよ!」


彦法師丸の顔がさらに紅潮し、今度こそ抑えきれぬ勢いで踏み出しかける。


腰が沈み、体が前へと傾く――その動きは、もはや言葉では止まらぬ域にあった。


その瞬間。


「控えよ」


低く落とされた一声が、空気を断ち切った。


大きくもない。だが、逆らうという発想すら許さぬ圧を帯びた声だった。


盛胤である。


視線は微動だにせず、ただ一言で場を制していた。


彦法師丸の足が、ぴたりと止まった。


踏み出しかけた勢いを無理に押し殺したせいで、肩がわずかに揺れる。


歯を食いしばり、今にも言葉がこぼれそうな口元を固く閉ざしたまま、喉の奥で何かを飲み込んだ。


沈黙が戻る。だがそれは、先ほどまでの静けさとは違う。


押し固められた怒気と、行き場を失った視線が、座敷の空気を重く濁らせていた。


その中で、盛胤がゆっくりと口を開く。


「大和田殿、先程も言ったが、ご苦労であった。そして貴丸殿――此度の働き、見事であった」


低く、よく通る声だった。無駄な抑揚はないが、言葉の一つ一つが確かな重みを持って畳に落ちていく。


一度、言葉を区切る。


そのわずかな間に、誰もが次を待った。


「今の彦法師丸の無礼の詫びも兼ねよう。褒美として、望むものがあれば申してみよ」


静かな声音であったが、その一言が場の空気を変えた。


家臣たちの視線が、一斉に貴丸へと集まる。息を潜める気配が、あちこちで生まれる。


何を望む。


金か、馬か、あるいは知行か。あるいは名誉か――。


思惑が、目に見えぬ波となって座敷を満たしていく。


その中心で、貴丸はわずかに瞬きをひとつした。


そして、何でもないことのように口を開く。


「では、先ほど申し上げましたが――今後、来春までに城を奪ったら、一時的に大和田家の預かりとし、その後の裁定をお任せいただきたく」


言葉は静かだった。


だが、その意味はあまりにも重い。


理解が、遅れて場に染み込む。


そして――


「なっ……!」「無礼な!」


「何を申すか!」「鄙の者が何を申すのだ!」


抑えられていたざわめきが、一気に弾けた。声が重なり合い、波のように広がる。


顔を紅潮させて身を乗り出す者、扇子を握りしめる者、露骨に不快を示す者――それぞれの反応が、雑然とぶつかり合う。


彦法師丸もまた、目を見開いたまま貴丸を睨みつけていた。


その瞳には、怒りと、わずかな戸惑いが混じっている。


だが、その中心で――


貴丸だけが、何一つ変わらぬ顔で座していた。


まるで、自分が何を言ったのかすら意識していないかのように。


その騒ぎを、盛胤は制さない。


ただ静かに、問いを落とす。


「……貴丸殿が率いる戦、でよいのじゃな?」


不思議と、その声だけが澄んで通った。


ざわめきの上を滑るようにして、まっすぐに貴丸へ届く。


貴丸はわずかに顔を上げ、迷いなく頷いた。


その様子を見て、盛胤はほんの一瞬だけ思案する。


目の奥で何かを測るように、沈黙が落ちる。


だが、迷いは長くは続かなかった。


やがて、息を吐くように言葉を落とす。


「……よかろう。口にした以上、試させるが道理よな」


低く、静かな声。


だがその一言は、場のすべてを押さえ込む重みを持っていた。


覆しようのない決定であると、誰もが悟る。


「……っ、殿!」


「しかし、それでは――」


堪えきれず声を上げかける家臣たち。そのざわめきの中から、一歩踏み出した影がある。


彦法師丸であった。


「父上!」


張り詰めた声が、まっすぐに響く。


盛胤はゆっくりと視線を向ける。そこに怒気はない。ただ、逃げ場のない静けさだけがあった。


「彦法師丸よ。お前がはじめに言ったのだ。“城を奪ってみせよ”とな」


短く、断ち切るように告げる。


「相馬家の嫡男が口にした以上、その責は取らねばならぬ」


言葉は重く、まっすぐに落ちた。


彦法師丸は歯を食いしばる。言い返そうと唇が動くが、声にはならない。


やがて、押し殺した悔しさをそのままに、ただ貴丸を鋭く睨みつけた。


その視線を一度受け止めたのち、盛胤は改めて貴丸へと向き直る。


「それは――被官たる大和田殿の嫡男であろうとも同じことよ」


わずかに間を置き、確かめるように続ける。


「申した以上、その責は負う。彦法師丸も貴丸殿も、よいかの?」


問いは静かだが、逃げ場はない。


貴丸は、いつもと変わらぬ様子で顔を上げた。


「はい。承知しております」


あまりにもあっさりとした返答だった。


迷いも、気負いもない。ただ、そこにある事実を受け入れただけの声音。


その軽さに、場の空気がわずかに揺れる。


だが盛胤は、さらに言葉を重ねた。


「もしも、万が一城を奪った後、富岡や、その背にある岩城が何をしてこようとも――儂が必ず責任を持つ」


その一言に、空気が凍りつく。


相馬家の家臣たちは、思わず言葉を失った。驚きとも、呆れともつかぬ感情が、じわりと広がっていく。


それでも盛胤は、それ以上は語らない。


ただ一度、座敷を見渡すように視線を巡らせる。


それだけで、ざわめきは押しとどめられた。


誰も、続けて声を上げることができない。


残ったのは、行き場を失った静けさだけだった。


その中で――


貴丸は何も言わない。


喜ぶでもなく、誇るでもなく。


ただ、いつもと変わらぬ眠たげな顔で、静かにそこに座していた。


周囲の空気が張り詰め、言葉一つで場の重みが変わっていく中で――



ただひとり、慶久だけがその流れに乗りきれていなかった。


視線は右へ左へと落ち着かず、何か言おうとしては口を閉じ、また開きかけては言葉を飲み込む。


事の成り行きがあまりにも早く、そして重すぎる。自分の理解が追いつくより先に、話が決まり、場が動いていく。


額にはうっすらと汗が滲み、手の置き場すら定まらない。


(……いや、ちょっと待て、待て……今、何が決まったのだ?)


内心で必死に追おうとするも、答えは出ない。


気づけば、息子は当たり前のように話を受け、当たり前のように責を負うと答えている。


盛胤様はそれを認め、家臣たちはざわめき――すべてが、慶久の理解を置き去りにしたまま進んでいた。


止めるべきか。


口を挟むべきか。


だが、その一歩が踏み出せない。


ただ、状況に飲まれたまま――


慶久は終始、アワアワと視線を泳がせているだけであった。




その視線の先で。


貴丸が、ほんのわずかに慶久を見る。


そして――


片目をつぶり、舌をぺろりと出して、にやりと笑った。


まるで、すべてを承知の上で遊んでいるかのように。




いわゆる”テヘペロ”である。






相馬中村城編でございました。

お粗末様でございます。


あと、少しだけ、エピローグ的な触りを。。

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― 新着の感想 ―
まあ別に城を取るとは言ったが戦をするとは言ってないしな、何をしてくるのか楽しみ
どうした主人公、自分から城取りに動くとか、悪い夢でもみたのか?
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