キース視点 宰相の令嬢は
執務室の窓に明るい色の日傘が映りました。人の寄り付かない皇太子宮に令嬢が紛れ込むことなどありませんし、誰なのだろうと思って窓辺に近づくと、傘の隙間から顔が見えました。淡い色の金の髪。オースティン嬢です。
「殿下、オースティン嬢が散歩をなさっているようですよ」
「そうだな」
興味のなさそうな声で返事をしつつ、殿下が立ち上がって窓に近づきます。視線をオースティン嬢に向けたまま、こう問われました。
「お前はどう思う?」
「オースティン嬢についてですか?」
「あぁ」
「体が弱いと聞いていた割にはそこまででもないように思いました」
「妹たちに比べれば、顔色もあまり良くないし、痩せているように思う。食事の量も少ない」
「よく見ていますねぇ…」
想定以上にたくさんの情報が流れてきて、少し驚きました。殿下は女性に興味を持つことはありませんでしたから。
「基本的に冷え性なのだろう。食事を考えるように言ってあるが、どうなのだろうな」
「平民に対する拒否感がないところが、私は気に入りました。孤児にも拒否反応を示さないなんて、大したものではないですか」
「慣れているのだろうが、皇后としての慈善事業にも忌避感がなさそうでいいな」
「そういう殿下はどう思ったのですか?」
「…可愛らしい人だ。だが、意思の強い目をしていた。パトリシア譲りの社交力もあるし、頭の回転も早い。皇后にするには他にない逸材だろう」
「もっと個人的な感想はないのですか…」
「可愛らしい人だといっただろう?」
「可愛らしい以外の言葉はないのですか!だから、妹姫にも疎まれるのですよ」
「余計なことを言うな。そうだな…色素が薄い容姿をしているからか、消えそうで怖い」
「怖い…ですか」
「儚い見た目をしているから、壊してしまいそうな気もするな」
「…殿下がおっしゃると現実味がありますね」
怖さを感じるのなら、すこしは情があるということでしょう。細かいところまでご覧になっているあたり、気に入ったようです。そんな殿下に一枚の書類を渡しました。
「そういえば、殿下、面白い報告がございましたよ」
「…そうか」
読み終わった瞬間、青い火に包まれたその紙に書いてあった情報は、殿下の興味を引いたのでしょう。少し瞳が輝いて見えます。
なにはともあれ、殿下が女性に興味を示してくださっただけでも、オースティン嬢には感謝しかありませんね。
キースはエドワードの側近です。
上級貴族で、オースティン家に続く家柄の出身です。




