第3-39話 夢を阻む者には
「私の、私たちの夢は阻ませないよ」
ミラは仮面を取った。
隠されていた瞳が露になる。
右目は、光を失った闇色の瞳をしていた。
対照的に左目は、夜の闇を思わせるような暗い藍色の中に色とりどりの星が輝いていた。
抑えていた力が解き放たれた。
「【悪夢の魔眼】、【夢死の魔眼】──強制発動」
「ぐ……!?」
「う……! これは、なかなかキツイですわね……!」
ダークだけでなく、リジーまでもが苦しそうに呻く。
ミラは申し訳なさそうに伝えた。
「ごめんね、リジー先生。このスキル無差別に発動しちゃうの。ちょっとだけ我慢してちょうだい」
「……大丈夫ですわ。結界の維持には問題ありませんのでお気になさらず」
「ありがとね」
ミラの切り札である二種の魔眼。
その効果は次の通りだ。
【悪夢の魔眼】。
周囲一キロの生命体に幻覚を見させ、精神を蝕む。
このスキルを発動中、対象にデバフをかけると効果が二倍になる。
【夢死の魔眼】。
周囲一キロの生命体の寿命を継続的に奪い続ける。
奪われた寿命は回復することができず、寿命が尽きると即死する。
(周囲一キロに一般人の気配なし。冒険者ギルドはきちんと避難誘導できたみたいだね)
ミラは心の中で冒険者たちに感謝する。
(死国を使った直後からダークは息が荒くなって動きも乱れてる。借り物の力だからか、本気を出すと体に強い負荷がかかるんだろうね)
一連のやり取りの最中もダークの観察を続けていたミラは、その弱点を看破する。
つけ込む隙を見つけ、チャンスを最大限に高める!
「【デバフマスター】発動っと。これでどこまで追いつけるかな」
現実魔法を放つ。
「……ぜぇ……調子に乗るなよ……! 今すぐこの気色悪ぃ幻覚を解きやがれ!」
ダークは闇で応戦する。
最初と同じ構図。
しかし、闇が勝つことはなかった。
真正面からの撃ち合いで、お互いの力が拮抗した。
ミラの力が追いついた。
(できる限り近接戦は避ける! 現実魔法でダメージを稼ぐ!)
獄炎がダークを呑み込む。
一泊遅れて落雷がダークを貫く。
「まだまだ!」
氷塊がダークを押しつぶす。
圧縮された空気の爆弾が炸裂する。
粉塵舞う中、闇があふれた。
「【闇同化】──二十%」
現実魔法を圧倒的な威力で押しのける。
「クソがぁぁぁぁあああああああ!!!」
ダークは【斬撃波】を放ちながら詰めてきた。
(強化されたんじゃ相殺は不可能! 躱すしかない!)
【悪夢の魔眼】の影響か、幸いにも【斬撃波】の狙いは甘かった。
おかげで難なく躱すことはできたが、闇で肉体を強化したダークに距離を詰められてしまう。
「うらあああああああ!!!」
【竜爪撃】で斬撃を受けるが、力負けして吹き飛ばされてしまう。
ダークは即座に詰めて二撃目を放つ。
「うわっと!? おっと!」
ミラは体を逸らして刃をスレスレで躱す。
続く三撃目をバックステップで躱す。
大振りの後隙を狙って素早く【竜爪撃】を放った。
「当たるかよ!」
ダークは【流し受け】でミラの攻撃を逸らし、横一閃で仕留めにかかる。
ミラは姿勢を低くすると、ダークの脇を抜けて素早く背後に回る。
ダークは横一閃の勢いのまま回転斬りを放つ。
ミラは背面飛びで躱すと、空中に生み出した岩塊に足をかける。
からの跳躍!
「【竜爪撃】──十文字斬!」
ダークの背中を大きく斬り裂いた。
「がッ!? 闇!」
「現実魔法──フレアブラスター!」
ミラはすかさず爆撃ラッシュをお見舞いする。
爆炎、爆風、衝撃がダークを呑み込んだが、ダークは自身を闇で覆うことで防いだ。
「ふざけんなよ……っ! 俺がこんなっ、眼中にもなかった雑魚一人に踊らされてるだと!? 認めてたまるかぁぁぁ!!!」
ダークは腕を掲げる。
「【強制召喚】、戻ってこい上位悪魔! 【闇同化】──七十%!」
ダークの掌に、小さな闇の球体が現れる。
上位悪魔を内包したソレを、ダークは取り込んだ。
「コォォォォ……」
ダークは口から闇の蒸気を吐きながら、呪剣を構える。
刹那、その姿が消えた。
「あ……? え……?」
ミラの口から大量の血がこぼれる。
気づいた時には、ミラの腹を呪剣が貫いていた。
「へへっ。このまま体内から爆散させてやるよ!」
「……ようやく捕まえた」
ミラは左手で呪剣の柄をがっちり掴むと、右手の人差し指をダークに向けた。
「君の寿命、十年分。喰らえ」
「は!?」
ミラの指先に集まった灰色の光球がダークを直撃した。
吹き飛ばされるダーク。
その際にミラの体から呪剣が引き抜かれた。
「……がはっ。……油断したわけじゃ、ないのにな……」
ミラは膝をつきながらも、ダークを睨む。
満身創痍。
もうまともに戦えない。
これで終わっていてほしかった。
「痛ぇな、クソ……! 結構効いたぜ」
ダークは、立ち上がった。
呪剣を拾い、ミラの元へ向かう。
「さっきの寿命十年分ってなんだよ? まさか俺の寿命を奪ったのか!?」
力をふりしぼって現実魔法を放つが、あっさり闇で止められてしまう。
「この俺の! 輝かしい人生を奪ったのか!!?」
ミラの前に立ったダークが、呪剣を振り上げた。
そして──
「ふざけるなよ! ふざけんなよなぁぁぁぁあぎょっ!?」
呪剣を振り下ろそうとしたダークの顔面を、ルカが殴りぬいた。
「アスお姉ちゃん、今のうちに!」
「ミラ様、助けに参りました」
「……アスっち、無事だったんだね。よかったぁ……」
アスタロトはミラを抱きかかえると、すぐさまダークから離れる。
ミラは嬉しそうに笑うと、魔眼を封印するために再び仮面をつけた。
「えへへ……。私、頑張ったよ」
「私のためにありがとうございます、ミラ様。次は私が頑張る番です」
「警護はお任せくださいまし、お姉さま!」
ルカたちの帰還を確認して結界を解除したリジーが、最大出力の結界でミラを囲った。
クロムはミラの治療を開始する。
「……使えない……!?」
だが、回復魔法が発動しなかった。
正確には、ミラに使うことができなかった。
「リジーさん、ミラの警護をお願いします」
回復魔法が失敗に終わったクロムは、歯がみしながらダークと対峙した。
「……因縁はここで終わりだ。決着をつけようか、ダーク。」





