後日談:ベルシュタイン夫妻の訪れ 後編
具材の出汁が染み出たコンソメスープは絶品で、メインのチーズグラタンもゴロゴロ野菜が入っていて満足感たっぷりだった。
デザートのいちごのムースを食べている頃、ステラはメイドに耳打ちされ、レオナルドが起きたことを知らされる。
きっとお腹を空かせているだろうと、ゆっくり席を立つ。
ヴォルフラムが代わりに両親の話相手をしてくれている間にレオナルドを迎えに行く。
「かぁさま…。おじーたま、おばーたま、かえっちゃった?」
「おはよう、レオ。大丈夫よ、来たばっかりでお父様とお話ししてるわ」
朝から寝てしまって絶望していたレオナルド。
メイドに着替えを手伝ってもらいながらも、ぐしぐしと目を擦る。
ーぐぅううううー
丁度レオナルドの腹の虫も起きた音が聞こえた。
そっと手を繋いで、食卓へ向かうとヘクターがレオナルドのお子様ランチを持ってきてくれていた。
「へくたー、レオのごはん?たべる!」
「えぇ、レオナルド坊ちゃん。
お祖父様とお祖母様にしっかりご挨拶できたら、デザートもお出ししますよ」
「あーい!」
何度も一緒に練習した挨拶の言葉を完璧に言うぞ、と気合いを入れるレオナルド。ヘクターのレオナルドの扱いが上手すぎてステラはほくそ笑んでいた。
……きっとヴォルフラムも小さい頃はこんな風だったのだろうと。
部屋に入るやいなや、視線を集めたレオナルド。
「こんにちは!
ぼくは、レオナルド・アイゼンベルクです!
ぇと、おあえ、おあいできて、こうえいです…!」
ほっぺを真っ赤に染めて、大きな声で挨拶するレオナルドに、ルドルフとマリアはメロメロだった。
ワッ!と拍手で応える大人たちに、レオナルドはちらっとステラの顔を見て上手くできたか確認する。
そっと頭を撫でられて、嬉しそうに自分の子供椅子に手をかけた。
もう既に頭の中はご飯でいっぱいのレオナルドを、ヴォルフラムがそっと椅子に抱き上げて座らせる。
「まぁ、なんて可愛らしいの。おばあさまよ」
「レオナルド、挨拶ありがとう。
おじいさまだよ。たくさんお手紙ありがとう」
「うん!レオねぇ、ドーナツかけるの!」
いただきます、と目の前に置かれた昼食をフォークで食べ出すレオナルド。もう口調はいつも通りになっていた。
ステラは実家に手紙を出す際に、レオナルドの手形や描いた絵を一緒に送っていた。
よく寝てよく食べよく笑うレオナルドの可愛さは、祖父母ルドルフとマリアを骨抜きにするのに時間はかからなかった。
***
初孫に会えて喜ぶベルシュタイン夫妻は、旅の疲れも吹っ飛ぶ勢いでレオナルドと触れ合った。
持参したプレゼントのおもちゃに、ヴォルフラムがそっとお礼をしに行くと、気にするなと嬉しそうに笑う。
「初孫がこんなに可愛いものだとは思っていなかった。レオナルドはいい男になるぞ!」
「ははっ!……いや、エリックと似たようなことを言われたので、つい」
毎年のようにアイゼンベルクに訪れるエリックとルドルフの言動が似ていて吹き出してしまうヴォルフラム。
ルドルフも気の良いヴォルフラムを好ましく感じていた。
「ところで、冬は大変だったな。
ヘビーモスを討伐したという知らせを聞いて肝が冷えた。
…せめて冬以外なら助力出来たんだが」
アイゼンベルクの冬は厳しい。深い雪に閉じられて、手紙一通すら送れなくなる。国に緊急連絡で報告だけはできる方法があるが、助けを待つためのものではなかった。
今回の来訪では、もちろん一番の目的はレオナルドに会うことではあったが、ヘビーモスから取れた大魔石をどうするか相談する名目もあった。
「いえ、こういう時の砦となるのが俺の仕事ですから。……今は守る家族もいるし、負ける気など少しもありませんでした」
「……そうですか、流石アイゼンベルクの男だ。
二人を、……国を。これからも頼みたい」
ルドルフは、本来ならばもっと早くにステラの様子を見に来ようと思っていた。
しかし、改良型魔道具の“魔石電池”の需要が高まり、材料である質のいい魔石の供給が間に合わず対応に追われていた。
長男であるアルベルトの結婚式の準備だけでも忙しかったのに、ベルシュタイン家の活躍を妬む他家の貴族からの圧をかけられる羽目になっていた。
アイゼンベルクの魔石が“魔石電池”の材料の7割を占めている現実が、ステラの輿入れによる裏があるのではないかというやっかみを受けていたのだ。
「王都には、頭の固くて煩い利益だけを考える阿呆もいる。今しばらくはステラは王都に遊びには来ない方がいいだろうな」
「……そう、ですか」
……ヴォルフラムは色んな意味でステラを王都に里帰りさせたくない気持ちがあり、こっそり嬉しがっていた。
ルドルフが、ステラに迷惑がかからないようにと根回しをしていた。そして、春が開けて早々アイゼンベルクでS級の魔物を討伐したという知らせが王都に届いた。
ルドルフとマリアは、知らない間に娘に危険が迫っていたことに背筋が凍る思いだった。
まだ雑多な仕事は山積みだったが、渋るアルベルトに暫く家を任せてアイゼンベルクに来訪していた。
「おじーたま、おいでぇ?」
「おっと呼ばれた呼ばれた」
貰ったパズルのおもちゃを片手に一緒にやろうと手招きするレオナルドにデレっとするルドルフ。
……一緒に着いて来たがったエリックも手伝いに置いてきたし。今少しばかりは、初孫を堪能してもバチは当たらないだろう。
ルドルフは愛しい妻と一緒に、可愛い孫との触れ合いを存分に楽しんだ。
ーEndー
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