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二十二 ゼロゲッサー


 通常この世界でのツールや武器には全て耐久値が設けられている。壊れてしまえばどうしようもないが、ミリでも耐久値が残っているならば回復は可能である。レアリティが上がればその分耐久値も高く、反面修繕の時間が長くなるのも仕様のひとつだ。


「ここに預けたら治せるの?」


「あぁ、コロネもかなり盾を使い込んだな?ギリギリだろそれ」


「そうなの……壊れたら終わりだと思ってたから良かった!これいつ終わる?」


「目安としてレアリティ×五〇分って所だな。ゲーム内通貨を積めば時短できるが、武器が使えなくてもやれる事もやらなくちゃいけない事も腐るほどあるし、無料で治せるならそれに越したことはないかな」


 そうこうコロネに教えていると、丁度本日の納品分を届けるためかオレンが駆けつけてきた。息を切らし、ボロボロのツルハシと石の斧を両手に、半泣きで誤解を撒き散らしやがった。


「これ……!今日のガチャ代だよ!頑張ってね!応援してるから!」


「え……?レイ…………?」


「ちがぁぁぁぁぁぁぁう!!そんな貢がれパチンカスクソ彼氏みたいな言い回しやめろ!!」


 木こりと石掘りに使用するツールの修繕費は無料、そして運ばれてきたこの石と木片をクラフトして星一の斧を作る。時間を除けば実質費用は一〇円くらい。ゲーム内通貨の単位忘れた。星がサイコロの三の目みたいに並んだ記号が付けられており、記憶が正しければ読み方はステラだったかな。


「こいつは昨日ブルーギャリアで借金してひん剥かれていた所を助けてやったオレンだ。そのお礼返しにこうして斧の材料を納品してもらってんだよ」


「オレンだよ!よろしくねコロネちゃん!」

「よ、よろしくお願いします〜!」


「端数は切り捨てて二万借したとして……二〇〇〇本で解放だな」


「あいぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!?」


「冗談だ。一〇〇万くらい貯まれば大勝負に出ても良いが……気が向いたらそのうち解放する。各自コツコツ集めるしかない。コロネは今日の予定はどんな感じ?」


「盾がないなら特にはないかな?泉の女神に斧入れるならやってこようか?確か全部違うって答えとけばいいんだよね」


「助かる。オレンも手伝ってくれ。ガチャの列に並ぶにも二馬力の方が効率が良い。夜にクソ女神が終末の鉄槌持ってきたらしばいても良いぞ!」


 人が少なかったらやってみると返事を貰い、コロネとオレンにポーチ上限のやや下、それぞれ四〇本の石斧(ガチャチケ)を持ってもらった。そして俺はと言うと、メインの記憶も持つチョコと荒々しい金策である。別に強奪とかではない。奪い合いにはなるかもしれないが。


「うぃーすチョコ〜」

「遅かったわね。結構募集出てるわよ」


 これより行うのは、募集しているフルパーティー金策ダンジョンへの野良参加である。それぞれ難易度別に二〇、四〇、六〇の三つのレベルシンクがかかっており、運にもよるが報酬はクランハウスに設置できる家具などが多い。人気のアイテムも多いため、バザーで売り捌くにも落札が早いし、そこそこ高く売れるのだ。


「マッチングした。お願いしますー」

「お願いしますー」


『レイさん、チョコさんお願いしますー。スグにパーティーマッチしても大丈夫ですか?』


「おkです」


 通話のように会話をした後、眼前にはマッチングしていますの文字が。『眠る宝石の在処』、このクエストはパーティー対抗型のものであり、八人のパーティー四つが競い合う。とは言え、第一フェーズとしては早い者勝ち。次に繋がるダンジョンへの鍵を誰よりも早くに見つけ出すのである。


