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エピローグ

 魔王城の一室にルーズカースは呼び出されていた。

 相手はもちろん父である、エンドカースである。

「ルー君、あの勇者だけはやめなさい。他のならいいのだから」

「父様、我は……」

「光の神と対決した後、魔王の座をルー君に譲った。その後色々調べて、光の間が消えた時、セリナという村に光が落ちてきて女の腹に吸い込まれ、それが誰なのかをようやく最近突き止めたのに。ルー君を光の神等にやらないために」

「父様。勇者は光の神の記憶がありません。異なる別の人格です。それを言ってしまえば、人は全て光の神の力により作られた物であり、光の神そのものです」

「だけど、ルー君!」

「ようはその力をどう使うか。それはその者の意思によります。だから、勇者は例え光の神の生まれ変わりだとしても、勇者が勇者である限り、我は大丈夫です」

「光の神が、その勇者の意思を壊すか乗っ取ってしまったらどうするつもりなんだ!」

 声を荒げるエンドカース。

 けれどルーズカースは引かない。

「そんなこと、我がさせません」

「どうやって!」

「我は勇者の事を愛してます。だから勇者に酷い事をする何者も許しません。例え、父様であろうとも!」

「ルー君……」

 ずっと可愛がってきた息子が初めて反抗した事に、エンドカースは驚く。

 そして非常に衝撃を受けて、いじける。

 部屋の隅っこでのの字を書いているエンドカースをアクセルはちらりと見て、

「ルー君は本当にそれでいいんだね」

「はい」

「両想いなんだね」

「はい」

「……わかった。君達の仲は認めよう」

「アクセル!」

 弾かれた様にエンドカースがアクセルの名を呼んだ。

 それにまあ待ってとアクセルが静止して続ける。

「但し条件がある。まずは勇者がルー君に勝つ事。これは良いね?」

「はい、父様達もそうでしたから異論はありません」

「もう一つは、ルー君と戦う前に、僕とエンドカースが一度戦う事だ」

「それは……」

「一応、光の神の件があるから僕達自身がこの目で確認したい。良いかな」

「……殺したりしなければ」

「約束しよう。それで良いな、エンドカース。いい加減ルー君も大人なんだから」

 エンドカースは黙っている。

「エンドカース、いい加減子離れを……」

 苛立ったようにエンドカースが答えた。

「分かった、アクセル。どの道ルー君に勇者が勝てばルー君は勇者のものだ。ルー君、手加減したら駄目だよ」

「分かっています」

「まったくどうしてこんな事に……」

 ぶつぶつと呟くエンドカースを宥めるように、アクセルが付き添う。

 そこで、鈴の音がした。

 これは勇者が来た事を知らせる鈴の音だ。

「おい、早過ぎないか?」

 しかし窓から確認すると、かの勇者達である。

「ここまでの時間は……二日ぐらいしかたっていないだろう?。僕達は転送陣を使ってここまで来たが、あれは魔族しか使えないはずだろう?。魔族専用だから」

「勇者の仲間の一人に、魔族とのハーフがいる。彼が使ったのだろう」

「転送陣の場所が分かったのは……いい、自分で聞く」

 アクセルが走り出す。エンドカースはそれを追う。

 すでに、四天王の二人が倒されている。こんな短時間となると瞬殺だ。

 いつの間にそれほど強くなったのか魔王は首をかしげるも、自分お役目を果たすためにのろのろ歩き出す。

 魔王として勇者と対峙する。

 ただ会えると思うだけで、魔王は胸は高鳴った。


「勇者様、あれ、魔王様じゃないですか?」

「違う、あれは父親だろう」

「……よく分かりますね、勇者様」

「……愛のなせる業ですね、勇者様」

「……ここまで行くとある意味凄いですね、勇者様」

 褒められている気がしない仲間の言葉に、勇者は適当に頷き目の前の二人に焦点を合わす。そして、

「お父さん!、息子さんを僕にください!」

 勇者は力いっぱい叫んだ。

 エンドカースがわなわなと震えた。

「誰が貴様のお父さんだ――!。ルー君は渡さない!」

「エンドカース!、一人で突っ走るな!」

 アクセルは慌ててエンドカースを止めようとするも時は既に遅く。

 怒りに任せてエンドカースは勇者を殺そうとする。

 しかし次の瞬間にはエンドカースは倒されていた。

「やりますね、勇者様。わざと挑発して一人づつ戦おうとするなんて」

 仲間がそんな戦略に感激しているのを見て、勇者は、

「いや、本当に関係を認めてほしかっただけなんだが」

 仲間は沈黙し、お互い顔を見合わせてこれはもう駄目だという仕草をした。

 そもそも突然勇者が強くなり、仲間の自分達が援護するまでも無いのだ。

 それらをアクセルは見て、問いかける。

「勇者……レンヤ君か。エンドカースは殺していないね」

「エンドカース?」

「当代魔王の父親の名前だ」

 そういえば、勇者は当代魔王の名前しか知らなかった。

 その辺も後で勉強しておこうと考えて、問いかけてきたもう一人に頷く。

