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世界の修復作業は死にたい僕に託された  作者: きくずれ
第一章

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第十話「小さく割れたスマホの画面」

 先を歩く砂藤さんの後ろを歩幅を合わせながら歩く。いつもなら少し早歩きな砂藤さんが今日はなんだかゆっくりだった。


 館内を奥へ進むと、客層が変わった。洋服店が並ぶ通路には、カップルや一人客、大学生らしき友人グループの姿。家族連れはほとんど見かけない。


 家族連れはフードコートにいるのだろうか? 普段ショッピングモールにいかない僕にとってはとても新鮮だった。


 前を歩いていた砂藤さんが振り向き僕を見つめる。


「どうして離れてるの」


 すっかり周りを見ていて忘れていたが、僕は砂藤さんの少し後ろを歩いていたんだった。このカラフルな人の関係者ですよと周りに伝わるのはなんか嫌だ。


 だけど、先ほどの彼女はなんとも言えない表情と仕草でいつもならすんっと振り払うところを、感情を表に出して話していた。なんとなく、優しく言った方がいい気がした。


「ごめんごめん。考え事してた」


 そう言って僕は駆け寄る。普通の距離になり安心したのか、砂藤さんはまた無表情に戻っていた。

 実は砂藤さんは表情豊かなのではと思った。デフォルト顔が無表情で、感情が動くことが少ないだけであって感情が動かされた時はすぐに表情にでるのではないだろうか。


 今日の事からもそう考えれば急に表情が豊かになっていた理由もわかる。


 ほほぉ。なんだか嬉しいな。


 それだけでも、少しは心を開いてくれた証拠だと思いたい。焦らず、ゆっくりと距離を縮めよう。


 異性と関わりがなかった僕はこうやってすぐに高揚して突っ走ってしまうだろう。せっかくの居場所を台無しにはしたくない。


 世界を救うために僕に付き合っている砂藤さんからすれば、勝手に異性と認識して意識している僕はもうすでにアウトかもしれないけれど。



 すると突然。前から走ってきた男と僕が接触した。強い衝撃が肩に走る。


 スマホが手を離れ、宙を舞う。——ガンッ。鈍い音とともに床に転がった。


 男は相当急いでいたようで「さーせん!」とだけ言い残しそのまま走り去っていった。


 突然の出来事に僕は唖然(あぜん)とする。人にぶつかられたのは何年ぶりだろうか。


 そう思いながら僕はゆっくりとしゃがみ、落とした携帯を拾う。


 ヒビ入ってなかったらいいんだけど、そう思いながら確認した画面にはしっかりとハンマーで殴られたかのような立派なヒビが刻まれていた。


 嫌な予感は的中した。少しずつ腹が立ってくる。このスマホは数年前に買ったばかりだというのに。


 僕の親がヒビごときで買い替えてくれるわけがない。どうしてこうも運が悪いんだ。


 ただ、不幸中の幸いとでも言おうか。画面のヒビは中央ではなく、画面の左上のあまり見ないスペースにできていた。


 砂藤さんが心配そうに携帯を抱えたまま固まる僕を見つめている。


「大丈夫?」


「ああ......ちょっと、割れちゃって」


「ふーん。ジュース奢ってあげようか」


「いらない」


 ざわめいていた気持ちは時間と砂藤さんとの会話で少し落ち着いた。そうだ。こんなのは小さなことだ。そこまで不幸ぶる必要はない。そう自分に言い聞かせる。


 ただ、あいつの顔はしっかりと覚えておこう。


 画面にできたヒビを撫でながらそう思った。

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