 全ての参加プレイヤーへと、最初に鍵が設置された一枚の風景画が添付され、そのヒントを頼りに場所を特定するアストラ版ジオゲッサー。開始一分はその風景画しかヒントがなく、一分後に広範囲だが円形に場所を絞ってくれる。後は一分おきにその半径が小さくなり、最後にはピンポイントに鍵の座標へとピンが刺されるのだ。


「武器は何にした?俺は小杖、狙撃銃(スナ)、片手」


「がっつり暗殺兼不意打ち対応ビルドね。私はスナの枠が弓なだけで同じ感じ」


 そう、このコンテンツは奪い合いである。知らないところからPKされる事も珍しくない。何せ殺してしまえばデスポーンの五分間、捜索員を一人減らせるのだから。一分でヒントが大きくなる仕様上、かなり痛手である。とは言え、乱戦になる前に鍵を見つけてトンズラが理想だ。


『眠る宝石の在処を開始します』


「うわっ……どこだったかしら…………ここっ……見覚えあるんだけど〜!」


「…………………………」


 全てのコンテンツにおいて最強を自負しているが、このコンテンツには俺の格上が極稀に存在する。アストラ地域特定ガチ勢、あいつらは写真を見て七秒とかで鍵を取りに来る。まじで変態すぎる。日々良い景色で自キャラを撮影するSS勢なんかに多かったりするとかなんとか。


「…………あそこか。聞こえますか?特定したけど敵レベルが高いから全員で行きたいです〜 座標送るのでお願いしまーす」

「えぇ!?あんたマジ!?」


『はっや!?』

『マジならやばいっすよレイさん!』

『どうせヒントもないし行くよ』

『みんなイレイザー忘れないでね〜』


 「「イレイザー、転送」」


 チョコと完全にタイミングが被ったが必然だ。何故ならばお互いに最速でイレイザーと転送を選択したから。流石にメインキャラを持っているだけあって、操作に滞りがない。ちなみにプレイヤーはレベルシンク二〇、周囲のエネミーは通常と変わらないのでお気を付けて。


「ほんとにあった!!ナイスレイさん!!」


「いえいえ〜 速攻でダンジョン飛んでくださいリーダー」


「あいよ!『開いた宝物庫』突入!!」


 所詮野良参加なので戦闘前ダンジョン突入余裕でした。この後は特筆すべきことも無い殲滅作業の後、それぞれに独立したクリア報酬を貰ってパーティー解散という流れだ。ひたすらこれを繰り返し、報酬アイテムである家具や装飾品、衣服をバザーで転売である。


「それにしてもあんた特定めちゃくちゃ早いわね?」


「いや……新規フィールドなんかに鍵が設定されるとお荷物だ。それに、万が一にも〝霊峰の御剣〟幹部の一人が対戦相手に選ばれたら詰む」


「どういうこと?得意ってこと?」


「得意なんてもんじゃない……!あいつは!あいつはストーカースキルに全振りしてやがる!!いつどこにいようと、少しでも風景写真を流出してしまえば二秒で特定してくる変態だ……!あいつさえ来なければ勝機はある!!」


『よろしくお願いします〜始めますね』


 第二ラウンド開始。が、速攻で鍵が奪われた。他パーティーがダンジョンに突入すれば俺達は解散か、再びマッチングかを選択する流れだ。つまりは、開始八秒で鍵を奪われたことを意味する。


「はぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」


「はっや……!マッチングエラーじゃないの!?こんなの……!」


 悲報、多分マリカーンが潜っている模様。こうなるともう手が付けられない。奴がダンジョンに入っている間に、すぐ様に別の人とマッチングしてテーブルを分ける他に逃げる道はない。


「リーダぁぁぁぁぁぁ!!速攻でマッチング頼む!!特定全一がマッチングに潜ってやがる!!急げ!!早く!!」

『は、はい……?わ、分かりました』


 最悪という他にない。あいつがマッチングに潜っているだけで効率がガタ落ちだ。だが最初から負けを受け入れるのも癪だ。悩む時間すら惜しいので、写真を見た瞬間に心当たりにある場所に速攻飛んでやる。


