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初夜の日から3日後、ヴォルフラムはやっと帰還することになった。
帰路に着く間、部下たちから酷く非難されていた。
「婚姻一日目で、嫁さん残して三日間も山で暴れてたんですか!?」
「何か声かけてきたんですよね?
今回の出動要請なんて、ただ兵を動かす許可を貴方に貰うためだけの知らせだったのに…」
「俺らだって訓練日々受けてるんですから。A級S級が出たって時ならまだしも…。いやぁ、やっちまいましたね」
「…う。いや、よく寝てたから何も言ってない。言付けてはきたが…つい、いつもの癖が出ちまったんだよ」
大きな体をしているのに、声が小さくなっていくヴォルフラム。
本人に無断で出てきたと聞いて、部下たちは顔を見合せてあーあ、と白い目でヴォルフラムを睨めつけた。
「短い結婚生活になるかもしれませんね」
「それかもう二度と頭が上がらないんじゃありませんか」
「これが木偶の坊ってやつですか」
「…機嫌をとるにはどうしたらいいんだ!?」
やんややんやと騒ぎながら、塀をくぐって顔見知りの門番に含み笑いをされながら、人目も気にせず夫婦の心得を領民に聞く気のいい領主。
兵士たちも、領民もそんなヴォルフラムを慕っていた。
26歳という若さで跡を継ぎ、逞しい体で広大な土地を治めるヴォルフラムに、やっと奥さんが王都からやってきたと領民の中でも話題となっていた。
しかも相手は侯爵家。ヴォルフラム様もやるな、と見直されていた。関心を抱く領民たちによってあっという間に、初日の失敗は広まるのも時間の問題だった。
…そんなにやばいことをしたのか?
夫婦のスタートだとか偉そうなことを言ったのは俺なのに。どんな顔して帰ればいいんだ。
自分の屋敷に帰ってきたはずなのに、重苦しい気持ちで玄関を開けると、笑顔を貼り付け、おでこに筋をつけて怒り隠さない執事のヘクターに出迎えられた。
「おかえりなさいませ。随分ごゆっくりされてきたようで」
「…おう、ただいま。ステラはどうしてる?」
「その前に、早く湯浴みへ。…ひどい臭いですよ。
いつもの事ですけど」
4日間、外で魔物を倒し、野山を駆けずり回り野営していたのだ。酷く汚れた姿で合わす顔もない。
急いでいつもより入念に石鹸を泡立てて、体をゴシゴシ洗うヴォルフラム。
用意されたいつもと違う少し綺麗めの服に、文句も言わずに袖を通す。
これから夕食を共に取るのだろう。
…放置されたステラが怒っていなければの話だが。
「離縁とか…言い出さねぇよな…?」
今更ながら、周囲からの冷たい反応に、よっぽど自分は妻に対して酷いことをした夫の自覚のない男だと流石に思い至っていたヴォルフラム。
なんと言って謝ろうか、女は服や宝石を欲しがるのだろうかと頭を悩ませていたところに、ステラがパタパタと駆け寄ってきた。
「…お、お帰りなさいませ!ヴォルフラム様!
出迎えもせず、申し訳ありません…!」
シンプルなオフホワイトのワンピースに、うっすら化粧を施し、ハーフアップに軽く編み込んだシルバーブロンドの髪をなびかせて、頭を下げるステラ。
少し見ない間に随分顔色が良くなっていて、驚くヴォルフラム。
「…いや、汚くて臭かったから、ヘクターが呼ばなかったんだ。その、置いて行ってすまなかった」
「?いいえ、任務お疲れ様でした。お怪我もないようで、良かったです…!」
ヴォルフラムの体をしきりにちらちらと見て観察していたステラが、怪我はないかと確認して安堵する様子に、心がむず痒くなるヴォルフラム。
どうやら屋敷に数日放置した事を、全く怒っていないように見えた。
「不在の間、ゆっくり休めたか?」
「はい!とても美味しいお食事をいただけて…すごく体が軽いんです」
「それは良かった。
…今上から降りてきたようだったが、何をしていたんだ?」
ニコニコと明るく笑うステラに、口元を緩ませるヴォルフラム。
高級で凝った料理など出せていないはずだが、満足してくれている様子にほっと安心する。
この屋敷の二階はステラとヴォルフラムの自室もあるが反対の階段から降りてきており、そちらには書架や歴代の辺境伯が集めた魔物の素材が置いてある物置くらいしかなかった。
ステラはヴォルフラムの問いかけに、ちょっと照れくさそうに、そして嬉しそうに口を開く。
「屋敷内のどこの部屋にも入ってもいいと、ヘクターさんに言われていたので。
…その、少し探検をしていました」
ヴォルフラムは王都のステラが、実家の屋敷内すらろくに元気に過ごせなかったと聞いていたのを思い出し、不憫さに同情する。
同時に嬉しそうなステラの顔がもっと見たいと思った。
「ろくに屋敷の案内もしていなかったな。…ご一緒しても?」
「はい…!お願いします」
そっと腕を差し出すと、白くて細い指がそっと添えられた。
ヴォルフラムはステラをエスコートしながら、屋敷の中をゆっくり案内した。
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