第二十六話 婆稚(前)
3人は車のまま構内を移動した。「1階の端です」警備員がそう教えた。
ここか。「白城、銃はあるな」「ええ」
3人は静かに中に入った。刑事2人は銃を構えた。
「入り口で誰か倒れている」
「あれは田中じゃないか?!」警備員が口を塞いだ。
「中から声がする」
木藤が倒れた警備員の様子を見た。
「だめだ、首の骨が折れている」
警備員は震えている。
木藤が、そーーっと中を見遣った。
「あれは?学生か?」
「見たことのない学生です。1回生でしょう」警備員がそう云った。
少年の背から腕が4本ウネウネと動いている。
「あ、あれは何です?!」警備員は目を剥いた。
「化け物め。やはり阿修羅か」木藤は銃を構えてドア陰で狙っていた。
「野郎、学生に化けて出たのか?」
「刑事さん、どう云うことです?仲間は殺されるし」
「警備員さん、他の警備員を集めて校内に残っている先生や学生を外に避難させてくれ」
「は、はい!」
警備員は場を外した。
「SAT(特殊部隊)を呼ぼう・・・・」
「木藤さん、間に合いませんよ。手続きが・・・我々でどうにかしないと」
「白城、警視正の前田さんに連絡しろ。手っ取り早いだろ?」
「所轄ならすぐに」
「そうだな。大学回りを固めるんだ。行け」
白城は無線機のある車に戻った。
「あの2人、何を話している?」
「貴様、学生などに化けているのか?」百目野は聞いた。
「先生、これが僕の姿ですよ。このままです」
「・・・・?」
「像になってますよ」
「あ!」
「そう、阿修羅像は僕がモデルですよ」
「あの像の顔だ!」
「ちなみに帝釈天と戦い、仏に帰依したのは僕です。帰依して神と同じ姿になった」
「と、云うと?他の3柱は?」
「荒ぶる神、邪神、修羅のまま」
「1つ聞きたい。なぜ?その荒ぶる神たちのやったことがバラバラなんだ?」
「そのことですか」
婆稚は云いずらそうだった。
「我々4柱は一心同体・・・・のはずでした。この地球の人類に何か失墜を喰らわそうと計画した。・・・・誰か来たようです。出てきたらどうですか?」
「は!気づかれたか」木藤は前へと出た。
「木藤刑事!」百目野が叫んだ。
「刑事?ふふ。先生、隠れて呼びましたね。須佐も呼びますか?」
その時、婆稚の身体から無数の枝葉がニョキニョキと伸びた。
それはあっという間に部屋中に張り巡らされた。
「これで須佐は感知出来ない」
「阿修羅!動くな!」木藤が銃を構えて叫んだ。
婆稚がそちらを向き、腕が1本ビュッと伸びた。
ガーーーーン!!1発撃った。その弾丸は婆稚の目に当たった。そして婆稚は倒れた。
「先生、無事か?!」駆け寄った。
ニョキ。
婆稚が起き上がった。目の部分に穴が開いている。
「うう!こいつ」百目野も木藤も立ち竦んだ。
すると目の当たりがゴニョゴニョと動き、新しい目が再生された。
「化け物が!」「何という再生力!」
「刑事さん、僕は暴れにきたわけじゃない。話を聞いてほしい」
「ふざけるな!人を殺しておいて!」
「先生!木藤さん!」白城が戻ってきた。「な、なんだ?これは?!」銃を婆稚に向けた。その時、辺りの枝が白城を刺した。
「ぐわあ!」
「白城ーーー!阿修羅、き、貴様!」
「死にはしませんよ。僕の話を聞けば解放しますよ」
「貴様、白城を囮に使う気か?!」
「迷う時間は無いですよ。さあ、2人とも座って。木藤刑事、銃は下ろしてください」
う、う、うう。白城は苦しんでいた。「白城・・・・話を聞こう・・・・」
「君は仏教に帰依したのに何故?こうも破壊を続ける?」百目野が聞いた。
「それは僕の本心ではないし、帰依したと云っても我々は甘くはない」
「どういうことだ?」
「この宇宙は幾千もの空間で出来ているが皆、どこかで繋がっている。つまり、どこかで破壊が起きれば三千世界に影響を及ぼす」
「それがこの地球で起きていると云うのか?」
「そうです。それぞれの考えでこの地球をどうするか話し合った。1柱は細菌を世界にばら撒く、1柱は大洪水、1柱は核に似たエネルギー爆弾で地球を破壊する。我らにそんな力は無い。そしてオリオンの力を借りたのだ」
「オリオンには何があるんだ?」
「あれは星では無い。星にカモフラージュしているのだ」
「何だと?」
「あれは異世界空間への最初の扉」
「最初の扉?」
「つまり、穴」
百目野は、ハッと気づいた。
「住吉大社、渾天説、浦島伝説、竹取物語!!」
「何を云っているんだ?先生」
「古代、星は空に開いた穴だと云う説です。だから筒と呼んでいました」
「そんなの荒唐無稽だ」
「住吉大社の祭神はオリオン座。航海の神です。だから3神です。底筒之男神、中筒之男神、上筒之男神。その向こうは光り輝く時間の無い世界、黄泉の国だと云う」
「だから?」
「彼らは知っていたんだ!」




