二十一 お得意先
〝天啓の導〟を脱退してきたらしいチョコもパーティーに加わり、例のうまうま虚無リングスポットで雑談しながら殲滅をしていた。今後の方針についてである。
「本気でクランを建てるの?」
「あぁ、当然チョココロネがメンバーとして加わってくれるならって前置きがつくけどな。だがどう転んでも前途多難だ」
「めちゃくちゃ金かかるものね。本垢の方なら多少は貯えがあるけど、引っ張ってくる?」
チョコの提案に乗るならば、そもそもゼロから貢いで貰えば即時解決である。しかしそれでは面白くない。全てのコンテンツを遊び尽くしてこその最強である。主に金策には三つの方法が有名だ。
「せっかくのサブだし自力で行くか。手っ取り早いのは課金して手に入れた物をバザーに流す……だが、多分チョコはきついよな?」
「私の今日のお昼ご飯聞く?もやしの味噌炒め」
「ごめん、俺が悪かった。なしの方向で」
「ご飯はちゃんと食べよ?チョコ……」
なんだが昔の俺を見ているようで辛い。アストラにハマりすぎて栄養失調になり、入院先にもコアレスを持ち込んでクッソキレられたのは秘密である。しかしそうなると残るは二つだ。
「やっぱりある程度レベリングしてからレア泥堀がベターじゃない?」
「せっかく取った武器を売っちゃうの?」
「それだけやっぱり需要もあるし、堅実だと思うけど……」
「もう一つアテがあるぞ」
「『ブルーギャリア』をアテとは言わせないわよ」
何故か何も言ってないのに心を読まれたのだが。『ブルーギャリア』とは街の名前であり、ユーザー登録を参照して二〇歳を超えたプレイヤーのみが立ち入ることを許されるエリアだ。端的に言うと賭博場である。
「まじかよ。じゃあ終わったじゃん……金策はぼちぼちやるにしても、クランを建てるならもう一人仲間がいるなぁ」
「レイってゼロさんと知り合いだよね?ゼロさんに入ってもらったりとか?」
「無理よ……〝霊峰の御剣〟が刹那の白姫を手放すわけないもの」
(ひゃぁぁぁぁぁぁぁぁ二つ名恥ずかしいぃぃぃぃぃぃぃぃぃ)
「刹那の白姫……?」
「見たでしょ!?ゼロさんのことよ!寡黙で凍てつくような佇まいと、パリィやフレーム回避という一瞬を掌握したあの動き!!使いにくい数々のデンジャースキルを使いこなす最強のプレイヤー……一時期みんながあの人の曲刀に惚れて、闘技場のランキングが一気に崩れたのも伝説ね」
先に言っておくが周りが勝手にそう呼んでいるだけだ。決して自らそんな痛い事を布教していない。闘技場ランキングに関してはあれだ。みんなちゃんと慣れた武器使おうね。無理に曲刀使うとボコボコにされるから。
「そ、そんなことより俺は金策に行ってくるよ。チョココロネはまだレベリングするか?」
「私はちょっとご飯にしようかな?チョコも行く?」
「いや……私は今月もピンチだから…………そうね、少し整理したら中古の家でも見てこようかな?」
ということでそれぞれ自由行動となり、俺はセイファートに跨って『ブルーギャリア』へ向かった。結構遠いがセイファートなら日が暮れる頃には到着できるだろう。夜でもアホみたいに光り輝くカジノフィールドへ。
着いた矢先に街の前で衣服と防具なしのほぼ半裸の女が転がっていて唖然である。情けかは知らないが、汚い布切れが投げつけられるように羽織られており、押し殺すように咽び泣く音が聞こえる。アストラの世界においてそういった犯罪はまずないのだが、絵面の事件性が高すぎて立ち止まってしまった。
(えぇ……?全ロスしたのか?いやリスポーン地点ならFXで全部溶かしたような顔はよく見るが……こんな辺鄙な所で伸びてるってことはあれだな)
「なんでぇ……なんであそこでヒフミが出るのぉ…………うぅぅぅ…………」
