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〜戦国不精で何が悪い〜米作りとか面倒なのでやめました ―神様のチート、無意味でしたよ。人口比10対1の東北なのに、なぜか天下が見えてきたかも―  作者: 犬童好嬉


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第15話 魚釣り

朝の光はやわらかく、海から吹き上げる風はまだ冷たさを残していた。


請戸の浜は潮の匂いに満ち、波は穏やかに岸を撫でるばかりで、騒がしさとは無縁の静けさが広がっている。


そんな中、貴丸は半ば引きずり出されるようにして港の端へと連れ出されていた。


本来であれば、今日も縁側で寝転びながらぼんやりと一日を過ごすはずだったのだが、敦丸と希丸が朝から飽きもせず「外で遊びましょう!(ぼう!)」と繰り返し、ついには根負けした形である。


「……釣りなど、眺めているだけでよいのになぁ」


小さく呟きながらも、貴丸は適当に腰を下ろすどころか、すでに体を横たえていた。


港の石積みの上、陽の当たる場所を選び、半ば寝転がるような姿勢で竿を持っている。


餌に使っているのはホッキ貝の身で、朝方に龍長の家へ寄り、「何か魚の餌になるものを」と言えば、呆れた顔をされながらも渡されたものであった。


その横では、敦丸と希丸が真面目に糸を垂らしている。潮はゆるやかに動き、水面には細かな光が揺れていた。


遠くでは漁に出る小舟がゆっくりと動き、櫂の音がかすかに響いてくる。時折、海鳥が低く旋回し、鋭い声を上げて水面をかすめた。


やがて、最初に竿がしなったのは敦丸だった。


「き、来ました!」


声を弾ませ、ぎこちなくも必死に引き上げる。その様子を横目で見ながら、貴丸は体勢を変えることすらせず、ただ目だけを向ける。


「そのまま上げてよい、逃すなよ」


「は、はいっ!」


水面を割って上がってきたのは、銀色に光るアジであった。朝の光を受けて鱗がきらりと輝く。


続いて希丸も負けじと竿を引き、今度はイワシの群れがかかったらしく、ぱたぱたと跳ねる魚が次々と釣り上げられていく。


それからは、静かな時間が続いた。


竿が揺れればどちらかが歓声を上げ、魚を引き上げ、また餌をつけて糸を垂らす。


その繰り返しである。アイナメのような底物も混じり、時折、鈍い重さの引きに顔をしかめながらも二人は楽しげに釣りを続けていた。


一方で、貴丸の竿も何度か大きくしなった。


だが――


「……誰か頼む」


と、軽く手を振るだけである。


結局、そのたびに敦丸か希丸が駆け寄り、代わりに引き上げる始末であった。


釣り上げられた魚は、ボラやフグといった扱いに困るものも多く混じる。


「それは捨てておけ。ボラは臭みが出やすいし、フグは……まあ、身だけなら食えぬこともないが、念のためやめておけ」


「は、はい……(おう!)」


慎重に外され、海へと戻される魚を見送りながら、貴丸は再び視線を空へと戻した。波の音が心地よく、瞼が自然と重くなる。


やがて、日が高くなるにつれて、魚の食いは目に見えて落ちていった。


先ほどまで頻繁に揺れていた浮きは、ぴたりと動きを止め、水面はただ静かに光を返すばかりである。


敦丸が不思議そうに言う。


「急に釣れなくなりましたね」


「潮が変わったのだろうな。こうなると、しばらくは来ぬな」


そう答えながら、貴丸はゆっくりと上体を起こした。足元には、すでにそれなりの量の魚が並べられている。


アジ、イワシ、アイナメ――どれも今日中に食べきるには多い量だ。


(これだけあれば……)


頭の中で手早く算段を巡らせる。


(一夜干しにでもすれば、数日は持つか)


潮風に当てて干せば、旨味も増す。塩もある。悪くない。


「……そろそろ戻るか。昼になるからな」


声をかけると、二人は名残惜しそうに頷いた。


片付けを始めようとした、その時だった。


ふと、視界の端に影が差す。


港の奥――人通りの少ない側から、三つの人影がこちらへ歩いてくるのが見えた。


漁師にしては、歩き方が違う。


荷を担いでいる様子もない。


視線が、まっすぐこちらに向いている。


貴丸はわずかに目を細めた。


潮の匂いに混じって、どこか異質な気配が紛れ込む。


(……面倒が来たかな)


波の音は変わらず穏やかであったが、その静けさの中に、確かに不釣り合いなものが近づいていた。

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