「ええ、魔王には嫌われたくありませんので、気絶させただけです」

「そうかそうか。俺はアクセル。エンドカースの恋人で、元勇者だ。君と戦わずにここを通すから、幾つか質問に答えてももらっても良いかい?」

「それは……かまいませんが」

「よろしい。まず一つ目だが、君の仲の光の神はどうしている?」

「この前、転送陣の場所と使い方を教えてもらいました。会ったのはその時が初めてです」

「ふむ、では次は、光の神は君の意思を壊す事はありえるのかい?」

「彼が言うには、俺と彼は同じものだそうです。僕の意識と彼とが融合する事はありえますが、消える事は無いと言っていました」

「……そうか」

 顎に手を当ててアクセルは考える。

 このレンヤとルーズカースがくっついても問題は今の所なさそうである。

 そもそも無理やり引き剥がした方が、暗黒面にどちらも落ちそうだ。

 それに、光の神の行動を知るにしてもくっ付けておいた方が良い。

 なによりルーズカースはきっと、レンヤでなければ駄目なのだ。

 アクセル自身がエンドカース無しではいられないように。

「じゃあ、がんばれ。次の部屋にルーズカースはいる」

 そうアクセルが勇者に向って手を振り、エンドカースを抱き上げて連れて行く。

「よし、次が最終ですね勇者様」

「よくがんばりました勇者様!」

「ゴールは目の前です」

 勇者は扉を開いた。

「待っていたぞ勇者よ」

 そこには恋焦がれてやまない魔王の姿があった。


「さあ、戦おう」

 勇者が剣を構える。

 少しぐらい話をしても良いのに、と魔王は思った。

 勇者が倒されればまた勇者達は城の外に転送されるのだから。

 それが不満で、でも自分から話したい等と言えなくて。

「ふ、大した自信だなだな、勇者よ。我を倒せると思っているのか!。ふははははは」

 と言ってみて、魔王は何で自分はこんな事を言っているんだろうなと思った。が、

「早く戦おう」

 勇者が自信たっぷりに魔王に向けて言う。

 魔王は少しむっとする。

 自分はこの前のように弱い魔王ではないのだ。

 違いを見せてやる。

「ふ、余裕だな、行くぞ!」

 魔王は躍り出る。

 しかし、次の瞬間魔王は倒されていたのだった。


「ふえ?」

 地面が自分にぶつかって来た。

 魔王は何が起こったのか分からない。

 手で防御する前に地面とぶつかった。

 大きな音が頭の中に響く。

「痛い……」

 涙目になりながら起き上がり、額をさする。

 そんな魔王に影がさす。勇者だ。

「俺の勝ちだな?」

 こんな何だかよく分からないまま倒されたのであっては、魔王も納得がいかない。

「後二回、我は最終形態が……」

「いいぞ、二回戦っても」

「余裕だな、勇者よ。我の力はこんなものではない!」

 しかし、次の二回も倒されて、魔王は床とキスする羽目になる。

「ううう、何故だ。何故我がこんな……」

 一応魔王である。それも歴代で特に力の強い魔王なのだ。

 しかも勇者は突然強くなっているし。

 そんな、嘆く魔王を勇者は見下ろして、

「魔王、最終形態なんてないじゃないか」

「ギクッ」 

「ほう、嘘をついたのか?」

「い、いや、最終形態をする前に倒されたからであって」

「じゃあ、最終形態になってみろ」

「……」

「……」

「……ごめんなさい、我は嘘をつきました」

「お仕置きだな」

 お仕置きと言う言葉に魔王は、恐る恐る見上げる。

 勇者の顔は、非常に楽しそうだった。

「あんまり、酷い事はしないでほしいなと我は思うわけで」

「心外だな。俺がいつ魔王に酷い事をした?。可愛がっていただけじゃないか」

 認識が違う。少なくとも魔王にはあれはきつかった。

 話を逸らさなければ。

 出きるだけ時間を稼がなければと魔王は必死考えて言葉を紡ぐ。

「そ、そういえば、何故に勇者はそれほどまで強くなったのだ?」

「ああ、それはお前と交わったからだ」

「……」

「……」

「くわしく」

「魔王と交わってそれまでの力に上乗せされた魔力がある。容量だけは俺は大きいらしくて、現在は魔王よりも上だな」

「つまりは、我は、我の力に負けたと」

「そういう事になるな」

「ずるい!」

「勝ちは勝ちだ。魔王は俺のものだ!」

「いや、それはどう考えても……」

 必死に抵抗する魔王。

 だってこんな負け方は納得がいかない。けれど、

「嫌なのか」

 魔王と同じ目の高さに勇者は跪いて合わせて、じっと魔王の瞳を見つめる。

 そして繰り返す。

「俺のこと嫌いなのか?」

「そ、そういうわけでは……」

 顔を背け視線をはずす魔王。

 その顔を勇者は両手で掴み、囁いた。

「愛してる」

 魔王は逃げ出そうとして、失敗し、勇者に抱きしめられる。

「愛してる」

 再び囁かれるその言葉に、魔王はもう駄目だと思う。

 これ以上意地を張っていられない。

 だって魔王は勇者の事が好きだから。

「……わかった」

「魔王?」

