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世界の修復作業は死にたい僕に託された  作者: きくずれ
第一章

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第十八話「50%」

 砂藤さんは少し俯きながら、視線を床に落とすように言葉を続けた。


「上手く言えないんだけど、ビビッと感じるんだよね。この人は普通じゃないって」


「UIとかで見える感じではないの?」


「そうじゃない。感覚に近いかな」


 市松さんは砂藤さんと同じように腕を組み、天井を仰ぎ見て唸っている。


 その表情は、難解なパズルを解こうとしているかのようだった。


 僕はさらに深掘りしたくなった。けれど砂藤さんがこれ以上情報を落としてくれるとは思えなかったので代わりに市松さんに質問することにした。


「市松さんってこの世界がシミュレーションってことどれぐらい信じていますか?」


「そうだなぁ......」と言って、市松さんは部屋の角を見つめる。


「半分ぐらいかな。俺がシミュレーション仮説について研究してるって点もあるんだど」


 マグカップを取ってコーヒーを啜る。そして少しニヤリ、と笑った。


 そのあと真っ直ぐに僕を見据え、「でも一番大きいのは、花怜っていう“イレギュラー”がいることだな」と言った。


「なぁ、花怜」と彼は右に大人しく座っている砂藤さんへと振り向き返事を促す。


 砂藤さんは表情を変えないまま静かに頷いた。


「意外と少ないですね」


 僕の言葉に、市松さんはゆっくりと壁に視線を移す。誰もいない部屋の薄汚れた壁を、どこか遠い目で見つめている。


「俺からしたら半分は多いよ。50%で世界が作り物なんだぜ? 俺の生きる意味ってなんだよって思っちゃうよ」


 僕は口を閉ざした。それは重い言葉だった。腑に落ちてしまうとまた何か崩れてしまう気がした。


 何か言わないとそれはそれで認めてしまったようで嫌だった。


 ただ、沈黙を破ったのは市松さんだった。


「まっ、そう考えすぎても仕方ないわな。ちょうど昼時だし、飯食いに行かないか?」


 市松さんは椅子から勢いよく立ち上がると両手を腰に当てて元気そうに言った。


 僕は「そうだね」と言って釣られるように立ち上がる。


 沈んだ空気を振り払うように、意識的に少しだけ口角を上げた。


 しばらく二人を見つめていた砂藤さんは、渋々といった様子で立ち上がった。


 そして、小さく優しい微笑みを浮かべた。




 研究室を出て、大学内を歩く。


 市松さんはさすがに研究室の外で白衣は着ていなかった。


 ただ、コンピューター上でしか実験しないはずなのに白衣を来ている理由についてすごく気になった。もう少し時間が立ってから聞こう。


 真っ当な大学関係者が隣にいると流石に僕らの異物感は薄れるようで行きとは違って堂々と歩みを進めることができた。

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