ビリヤール家の闇
「皇太子殿下。私にお話とは何かございましたか?」
「自分のことしか考えていない意地汚い貴族の話を聞いた。当主はどうやって対策したらいいと思うか?」
「話の詳細を伺わないとなんとも言えないですが…」
「それはそうだな。まず、その貴族は複数の愛人がいて、その愛人との間で生まれた子供には冷たい態度を取り、折に触れて、暴力を振るったり、食事を抜いたりするとか。屋敷の使用人たちも、同じように怒りの捌け口にしているらしい。まぁ、簡単に言えば虐待だな」
「なるほど…行き過ぎた教育が虐待になるというのは聞いたことがありますが、それはひどいですなぁ…証拠はあるのですか?」
「目撃証言ならば、あるが…それ以外は厳しくてな…」
「なるほど…では、暴力を振るっているところに入っていくというのが1つでしょうか」
「…皇太子にもなると、それが難しいんだよ。それに、その貴族の更に悪いところは、外国と通じているという噂があるとこ…どうした?」
さっと、公爵の顔色が変わります。考え込むかのようにうつむいたのは顔色を隠すためでしょう。殿下も途中で言葉を止めました。かかったとでも言うように、瞳の奥がキラキラと輝きます。
「…申し訳ございません、考え込んでしまいました。国を挙げて捜査するべき問題ですね。宰相は忙しいでしょうから、私が引き受けましょうか?」
「いや、多分大丈夫だろう。キースが証拠集めに動いているからな」
「左様でございましたか。それでは、私には何を?」
「正直に話せ。そなたがやったことをすべて」
「話すことなどございませんが…」
「白々しいな」
殿下がふっと笑って、その目をすっと細めました。藍の瞳の温度が下がります。背中からもやが見えたような気がして、わたくしは目を瞬きました。皇女殿下も少し身構えたように、体に力を入れたのがわかりました。
「何も心当たりがないと?」
「えぇ、心当たりはありませんね」
「そうか。じゃあこれはなんだ?」
「申し訳ございません。よく見えないのですが、なんでしょうか?」
「そうか、見覚えがないのなら説明するしかあるまい」
「これは、ビリヤール家の主従契約を結ぶ書類だ」
「な、なぜ、そのようなものが殿下の手元に!?」
「私が気が付かないとでも思ったのか?これは二重契約だ。契約時に解消ができないように縛る文言を隠して結んでいるな」
「なんのことでしょう?」
「まだ隠すつもりか?」
「かくしてなどいませんよ」
「まったく…呆れたものだ」
殿下が圧を強めると、皇帝陛下や皇后陛下も体を固くします。皇女殿下の手がきつく握られているのを見て、わたくしは殿下の側によると、肩にそっと手を載せました。
「殿下」
「クリスティア?」
「皇女殿下が怖がってしまっていますよ」
「そうか。クリスティアは怖くないのか?」
「怖くないですよ?殿下の怒りはわかりますから」
「そうか、?」
「えぇ。そうですよ。ねぇ?」
にこりと微笑んで、当主に同意を求めると、公爵の顔が真っ青になってしまいました。首を傾げると、殿下が少し慌ててわたくしの視界を塞ぎます。
「クリスティア、慣れていないのに力を使うと、体が保たなくなるから、抑えて」
「殿下…?」
「クリスティア、ゆっくり息吸って…そしたら、吐いて…」
「わたくし、落ち着いていますよ?」
「…落ち着いてないだろう?」
「えっと…」
「怒るのはわかるが、陛下たちのところまで下がっていてくれるか?」
「わかりました」
素直にうなずいて後ろに下がると、殿下はまだ真っ青な顔で震えている公爵に詰め寄り、答えを迫ります。
「この紙で結ばれているのは、主従契約。主人には従い、婚外子に対してはどのような扱いをしても構わないという内容がある。そして、ここをめくると、現れるのは、契約を破ることはできないという、終身雇用の文言だな」