あっ、察し。ギャンブルの種類にもよるが、中には賭け金の二倍を支払わないとダメなパターンとかもある。では金がないとどうなるか、その答えがこいつである。結論から言うと関わるとめんどくさいのでスルー択だ。
「…………」
「あっ……!そこのお兄様ぁぁぁぁぁぁ!!」
「死神の悪戯ぁぁぁぁぁぁ!!」
「死神の悪戯ぁぁぁぁ!!待ってよぉぉぉぉぉ!!」
「なんでお前も持ってんだよふざけんな!!こっち来んな疫病神!!」
ステータス的に普通に追いつかれました。デンジャースキルに対して返しのレスポンスからも、そこそこのプレイヤーだと分かる。レベルは四十六か。
「お金を……かしてくださいぃ…………このままじゃ私武器まで取られちゃうぅぅ……あと食べ物ください」
「えぇい!図々しい!敗者は潔く散れぇぇい!」
「そ、そ、そそそれなら……お金と武器は落ちないけどPKして防具を剥ぎ取るしか……ごめんなさいぃぃぃぃぃ!!もうそれしか残ってないんで――」
「俺防具つけてない」
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
情緒が不安定すぎる。膝まづいてこの世の終わりみたいな鳴き声を上げたかと思えば、またナメクジのように地面に溶けた。哀愁が本当にやばい。ちょっとだけ助け舟を出してやらなくもないと思わせるほどに。
「……軍資金は少ないが、増やせた分をかしてやるよ。とりあえずそのみっともない格好を倉庫に行ってどうにかしてこい」
「ほんとにぃぃ!?ありがとぉぉぉぉ!!レイさん良い人!!」
「増やせるとは限らないけどな」
プレイヤーネーム『オレン』。みかんのような髪色はボーイッシュな短さで切りそろえられており、第一印象を加速させるアホ毛が特徴的だった。失礼かもしれないが多分アホの子だと思う。
街に入り着替えた装いは闘剣士といったテーマだろうか。腹筋と腕を露出するチューブトップに、左腕は肩まで覆う鎧、反対はアシンメトリーを感じさせる軽装。肩だけノースリーブなロンググローブ的なやつ。
「それなりに良いもの持ってんな。その足装備と左肩のやつ、五年前の大会の上位賞じゃね?」
「詳しいねお兄さん!?もしかして古参勢!?二十四レベだから始めたての人かと思ったよ」
白き装甲のそれは五年前の星天武人祭というイベントの上位報酬だ。レベルシンクあり、武器種指定あり、ルーキーを除くほぼ全プレイヤーが統一されたステータスでPvPを行うイベントだった。
「確か五年前のやつは……片手、短剣、大剣だったか?懐かしいな」
「たまたま私のメインウェポンが重なってたから参加したんだ。慣れてるから運良く滑り込み上位入り〜って感じ。鬼みたいな強い人に最後はボッコボコにされたけど……」
苦笑いを浮かべるオレン。表示している防具である甲冑から見ても、近接特化のアタッカーといったビルドだろう。防具は俊敏性に影響があるため、オレンのように部位事に外し、速さを落とさない工夫をするプレイヤーも珍しくは無い。
「着替えが終わったなら増やしに行くか。人が集まっていたのはなんの競技か分かるか?」
「ん〜?どこも多かったけど、やっぱ人気はあれだね!『デス&ライフ』!」
「…あのクソ運ゲーか。俺出禁なんだよな……」
「出禁?」
「いやなんでもないこっちの話だ」
『デス&ライフ』
闘技者として参加する場合は専用のギャンブルフィールドへと転送され、初めに賭け金の選択を行う。その後は二枚の扉を選び進むだけ。片方の扉にはクソ弱いエネミーがいるので、倒せば元金が二倍になり更に扉を潜るか降りるかを選択可能だ。
では反対の扉はどうなるか。過去の環境で言えばレベル八〇のレギュレーション違反のエネミーが出てきていた。当時の上限六〇では攻撃は固定ダメージ以外はカットされてしまい、ほぼ倒せないという事だ。負ければ最初の賭け金はもちろん、積み上げた金も全てむしり取られる。言わば形を変えたハイアンドローだ。