「その、我も愛しているから、その、勇者の勝利で良い」

 その言葉に、勇者は一際強く魔王を抱きしめたのだった。


 そして愛を確かめ合った、 次の朝。

 もう一度襲われたルーズカースはぶつぶつと愚痴を零しながら、呪いの首飾りを取り出した。

 強化したこの首飾りで、レンヤを一泡吹かせてやろうというわけである。

 その首飾りを暗く笑いながら見つめていると、レンヤに取り上げられた。

「返せ、返すのだ!」

「……てっきり壊れたと思っていたのにな」

「ふ、この首飾りはさらにすごいぞ。物理的な衝撃をも克服した我の最高傑作だ」

「そうか」

 レンヤがその首飾りをルーズカースの首にかけた。

 何が起こったのかルーズカースは初め分からず無言となる。

 そして首飾りとレンヤを見比べて、ルーズカースが怒る。

「何故このようなものを!」

「ああ、ルーズカースが変な事を考えないように。どうせ、俺に付けようと思っていたんだろう?」

「そ、それは……」

 図星に口ごもるルーズカース。

 そんなルーズカースにレンヤはキスをする。

「これからずっと、一生俺が守るからいいだろう?」

「それ、は」

 守られるから弱くていいというわけではなくて。

 でも、そう言われるのは嫌じゃなくて。

 何よりずっとレンヤが傍にいてくれるわけで。

 ルーズカースは頭の中がぐるぐるする。

 そんな油断が命取りになった。

 気が付くとベッドに放り出されて……その後、ルーズカースがどうなったかはご想像にお任せする。

 魔王の受難は続く。





 その後。

 ルーズカースとレンヤはなんだかんだで公認の恋人同士となる。

 そしてルーズカースのあの首飾りは紆余曲折を経て外されたが、それは別の話である。

 現在魔王城にレンヤも住んでいた。

 先代のアクセル同様、ルーズカースの部屋を二人で使っている。

 また、人の王は息子、つまりクリストファのお願いーどうやったのかは知らないがーにより、魔族と人は停戦を結ぶ事となる。

「僕達のお城にも来てね☆、ルーズカース魔王様とレンヤ。そうしたらすっごく気持ち良いことしてあげるね☆」

「誰が行くか!」

 最後に添えられたその一文に、ルーズカースは鳥肌を立てていた。

 どうも、ルーズカースはクリストファの事が嫌いというより苦手なようだった。

 なかなか手強い人の王となりそうだ。

 そういえば、レンヤはルーズカースに聞いたことがある。

 本来持っていた予知能力を戻してほしいか、と。するとルーズカースは微笑んで、

「我はずっと予知能力があることを黙っていた。何故かというと、予知ができる事を話した未来はどれも幸せではなかったから。だから、無くていい。それに、もったいないではないか。レンヤといる未来を既に知ってしまうなんて」

 そんなルーズカースがあまりに可愛いので襲ってしまったレンヤではあるが。

 また、勇者の仲間達もこの城に残っていて、それぞれが四天王とそういう仲になっているらしい。

 そんなこんなで、大体が幸せの中にいると思いきや、

「もういやだ、もういやだ!」

「どうしたんだいルー君?」

 ルーズカースがエンドカースとアクセルの部屋に飛び込んでくる。

 ちなみにその時、エンドカースを襲おうかなとアクセルが思った時ではあったのだが。

 さすがにこの場面で襲うことはできない。

 いいこいいことルーズカースの頭を撫ぜるエンドカース。

 美しい兄弟がじゃれあうようなその様子は眼福といえそうだが、ここしばらくエンドカースの親ばかに拍車がかかっていた。

「うう、レンヤが襲ってくる。というかもたない。我の体が……」

「うんうん、ルー君」

 エンドカースに抱きつくルーズカース。

 ここしばらく、よくルーズカースはエンドカースの部屋に飛び込んでくる。

 理由はレンヤから逃げるためだが、毎回エンドカースを襲おうかなとアクセルが思う時に来る。

 そして、レンヤがルーズカースを探す声がする。

「ルー君はそこの衣装棚に隠れなさい」

「わかった」

 慌ててそこに入り込んでパタンと扉を閉める。

 少しして、エンドカースの部屋がコンコンと二回叩かれ、開かれる。

「失礼します、ルーズカースはいますか?」

 そこでアクセルはふと思いつく。

 エンドカースがふんと笑って、

「いるわけが……」

 と言いかけるも、

「そこの衣装棚にいるぞ」

 衣装棚からごとんと音がした。

 あっさりとばらしたアクセルを非難するかのようにエンドカースは見ている。

 レンヤが衣装棚を開けると、ルーズカースが丸まって見上げた。

 抵抗するその腕を引っ張って引きずり出すも、ルーズカースはレンヤから必死に逃げ出そうとする。

そんななんやかんやが色々あって。



 その後、魔王の父子が家出しようとしたといったことがあったりと騒動は尽きない。

 けれどなんだかんだで幸せな彼らの時間は続いて行くこととなる。


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