「そ、それが、どうか…」
「私は、これはどういうことなのかと聞いている。答えられないのか?」
「えっと、それは、その…」
「まぁ、答えないならそれでいい。証拠は揃っているから、そのまま断罪するだけだ」
「え、殿下?」
「クリスティア、心配いらない。
言わないなら、すべての罪を一族郎党で負ってもらうだけだ」
「そ、それは…!」
「ならば、そなたが言えばよいだけだ。申し開きは聞くぞ」
「陛下…私は、私は…」
陛下が言葉をかけても、公爵は答えられません。そのまま、黙り込む公爵に、陛下は非情な現実を突きつけました。
「そなたが何も言わないのなら、そなた自身や夫人や子どもたちは流罪の上、使用人たちは全員解雇。ビリヤールの名を持つものは、全員何かしらの罰を負うだろうね。もちろん、家は取り潰す」
「それは…」
「そなたがしたことはそれだけのことだ」
「…わかりました」
「その処罰を受け入れると」
「はい」
「そうか、残念だな。皇太子よ、お前の判断は甘かったのかも知れぬ」
「申し訳ございません、陛下」
「構わないよ。じゃあ、そちらに関してはクリスティアにさせようか」
「わたくしですか?」
「確実な証拠を得たのはクリスティアだからね」
「わかりました」
急に陛下から指名されたので驚きましたが、横領の話をすればよいのでしょう。それ自体は簡単です。そして、うまく使えば、間諜を追い出せるのですから、やり遂げなければなりません。
「では、わたくしから、お話をさせていただきますね」
「頼んだ」
「この数ヶ月、皇室の予算に関する勉強をしていて、わたくし気がついたことがあるのです」
「それが私に関係あるのか?」
「えぇ。ここ数年の予算管理は貴方の仕事でしょう?宰相から任されていると聞いています。まぁ、そんなことは良くて。実は、横領があったのです。しかもそこそこ多額の」
「横領…?」
「どこのお金が横領されていたと思いますか?」
「ど、どこだ?」
「皇后様の予算です。皇后様の予算管理は筆頭侍女がしているのでしょう?そして、筆頭侍女は、セシル様、あなたですね」
「はい、わたくしです」
「わたくし、というか、オースティン家が気がついていないと思われているあたり、とても癪なのですけれど、貴方と、公爵は愛人関係にありますね」
「なんのことでしょう?」
「あらあら。皇后様が教えてくださったんですよ?しらを切るおつもりですか?」
「っ…何教えて…!」
「主人に対しての態度ですか?それが」
「うるさいわよ!どうせ、あんたたちなんて、所詮は、キャンベル皇国の人間じゃない!」
「やっぱり、そうだったのね」
「シャルロット様…だって、」
「だまりなさい、セシル。ここはキャンベル皇国よ。わたくしは、貴女を連れてくるべきじゃなかったのね…」
「皇后様、セシル様の罪がこれだけで済めば、それで良いのですけれど」
「どういうこと?」
「ねぇ、セシル様。公爵に近づいた理由は、情報を得るためでしょう?貴女の部屋にはね、公爵からもらった贈り物達の他に、不思議な言葉が書かれた紙がたくさんあったのですよ」
「それがなに?」
「あの文字は、イディオマ語の旧字体ですね」
「っ…どうして読めるのよ!」
「わたくしは本が好きですから。内容を読み上げましょうか」
「やめて!」
「あら、どうしてですか?」
「だって、その中には…」
「なにがかいてあるんですか?」
「この国の予算とか、鉱山の情報…公爵様が教えてくれたから、!」
「ちょっ、何を言っているんだ!?私は教えてなど!」
「だから、白々しいんですって。横領されたお金の行き先が貴方の家だって言うこともわかっているのだから、共犯は確定でしょう」
「だから、私は、それには関与していない!セシルに情報は渡していたが、それだって、皇后様のために必要だと言うから…!!」
