第3話 美しい“楽器”
今日もエチです(^^;)
カオリのラフ画です。
銭湯の入口、街灯の陰でイライラしながらタバコを吸っている勝二。
足元には洗面器が置かれ、タバコの吸い殻やマッチが散らばっている。
暖簾が揺れて美穂子が出て来る。
「遅いぞ!」
「そんな事、言ったって……お洗濯だってしてたし……」
「オレもやらされたぞ!」
「女湯はコイン式洗濯機も混んでいるのよ! そんなにイライラするなら中で牛乳飲んで、マンガでも読んで待っていれば良かったのに……」
「今週のマガジンはもう喫茶店で読んだんだよ。だいたい!男に洗濯なんかさせやがって! みっともないったらありゃしねえ!」
その言葉に美穂子はため息をつく。
「本当にみっともないんなら男湯にコイン式洗濯機は置かないでしょ! ああ……濡れた洗面器を地面に置いちゃって! 砂や吸い殻がくっついちゃう!!」
「うるさい!! 女ってヤツはどうしてこういちいちと!!……そうでなくても、こちとら言いたい事も言えねえ“ノンポリ”をやらされてんだぞ!」
と、むくれた勝二は洗面器を拾い上げた。
『嶋本さんだったら……きっと、こんなみっともない事はしない……』
不貞腐れながら先を歩く勝二の背中を見ながら美穂子はこんな事を考えてしまう。
と、いきなり勝二が振り返る。
「帰ったら、隣に行って来る」
「嶋本さんの所? みっともない事はしないでよ!」
「ギターを借りるだけだ! アタマに来たからオーディションを受けに行くぜ!!」
◇◇◇◇◇◇
朝の駅。特にお互い示し合わせた訳では無いが、美穂子と嶋本は何となくの待ち合わせをして同じ電車に乗り、ドアを背にしばし向かい合わせになっている。
「そう言えばお兄さん、今日オーディションを受けに行かれるんですよね」
「ええ、昨夜は兄が突然お邪魔して、ギターをお借りして申し訳ございませんでした」
「いいえ!昨日は一段と素敵な……お兄さんの歌声とギターの音色が聞けて良かったですよ」
「そんな!兄がうるさくして申し訳ございませ……」
ここまで口に出して美穂子はハッ!と気付いてしまった。今更ながらに……
隣の部屋の勝二の歌声が聞こえると言う事は……勝二との秘め事で自分が洩らしてしまう声も聞こえていると言う事……
いつの間にか始まっていた……嶋本の胸に軽く顔を埋め、エルメスのエキパージュの香りに包まれている満員電車での“日常”……
その日常に浸っていた美穂子の胸は恥ずかしさの為に激しく脈打っていた。
◇◇◇◇◇◇
レコード会社の受付でプロデューサーの名前を出しても取り次いで貰えなかった。
その事で声を荒げると警備員が近付いて来た。
そのタイミングで自動ドアが開いてプロデューサーが外から帰って来た。
勝二が自分の正当性を主張しようとプロデューサーの元に駆け寄り、自分の名前を告げると……集って来るアリを追い返す様な蔑みを受けた。
「よく居るんだよな!いいギターが醸し出す音色を自分の腕と勘違いするバカが!!」
当然、警備員に両腕を摑まれ勝二は外へ放り出された。
その夜、勝二が、前にプロデューサーから声を掛けられた歌声喫茶で痛飲していると、おかっぱ頭にサングラスを引っ掛けた若い女が寄って来た。
「火、貸してよ」
「タバコは?」
「無い、アンタが吸ってるソレ貸して」と勝二の唇からタバコを抜き取り、うまそうに吸いながら言葉を繋げる。
「何飲んでんの?」
「トリス。お前は?」
「ツバ飲んでる」
「汚ねえヤツだな」
「オトコが出すモノよりマシでしょ?!」
その言葉に勝二は思わずむせ返る。
「何だよ!それ!」
「アタシ、帰ったらいつもソレだからさ……さすがに鼻について出て来ちゃった。そしたら……アンタが居た。」
「オレがどうしたって?」
「前にアンタの唄聞いて泣けたからさ! また泣きたくなって近付いた。 ギター新調したの?景気いいね」
「まあな!それなのによ!」
勝二も酔った勢いで昼間のレコード会社の愚痴を一通り垂れると、女はネコの様に勝二に寄り添った。
「そのオヤジ!許せないね!! アタシが慰めてやろうか?」
勝二を蠱惑的に見つめながら、女は赤い口紅の付いたタバコを勝二の唇へ戻した。
勝二はタバコを舐りながら……懐の中に聖徳太子があるのを思い出していた。
それは美穂子から……『礼儀正しくね!何が起こるか分からないから』と言わながら手渡された物だった。
「ケッ!どいつもこいつもエラそうに!!」
思わず口走った勝二の唇からタバコが落ちて……
次の瞬間、女に唇を奪われた。
それが新しい“関係”の始まりだった。
カオリと名乗るその女を一晩中抱いた次の朝
「お前はマーチンよりいい声で鳴くぜ」と
勝二はその“楽器“の美しいカーブをまた愛撫した。




