エリア1「UFO少女とソフトクリーム」
「見て見て、セラ先輩ッ!
ソフトクリームですよッ!」
「よっしゃあ!
地獄に仏とは、正にコレだわっ!」
七月に入り、真夏日も珍しくない頃のこと。
夏、真っ盛りの気候の中で――
ミコネとセラは、ある牧場を訪れていた。
「ええと、そうね。
ジャージー牛乳ソフトクリームを、
2つ、くださいな?」
セラは売店のカウンターに両手を伸ばし、
真っ白なソフトクリームを2つ受け取った。
セラは、手にしたソフトクリームをミコネに渡す。
「これ、アンタの分ね」
「あ、セラ先輩。あたしの分のお会計は……」
「はぁ? 一年坊主が生意気言ってんじゃないわよ。
黙って、奢られときなさい」
「ご、ごちそうさまでーすッ!」
受け取ったそばから、クリームがこぼれそうになる。
ミコネは慌てて垂れる部分を舐めとった。
とろり――
濃密なミルクの風味が舌先から全身に広がる。
カンカン照りの中を歩いてきて、高まった体温が、
ソフトクリームの冷涼感でトーンダウンしていく。
こってりとした味わいはあるが、
決して脂っこくはなく、しつこさも無い。
繊細で透き通るような甘みだけが残る。
「う、うま……うま……ッ!」
「あら、上にデッキがあるみたい。
行ってみましょうよ」
ミコネとセラは、木造デッキに上がった。
デッキは屋根があって、日陰になっている。
爽やかな高原の空気が、ミコネの頬を撫でた。
「あーっ、涼しいッ!」
「日照りを避ければ、そんなに暑くないわね。
湿気が少なくてカラっとしてるから、
東京よりはずっと過ごしやすいわ」
向こうには青々と連なる山稜、
足下には緑に萌える若草。
遠くの柵の向こう側には、
薄茶色の体毛をした牛が点々と放牧されていた。
「あれ……牛、白黒じゃないんですねッ!」
乳牛と言ったら、
白と黒模様のホルスタインのイメージがある。
「ここらの牛は、ジャージー牛ですもの」
セラは、ソフトクリームのコーンの包み紙を示した。
[ジャージー牛乳ソフトクリーム]とある。
「この高原みたいな標高が高く、夏でもある程度は涼しいところでないとジャージー牛は生育できないわ……どうも、戦後にGHQの将校がここらに酪農に必要な機材やジャージー牛を持ち込んで、環境を整えたみたい。それで今にいたるまで、そこら中に牧場があるってことみたいね」
東京から特急に乗り込み、
日本一標高の高い鉄道に揺られて、
二人がやって来たのは、緑豊かな高原だ。
デッキには、他にも観光客が多い。
皆、思い思いにソフトクリームなどを楽しんでいる。
いたって平和そのもの――
に、見える。
セラは「ふぅん」と呟いた。
「景気は良さそうに見えるわねぇ。
とても、何十体も牛がさらわれてるとは思えないわ」
「セラ先輩、それオフレコですッ!」
ミコネはセラの口をふさいだ。
「む、むーっ!?」
「あたしも、まだネットで見かけただけで裏は取れてないウワサですから……ッ! 下手なウワサを立てたら、名誉棄損と誹謗中傷と風説の流布で逮捕されちゃう!」
「ま、まぁ。こういった観光業もやってる牧場にとっては、そんなウワサが立ったら、死活問題かしらね」
「そうですよッ!」
「しっかし。いつもながら……
そんなウワサをよく見つけてくるもんだわ、アンタも」
牛がさらわれる牧場――
そんなウワサがここ数日、ネットに流れている。
牛といったら動物の中でも大きい方だ。
そんな牛が何十体も誘拐されてると言ったら、
とても人間業とは思えないのが正直なところだろう。
そう、実は人間業ではない――
というのが、ウワサの本体なのである。
などと、回想しつつ。
「あっ」
ミコネはふと、手元にクリームがついているのに気づく。
ぺろっ。
舌で舐めとる、と……
「あーっ!」という絶叫が響いた。
「ひゃあッ!?」とミコネは振り返る。
絶叫の主は、セラだ。
「ア、アンタ、今、何したのっ!?」
「何って……クリームがこぼれちゃったから、舐めちゃったんですけど……もしかして、お行儀、悪かったですかッ!?」
プルプルと震えながら、セラはミコネを指さす。
「ちがーうッ! それ、さっきアンタがアタシの口をふさいだときに付いたヤツじゃないのよお! し、信じられないっ! お嫁に行けなくなる……!」
「あー。そういえば……」
「あー、じゃなーいっっっ!!!」
ぎゃい、ぎゃい、と騒いでる二人のところに――
割って入る、小柄な影があった。
「ケ、ケンカはダメ……なのですっ!」
「えっ!?」
「あんっ?」
二人が目線を下に下ろすと――
そこには、奇妙な帽子を被った少女がいた。
「あっ、この人、知ってますッ!」
ミコネはSNSで見た情報を思い出した。
弱冠16歳にして数々のUFO写真を撮影し、
宇宙人とコンタクトして、
金星にまで旅行したとも言われている、
日本有数のUFO研究家の一人――
「江藤マイヤちゃんッ!」
「いかにも、なのです。
ここは聖地。
人間同士の悪しきエナジーで、
神聖なるチャネルを汚すのは、
このボクが許さないのですよッ!」
江藤マイヤは、
灰色の円盤――UFO型の帽子のつばを上げた。