公爵は思いっきり自白しています。セシル様の顔色が悪いのと反対に、できるだけ押し付けようとする、公爵の顔は真っ赤でした。
「お金だって、セシルが、皇后様のために、非常時の予算を取っておくべきっていうから、協力してやっていただけじゃないか!」
「…陛下」
「証言は取れたな。連れて行け」
「陛下、私は悪くありません!キースも、ジュリーもなにか言え!」
「さようなら」
「二度とお目にかからないことを願います」
突き放した物言いの二人に、くすりとわたくしは笑ってしまいます。公爵ににらまれたので、きれいな笑みを作ると、丁寧にカーテシーして、お別れの言葉を述べておきました。
「いままで、ありがとうございました。ゆっくりお休みくださいませ」
「っ、お前!!」
「さて、セシル様は、いかがですか?あの男が言ったことを全部信じていいですか?」
「あんな奴の言うことを信じるの?」
「まぁ、あれでも、貴族で二番目に偉い人物でしたから」
「ふぅん。さすがこの国って感じね」
「あらあら。よく口が回ること。セシル、わたくしが怒っていないと思っているの?」
「シャルロット様…わたくしは、貴方の…!」
「それは散々聞いたわ。陛下、わたくしの侍女が誠に申し訳ございませんでした。わたくしの教育不足でした」
「で、どう処分する?皇后よ」
「…処刑するしかないのかしら」
「そんな…」
今更、真っ青になる辺り、もう遅いのですが、つらそうな表情の皇后様もお可哀想なので、少し助け舟を出してみます。
「どちらか選ばせましょうか」
「クリスティア?」
「自分で自分の命を絶つか、皆の前で処刑されるか」
「っ…それ、なら、自分で死にます」
「そう。ならば、全て話してちょうだいね」
「え、?」
「内容によっては、死に方を選ばせてあげようと思って。この国で死ぬか、故郷の地を踏んで死ぬか、もしくは、寿命まで幽閉で済むか」
「わ、私、何でも話します、!だから、だから、助けて…!」
「皇后様、お任せして良いですよね?」
「えぇ。クリスティア、ありがとう」
選択肢を与えたほうが、人間は自白しやすくなります。何でも話すと言い出した彼女を、騎士たちが連れていき、部屋には沈黙が落ちました。後、残るはビリヤール家の処分です。
「陛下、彼らの処分は?」
「そうだな…婚外子たちはとりあえず、保護しよう。それから、血族はバラバラにして追放しろ」
「かしこまりました。至急、追放先を定めます」
「父上、キースは、私が保護します」
「それでしたら、陛下、ジュリー様はわたくしが保護してもよろしいでしょうか」
「「クリスティア?」」
部屋の中の皆の声が揃います。お父様とお母様の呆れたような視線と、やはりというふうに納得した様子のリナたちを除き、残りの面々は目を点にしていました。当の本人であるジュリー様も鳩が豆鉄砲を食ったようです。
「…殿下、だめですか?」
「いや、かまわない」
「ではそうしますね」
「二人の保護は、皇太子宮に任せようか」
「「かしこまりました」」
「残る子どもたちは、王宮で一度保護し、個人の希望を聞きましょう」
「では、皇后にそれを任せる」
「謹んで、お受けします」
「コンスタンツ、大丈夫か?」
「はい。お父様」
「緊迫したところを見せてしまってすまないな」
「いいえ。わたくしもああいう行動を取れるように努力します」
「あぁ」
処分が一通り定まり、皆やることが明確になったところで、その場は解散になります。
「それでは、皆、そのとおり動くように」
「「承知しました」」
さぁ、結婚式しよう!って予定だったんですけど…
ちょっとこれ以上書いてる暇がないということで、連続更新、ここでストップにします。
年内にもう一話か二話…(できれば、結婚式したい…)上がるはずなので、楽しみにしていてくださいね。
また、半年後くらいに会いましょう!




