02
陽に透ける白銀の髪と真白の肌。
軽く伏せられた睫毛の奥に赤い鉱石のような瞳が煌めく。
白い神殿服に身を包んだ姿は、触れると淡く消えてしまいそうだ。
ディルクルムにはウォルター・ルースの歓迎の挨拶など耳に入らず、ただ少女に魅入るばかりだ。
少女がウォルターに促され礼をするべく足を後ろへ引いたところで、ディルクルムは手を伸ばし両腕を掴んだ。
「私の妃になれ!」
ディルクルムは少女をガクガクと揺さぶった。
神殿長と「何故?」と困惑したウォルターが視線を合わせる。
神殿長はディルクルムに歩み寄る。
「王太子殿下、パティをこちらへ。気を失っております」
「⋯⋯あ。なんてことだ。あまりに美しすぎて!」
ディルクルムはウォルターの案内でフローレス神殿の事実を知り、翌朝帰途についた。
軍に守られ、去る姿を神殿長とウォルターは見送る。
「ダミー君、どういう事だ?」
「わかりません。王城でもないのに反応があるとは思ってもみませんでした。フローレスにも影響があるのでしょうか」
王家の男子、特に即位した者は何故か『聖女の人形』に異常な程の執着を示す。
戴冠の儀を終え王城で人形を手にした途端、全てを放り出さんばかりに溺愛する。
はっきりしているのは国王が崩御すると共に、次代の国王の脳内に声が聞こえるという事だけだ。
パティは六十四人目の『聖女の人形』。
『聖女の人形』は本来であれば星船の中で秘密裏にカプセル内で成長する。
だがパティは聖女ソフィアの意思によって、例外として普通の人間としてフローレスで育てられた。
迂闊であった。
王城でなければダミーもウォルターも干渉はないと思い込んでいた。
ましてやディルクルムはまだ王太子、これ程までの反応をするはずがない。と。
「ああなってしまっては、もう取り返しがつかないかも知れない」ウォルターは首を振る。「パティはまだ目を覚まさないが、何が起きている?」
「負荷がかかり過ぎて副脳が強制的にリブートを選択しました。いささか時間がかかるかも知れません。意識の共有がまだ出来ておりません」
「ひと月後に殿下が王城にお戻りになるまでは猶予が出来たが、その後はどうなるだろうな」
「大神殿に戻った後、私も注視致します」
ウォルターは遠く王城の方角に目をやる。その両手は気を揉むように握られた。
ニ日後、パティは目を覚ます。
兄ジョイルの抱擁を受け、微かに微笑んだ。




