後始末(リード)
「なんであんなことをした、イライザ」
俺は出来るだけ冷静に言った。そうでなければ叫び出しそうだからだ。
「リード…あなたにあんな冷たい態度を取られるなんて、思っていなかった」
イライザは薄紫の瞳をこちらに向ける。ソファに座り、隣には夫であるスタンリー公爵もいて、無表情でだんまりと俺と妻のやりとりを見守っている。
「一歩間違ったら死ぬところだったんだぞ…!」
俺は立ち上がりかけ、今回の被害者であるシューマスの兄、ライオネル・ラングレー侯爵に止められた。
「理由は…今は話せることじゃないだろう。今回の件はこちらはそれなりの賠償を請求させていただく。それでよろしいですね。公爵」
「…言い値を払おう。元王族である妻の失態をそれで済ませてくれると言うならな」
「こちらも弟達の祝い事の前です。大事にはしたくないので、構いません」
2人が今回の賠償や今後のイライザの処遇について話を進めていく。
イライザは元々無邪気で我儘なところがある。でもまさか俺の隣に居る、というだけであの階段からリィナを突き落とそうとするなんて。
シューマスとエクレールが咄嗟の事態に動けていたから良かったが、あのまま落ちていたらと思うとぞっとする。
やっと目が覚めた思いがした。
俺が好きだったあのイライザはもうどこにもいない。
美しい過去に囚われ、俺は馬鹿だった。
もう一度だけ会いたい、とどこかで思ってしまっていたんだ。
どちらにせよ、もう終わったことだったんだ。
「…リード?どうした?」
ライオネルが聞く。俺はハッとした。その場が俺に注目していた。あの薄紫の綺麗な目も。
「…俺はもう2度とイライザ様にお会いしません。その条件も盛り込んでおいてください」
2人は静かに頷いた。
「…そんなっ、リード」
イライザが立ち上がりかけるのを公爵が止める。我儘が許されるのも、元王族の血のおかげか。
俺は振り返ることなくその場を辞した。
何かが壊れる音を聞きながら。




