陽の当たる場所
がらん、とした部屋。
必要最低限の収納にポツンとある、ベッド。その上に丸まった黒い耳の犬。シュー様だ。
私は鍵を開けてくれたリード様に頷くと、後ろ手に扉を閉めた。
「シュー様」
呼びかけるとピクリと大きな耳が動いた。
「起こしちゃいました?ごめんなさい」
そっとベッドに近寄り、まだ包帯の巻かれた右足をそっと握った。
「私、やり方間違えたみたいですね。恥ずかしいです」
黒い目を開けると、私と目を合わせる。
じっと見つめ合う。何も映してないかのような黒い目を見て笑う。
「私、シュー様が騎士服着ているところ、すごく好きです。とっても格好良いから。責任感が強いところも好きですし、もちろん、お顔もすごく、すごく好きです。その、リード様よりもずっとずっとシュー様の方が私の好みです」
「…私の本当の気持ちです。それを伝えたくて」
「この前は嘘をついてごめんなさい。本当は彼氏なんて今までいたことありません。シュー様が最初の彼氏…でした」
「シュー様が私を忘れたとしても大丈夫です。私が覚えています。ずっとずっと出会いから逐一しつこいくらい覚えていますから」
「2人の出会いが無駄じゃなかったって思いたいんです。シュー様がこれからしあわせなら私はそれで良いんです」
「今日はそれを言いにきました。おやすみのところお邪魔してごめんなさい」
そっと立つと、扉に向かって歩き出す。
「…嫌だ!リィナ!」
後ろから抱きしめられた。
「嫌だ。忘れたくない。一緒に居たい。ずっとずっと、一緒に居たいんだ」
「シュー様」
良かった、人化したみたいだ。獣化を長く取りすぎると戻りにくくなるって聞いてたからホッと息をつく。
「お仕事、行かなきゃダメですよ」
私はクスクスと笑った。
「おい、聞いただろう」
「…聞いてるわよ」
カリンさんの声だ。私はシュー様の腕が強く、私を抱きしめるのを感じた。
「僕はリィナと一緒になる。絶対に本能に負けたりなんかしない」
ギュウギュウと力いっぱい抱きしめてくる。
「シュー様…痛い」
息も絶え絶えで私は言う。
「私1人のものにならない番なんて要らないわ。あなたに差し上げるわ、リィナさん」
「シュー様はものじゃないです」
私がむくれて言うと扉の向こうでくすっと笑う。カンカンとヒールの足音が遠去かって消えていく。
「シューマス、明日は仕事に出ろよ」
「わかりました」
それと、と扉を開いて私を連れ出すとシュー様に後ろを向かせる。
「成人前だからな。これは回収だ」
にやり、といつもの笑顔を私に向けた。
あ、全裸でしたか。そうですよね。
犬は服着てませんもんね。
私は自分の先程の状況を思い出して真っ赤になった。




