白黒
次第に迫ってくる大きな声に私とロニーはベッドの下で寄り添って身を縮めた。
どうやら山賊の1人がこの宿に入り込んで来たらしい。
「姉ちゃん、絶対に声を出さないって約束出来る?」
「…ロニー?」
ロニーは茶色い目を光らせた。
「何があってもだ。例え僕に何があってもここから動かず声を出さないと約束して」
私はロニーの両腕を掴んだ。
「ダメよ、ロニー。何考えているの?」
「2人死ぬより1人でも生き残った方が良い。僕はシューマスさんに姉ちゃんを任されてるんだ」
「死ぬなんて言わないで、それなら私が…」
「ダメだ。姉ちゃんはダメ。女子供は守られるんだ」
「あなただって子供じゃない」
「…姉ちゃんはわからないようだから言うよ。僕は男だ。姉ちゃんがもし山賊に拐われたら死ぬよりも辛い目にあう。それがわかっていて姉ちゃんを差し出すことなんか出来ない。一生のお願いだ。頼むから僕の言うこと聞いてよ」
私は涙をポロポロと流しながらロニーを抱きしめた。
荒い声が、どんどん近づいて来た。
ガンっと蝶番の軋む音がした。扉が破られようとしている。
「姉ちゃん、約束だよ」
そっと私が回していた腕をほどくとロニーはベッドの下から出た。
もう一度ガンっと音がして扉が蹴破られる。
「なんだぁ?ガキ1人か。お前連れはどうした」
「兄ちゃん達が貴族のお姫様を助けに行くって出てった」
ロニーは怯えることもなく言葉を返す。
「チッ、子供1人だ。金目のものは持ってなさそうだな。…お前こっちに来い」
トコトコと歩く音がする。ロニー、ロニーお願いだから死なないで。私はどうして良いかわからなくてただただ息を殺す。
「なんだよ、何も持ってないよ。路銀なら兄ちゃん達が持っている」
「わかってるさ…お前良いとこの坊だな。夜着なのに刺繍がある」
「…母さんの趣味だ。僕の趣味じゃないよ」
「家はどこだ」
「遠い」
「どこだって聞いてるんだ。答えろ」
「確かに僕は商人の息子だけど、身代金を取れるような身分じゃないよ」
「兄ちゃん達とは誰だ」
「…兄弟だよ。4人兄弟なんだ。この部屋と隣の部屋を使っている」
ふーんという山賊の声とロニーのごくりという喉の音が響いた。
「なーんか良い匂いするんだよなぁ、この部屋。本当に男と一緒なのか?」
「…兄ちゃんが菓子食ってたから」
パンっと殴る音がした。ガタガタっと音がしてロニーが倒れたのがわかった。
私はもう何も考えられなくなってベッドの下から飛び出した。
「ロニー!」
「姉ちゃん!バカ!」
「ほーら、やっぱり居たなぁ」
下卑た笑い声が響いた。




