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ディルクルムとパティエンスの婚約の経緯です。
「フローレスに妃にしたい娘を見つけた! 真っ白い綺麗な髪に、赤い宝石みたいな目をした女の子なんだ!」
マグノリア王国、王太子ディルクルムは頬を紅潮させ言い放った。
クレプスクルム国王とセーレナ王妃の前で、臣下の礼を取るでもなく顔をまっすぐに上げて。
クレプスクルムは小さく肩を跳ね上がらせ、セーレナはそれを横目に見た。
ディルクルムのその言動は二つの出来事を再び浮上させた。
十六年前の国を揺るがす事件と、十一年前のクレプスクルム戴冠後の乱心を。
事の発端は王太子ディルクルムによる『フローレス』への訪問だ。
『フローレス』とは、王国のシンボル『聖女ソフィア』縁の神殿が建つ土地である。
王城のある王都から大街道を半月ほどかけて南下し『司法』『農務』の領地を抜けて、更に二週間程の最果ての地だ。
『農務』領内を過ぎれば大街道の三分の一の細さになった未舗装路を進む。
途中、高い壁に覆われた害獣対策の軍の防衛拠点が数カ所あるのみで、一般人の行き来はほぼない。
ディルクルムは学園入学を翌年に控えた十四の夏、王太子の慣例として視察に向かった。
フローレス神殿は移住元の本星との交流がある唯一の場所だ。
その事実を王族の直系、継承第一位の者として初めて知る事になる。
軍に守られ道程を進む。
最後の防衛拠点で、王都の北にある大神殿の神殿長と合流した。
何故わざわざ別行動なのか不思議に思うディルクルムだったが、神殿長とはあまり交流もなかった為にむしろ安堵した。
幼い頃から神殿長は苦手だった。
落ち着いた声と柔らかい物腰だが、感情のない目と口調。ディルクルムはどうしていいのか分からなかった。
「ご覧下さい。あのマグノリアの木々がお分かりになりますか? あの中央がフローレスの町でございます」
神殿長が馬車のキャビンから指差す。
夏の光を受け眩く映えるマグノリアの葉が、町の様子の一切を隠している。
風に靡くマグノリアの葉は喩えようもないほどに美しい。
近づくにつれ、少しずつ町の様子が浮かぶ。塀がぐるりと囲み、正面には堅牢な門。
門の前には兵士らしき武装した二人が立ち、神殿長がキャビンの窓を開け手を上げると、一礼し馬車の通過を見送った。
マグノリアの木立を抜けると広場に出た。
広場を居住地が囲み、正面奥に小ぶりな白亜の神殿。王城の隣に立つ聖堂の様な繊細な作りだ。
その前に神殿服に身を包んだ四人が頭を下げ並ぶ。
フローレス神殿長ウォルター・ルース。その妻イルマ。長子のジョイル。
そしてその隣に一際目を引く少女がいた。
ざわざわとディルクルムの頭の中にノイズが入る。
「顔を上げよ。私はディルクルム・ソル・マグノリア。みな大儀であった」
四人は静かに顔を上げる。
そして、ディルクルムは一瞬にして目を奪われた。