「マリカらしき奴に邪魔されながらもなんとか四回目クリア……時間的に次がラストだな。クッソ……!予定の半分もクリア出来ていない……!」


「なんかあんた、特定がどんどん早くなってない?最初みたいに連絡くれた方が皆動きやすいと思うんだけど……?」


「一秒の差が負けに繋がる……あいつとジオゲッサーをするとはそういう世界なんだ。まじで秒速ドンピシャゼロゲッサー連発は人間業じゃねえ」


 〝霊峰の御剣〟でゼロとして活動していた時、身内特有の奴の二つ名は『歩くエンゲージリング』。風景画だけで最寄りのポータルへと飛んで速攻で合流してくる。しかもゼロに狂信しているせいか、その名前も掛け合わさってそのまんま『ゼロゲッサー』とかも呼ばれていた。まじで気持ち悪い。


(奴が〝霊峰の御剣〟の幹部にまで上り詰めたのもあのプレイヤースキルを買われたからだ……!まさか今もゼロのためにヒラヒラした服とか人形とか……家具とか揃えてんのか!?鳥肌が……)


『マッチング完了、開始します』


「っ――」


 考えている暇なんて一秒もない。イレイザーすら展開の時間が惜しいので、見た瞬間に俺はいくつかの候補エリアの一つへと飛んだ。ビンゴ、だが同じくして僅か前方には揺れる銀色のフリル髪。ゼロコンマ数秒で転送に負けた。


「待ちやがれ!!荒らしがよ!!」


「あらぁ……?あらあらあらあら!!あなた様はぁぁぁぁぁぁ!!」


「へ?」


 突如として変態マリカが方向転換して飛び付いてきた。両手を広げ、抱きつこうと飛翔する姿は獲物を捕縛するカマキリを彷彿させる。ゼロに憑依していた頃はこうしてよく飛び付いてきていたのだ。トラウマである。


「そのまま死に晒せ!!」


「そんな!!そんなつれないことを言わないでくださいな!!あぁ……!!ゼロ様!!お会いしとうございましたぁぁぁぁぁぁ!!」


 俺の片手剣の攻撃へと同じく片手をあてがい、火花を散らしながら一瞬の鍔迫り合いへ。すぐ様に着地したマリカを睨む。とりあえずレイがゼロだと確信しているようなので精神攻撃からだ。


「俺はゼロじゃねえ!!お前だろ……!!ジオゲッサーに潜っては速攻で鍵を取りやがって……!」


「え…………?ゼロ様じゃ…………ないんですの……………………?そんなはずは…………いやだってあの動きは絶対にゼロ様じゃないと再現不可能というかそもそもゼロ様以外の猿があの崇高なお方のプレイスタイルを真似すること自体おこがましいのにじゃあこの猿は(わたくし)の目を汚しただけでなく心まで土足で踏み荒らしあまつさえゼロ様の神話にまでさえ泥を塗った不届き者……?」


 早口過ぎて何を言っているのか分からない。だが分かるのは明らかに目の色が変わった。あれだ。カオリとはまた違った殺意を感じる。目の光彩が消えた状態で、もみあげ数束を口の端に貼り付けたまま笑うのやめてくれないか。怖い。


「残念だったな。めちゃくちゃ崇拝してるところ悪いがここにゼロはいね――」


「猿がその名を口にするなぁぁぁぁぁぁ!!きえぇぇぇぇぇぇぇぇぇええ!!」


 情緒不安定なマリカが鬼の形相で突っ込んでくる。パーティーメンバーへと座標を知らせ、俺は迎撃のために片手剣を握りしめた。特定能力だけで幹部にまで上り詰められるほど、あそこのクランは甘くない。実力と尖ったものがあって初めてその座に選ばれるのだ。

『技量』


プレイヤーステータスの一つ。銃や法撃の命中率に補正を与え、狙った場所への攻撃精度が上がる。また、ウェポンスキル等の硬直を僅かに短くする。


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