13 何をすれば
私はがやがやとした飲み屋の隅っこで、溶けた氷で薄くなったカクテルをちびちびと飲んでいた。
あの後、幼馴染のマリィところに駆け込んで一部始終話してまた大泣きして、涙が枯れてしまうんじゃないかってくらい泣いた。
ようやく気持ちが落ち着いた時には、マリィの家で寝てた。
翌日「失恋には新しい恋じゃー!」と、マリィに連れて来られた男女の人数の合わない飲み会で、私は正直浮いてた。
明らかに泣き腫らした暗い表情をしている私に話しかけてくれる猛者は今の飲み会の中には居なくて、こうやって隅っこの席を温めている。
「よお」
私がはっと顔を上げると、銀髪が見えた。その上には、同色の耳。リード様だ。
「シューマスより、俺の方がタイプらしいな」
彼は私の前に腰掛けると、淡々と言った。
「はい。そうです」
私も彼と同じような温度感で、淡々と返事した。
「彼氏も常時三人は居るらしいな」
「はいそうです」
そこで、リード様は堪えきれないようにして、ぷはっと吹き出した。
あ。彼もこういう顔すると幼いなと思って、私も少し笑った。
ひとしきり豪快に笑って落ち着くと、リード様は言った。
「シューマスが、獣化を解かなくてな。騎士の仕事を休むのも、そろそろ限界が来ている」
私は彼の話を聞いて、表情を固くした。だって、彼とはもうお別れだって済ませてしまった。
見え見えの嘘をついて、それでも会いたいなんて思えなかった。
「……そうですか」
「これを聞いて……何も思わないのか?」
「私には、もう。関係のない人ですから」
彼の質問に対しすげなく返すと、手に持ったぬるくなったカクテルを飲み干した。
結構前に届けられていた新しいグラスへと、手を伸ばす。
「そうだな。もう関係ないな」
「何の、関係ないです。もう」
私は確かめるようにして、関係ないと何度も言った。
「……君はあれに、最後に精一杯の愛情をかけてくれた。それは、俺もシューマスだって、ちゃんとわかっているよ。それでも、君に頼みたいんだ。勤怠の不良で辞めさせられれば、あいつには先がない。この国の騎士を一度辞めるにしても、きちんと筋は通すべきだ。あれは根っからの騎士だし、今までもそうあるようにして生きてきた。だから……どうにか、獣化を一度解かせたいんだ」
「……それは私にはどうすることも出来ません。他人ですし」
「そう言わないでくれ。どうか、一度会いに来てくれないか」
「出来ません」
きっぱりとそう言い放ち、私は強い光をもつ青い目を見返した。
リード様は私の決心は固いとみてか、はあと大きく息をついた。
「あまり……長い間獣化を続けると、元に戻れないかもしれない。どちらにしても、一度サリューに戻そうかと思っているんだ」
「……あの、なんでシュー様は、獣化を解かないんですか」
私は彼の言葉を、不思議に思った。
もう私という邪魔者は居ないんだから、獣化を解いて運命の番と一緒になれば良い。
「まだ、あれは……君を想っている。あんなに下手な嘘をついてまで、自分に優しくしてくれた君を……忘れられないんだ」
私の顔は、カッとして熱くなった。
それもそうだろうけど……彼に下手な嘘だとバレていたこと、運命の番よりも、ほんのすこしの時間を過ごした私を、まだ優先して想ってくれていることなんかを、じわじわと実感してきた。
「……私だったら、自分の好きな人が幸せになるなら……なんでもします。憎まれても、蔑まれても。その人が幸せになる方法を、私は選びたいです」
それは、まぎれもなく私の心の中にある嘘偽りのない気持ちだった。
リード様の青い目を真っ直ぐに見つめ、彼は何も言わずに頷いた。
「あの……馬鹿な私に、教えて欲しいんです。私が何をしたら、これからのシュー様のためになりますか?」




