第二十八話 婆稚の宿題
「白城ーーー!!」
白城は床に倒れて呻いていた。そこに所轄が到着した。「う!」入口の首が折れた死体を見ると、流石に怯んだ。
「木藤刑事!大丈夫ですか?!」
「俺は大丈夫だ。白城がやられた。救急車は来ているか?」
「はい!すぐ呼びます」
救急医が飛んできて、白城に救急手当をした。「大丈夫です。すぐに搬送して手術をします」警備員は遺体を包んで運んで行った。
「刑事さん!百目野先生!無事ですか?」さっきの警備員が戻ってきて辺りを見回した。「俺たちは大丈夫だ。みんな避難させたのかい?」
「はい、ですが小泉教授が残っています」
「小泉教授を呼んでください」「今ですか?」「至急話したいことがあるんです」「わかりました」警備員は小泉教授を呼びに行った。
「小泉教授!」「百目野君、一応病院へ行け」「結構です。それより教授に話したい」
「私も聞きたい」と木藤が応じた。「木藤さんは白城さんを見遣ってください」「いや、付き添いをしたところで奴は喜ばないし、すぐに手術だろう。阿修羅の真偽を聞きたい」
「わかった。では教授室に行こう」
木藤は前田警視正に連絡し、無事だと云うこと、白城が傷を負ったことを報告し、SAT(特殊部隊)の要請を断った。
「木藤君、終わった・・・と思って善いのかい?」前田は聞いた。
「阿修羅は去りました。もう騒ぎは起きないでしょう。ですが・・・」
「どうしたんだい?」
「奴は人間に贖罪を下したんです」
「贖罪?」
「これから百目野先生と贖罪の見解を聞きたいと思います」
「わかった」
大学を囲んで警備した多くの所轄警官たちは帰って行った。
木藤は、いいから職場に戻れと云いながらも所轄警官が5人警備について来た。「仕方ねえな」「我々は部屋の外で待っています。木藤刑事、1発撃ってますね。何が起こったんですか?」「聞きたいなら中に入って我々の話を聞いてろ」
木藤は録音機を用意した。
部屋に着くと小泉教授が「喉が乾いたろう?アイスコーヒーで善いかい?」
「先生、僕が入れます。えーっと、8人分か」百目野が変わった。小さな冷蔵庫が置いてあり氷もあった。小泉教授は大のコーヒー好きである。百目野は心得ている。
「先生、こいつらはいいよ」と、所轄を指した。
「何を云っている?木藤刑事、いつも街を守ってくれているお巡りさんたちではないですか?さあ、遠慮せず」
「恐れ入ります」所轄警官たちは敬礼をして手を出した。
「お前ら・・・」木藤が睨んだが構わず飲み始めた。「先生たちが先だろう?」
「ハッハハ」小泉教授はその様子を見て笑った。
「さて、百目野君、木藤刑事、何が起きたか聞こうか?」
百目野君と木藤刑事は話し始めた。
「ううーーーむ・・・」
「どうです?」
「俄には信じられんよ。そんなことが可能なのか?学者たちなら出まかせだと主張するだろうね」
「古代の地球だと云う映像を見せられました」
「バクテリアが?」「はい、数億年前だと思います」
「時間を超越したと云うことか?現在、地球の生物は約3000万種と云われるが、みな、細胞を基本に生きている。生物の存在を示す最古の痕跡は、42 億8000万年前に生息していたと考えられる微生物の化石が、カナダで見つかった」
「よ、42 億8000万年前?!百目野先生!じゃあ、あの映像は?」木藤は俄信じられなかった。
「さあ?人間の痕跡など本当にあったのか?小泉先生、どうなんでしょう?」
「ナマコのような無脊椎動物、1本の内臓の管が生物の体の始まりで、後、そこに手足などがくっついて出来たのが人体。その進化は何が起きたのか?化石を見て、結論が出るのか?どうか?バクテリアだったなら10億年前ぐらいと云うのが現代の古生物学の見解だろうね」
「阿修羅は三千世界(宇宙)の規律を守る微生物を移植したと云っていました」
「三千世界の規律か・・・もしかしたら我々はその外来遺伝子細胞によって進化したのかもしれない。人体は宇宙の構造と似ていると云われるからね」
「阿修羅は数千年かかったと云っていました」
「人間の知力を超えた彼らでさえ、それだけ難しかったと云うことだね。で、贖罪とは?」
「僕が思うにオリオンの三つ星は地上に表す時、それが何で表したか?で善か?邪か?で決まるのでは?と思いました」
「反社会の連中は生贄だったってことかい?」
「そう、生贄です。そこに武速の力が加われば邪が増幅する」
「須佐はそれを防いだ。しかし、周りの4つ星で完成などと云ったのは誰だ?」木藤は聞いた。
「僕かもしれない」百目野が答えた。
「いや、俺は佐助から聞いた。あくまで想像だと云っていたが・・・それに固執しすぎたか?」
「いや、婆稚がそう仕向けたのかもしれない」
「なんだって?」
小泉が述べた。「婆稚は頭の切れる奴だな。他の荒神たちから甘いと云われたそうだが?」
「ええ、奴らは武を持って根絶すれば善いと云った。しかし、婆稚は猶予を与えた。そう、猶予です。人類に対して十億年前から伺っているんですよ。どんどん進化して行き、類人猿になり、人になっていった。そう、初めはピュアに本能で生きていた。何も問題は無い。しかし、1万5000年前ぐらいから欲望やらが目覚めた」
百目野はハッとした。「もしかしたら・・・」
「須佐の目的は?自然界の統制。魔との戦い。魔とはどこから来るのか?異世界だ」
「何を云ってる?先生」
「婆稚が異世界から移植したものと行動が一緒です」
「須佐にも組み込まれたと云うのか?」
「須佐一族は元々人間だったと云っています。彼らにその異世界細胞が何か使命を与えたのではないでしょうか」
「阿修羅の敵だぞ」
「奴らは人類が地球を侵し、宇宙に影響を与えていると云った。そして鉄槌を下したのだと」
「それとどう繋がる?」
「外来遺伝子は人類の進化を見る内、彼らのせいだけではないと考えた。それは須佐が戦う『魔』です。『魔』が人に影響を与えていると」
「『魔』・・・か」
「『魔』も同じ異世界生命体。それを粉砕すべく作り出した存在」
「アヌンナキは?」
「異世界細胞は何も出来ない。だから阿修羅が滅した。想定外だったんだ」
「しかし、人類はアヌンナキに影響された」
「そう、欲望と云うものです。聖書に書かれる果実、りんごを食べた」
「警告だ。りんごは警告かもしれない」
「結論は?」
「欲望です。人類の邪の基本は欲望です」
「幾らでもあるな」
「それが目に余るようであれば・・・異世界細胞が動き出す」
「なんと云うことだ!山のように原因は考えられる」
「それが婆稚の宿題だ」
木藤は録音機を止め、聞いた。
「先生方、とてもじゃないがついていけない。とは云え、もしそうだとしたら我々に何ができる?」
「・・・何も出来ません。木藤刑事、その録音をどうするんです?」
「本庁の捜査本部で流そうと」
「やめた方が善い。私と百目野君の個人的な見解だし、流石に誰も信じまい」
「前田警視正には聞いてもらいます」