「一時期はずっっっっっと調整中で封鎖されてたけど、数年前から復帰したよね〜」
「ソ、ソウデスネ。でもあれは流石に運ゲーが過ぎるから別のにしよう。そうだな……オレンは後どれくらい負け額の入金を言い渡されてるんだ?」
「あと二万と少し……うぅぅぅ…………あそこでヒフミなんか出ていなければこんなことにはぁ…………」
「これに懲りたらギャンブルなんか足を洗うんだな」
二万ならばミニゲームの小遣い稼ぎで充分だろう。ギャンブルで大勝するには意表を突いた一撃勝ち以外にはありえない。サクッと勝ってトンズラである。ゼロ時代の良いATMだった。だが今のままでは流石に軍資金が少なすぎるのも事実。
「ガンリフティングをやるの?むずくない?」
「あぁ、時間効率は悪いがこれなら確実に収支をプラスにできるはずだ」
ルールは至って簡単。用意されたリロードの必要がない無限弾数の拳銃を使って、落ちてきた一つのボールを撃ち続けるだけだ。地面に着いたら終わり。リフティング数によるリザルトに応じてゲーム内通貨が貰えるぞ。
「報酬は跳弾数×一〇〇だっけ……?それまじでムズいよ」
「参加費が一〇〇〇ってことは十回でプラマイゼロだろ?ATMじゃん」
「そりゃステータスの技量が反映されるならね〜」
相当優秀な物理エンジンを搭載しているため、まじで当てどころが悪いと地面に直行する。狙いとしてはボールの下半分だ。という事で、サクッと弾丸によるリフティングをやってみた。
「六十七か……久しぶりだと感覚が狂ってるぞ!?ふざけんなよ!!もう一回だ!」
「………………」
「やったぞ!!オレン!!八〇超えた!!次でお前の負け分は稼げる!!」
「え……?技量アシストついてないよね?それ……?え………………?」
「うぉぉぉぉぉぉぉ!!自己ベスト更新ならず……!!え?オレン!!ガンリフって一日に三回しかできないようになったのか!?本日の回数分が終了しましたって出てきたんだけど!!?」
昔は無制限だったのだが、どうやら一日三回までらしい。だが周りをよく見ると、様々なミニゲームのエリアに注視するとそれぞれに挑戦回数が設けられていた。昔にはなかった仕様である。解せぬ。
「やっばぁ……」
「とりあえずこれ使って支払えよ。な?」
「うぅ〜ん……助けてとは言ったけどなんだかなぁ……」
「困った時はお互い様だろ?いいから使えって」
「レイさん……!いや!!レイ様!!ありがとう!!私この恩は絶対に忘れない!!ブルーギャリア、借入金……返済!!」
よし、従順な労働力ゲットである。ひとまずはこいつを肉体労働役としてひたすら石を掘らせよう。ツルハシの修繕も必要になるので、修繕している間は木こりだ。そして星一の石斧を作ったらひたすら女神ガチャである。金の斧なら一万、銀なら七〇〇〇、ゲームのショップ売却の方が高いのでこれを繰り返して軍資金を増やす一択である。
「払ったよな?」
「え?うん」
「それ借してるだけだから。ちゃんと体で返してもらうからな」
「えぇぇぇぇぇぇぇ!?ナニをされるの!?そりゃ……!返すつもりだけどぉ……!」
「炭鉱夫と木こり、明日からな?普段何時くらいにログインしてんの?ちなみに逃げたら地の果てまで追いかけ回す」
トホホって声が聞こえそうな顔のオレンと相互にフレンドを結び、その日はログアウトした。みっちりと活動時間を聞き出し、毎日決まった場所で石斧の納品を約束付けた上で。
『ユニーククエスト・アイテム』
通常とは異なるアクセス、もしくは特殊な条件を満たした際に発生、入手に繋がる。これらに派生した先には、未だ世界では未知とされるオーパーツや秘境に巡り会えるかもしれない。
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