二〇 すれ違いエンカウント
周囲薙ぎ払いウェポンスキル、エクスキューションをしゃがんで避けた後、そのまま足を刈り取るように蹴りを入れて転倒させた。プレミしたのでとりあえず続けて月輪で顔面を砕く。
「月輪」
「っ、貰っ――」
強攻撃だな。高速回転してて見えないけど。月輪キャンセルからの、落下しながら突き刺すような通常攻撃一択である。懐に入ってしまえば長剣など当たるはずがない。衣服に掠らせながら強攻撃の懐へと潜り、みぞおちに鞘の先端を突き刺すように叩き落とす。
「がはっ!……ぐえ!!」
「起きろ」
顎を蹴り飛ばしたら起きてくれたので、切れたコンバットチェインの貯め直しである。六〇は結構難しいのだ。コンボ数と同様に数字が積もれば積もるほどに、加算受付時間が短くなっていくためだ。
「デンジャースキル……『瞬きの双閃』」
刃物同士を擦り合わせたようなサウンドエフェクトと共に、二丁のクソデカ出刃包丁を持った鬼を一瞬ほど背負った。俺あのシャキンシャキンって擦れる音苦手なんだよね。黒板の引っ掻く音とかは平気なんだけど。
「はぁ!?僕なんかの攻撃は当たらないとでも言いたいのかぁ!!舐めるのもいい加減にしろよ!!ゼロぉぉぉぉぉ!!」
デンジャースキル『瞬きの双閃』。これは攻撃が二重ヒットになる。そして俺の被弾時も二重ヒットになる。実にシンプルで分かりやすいスキルである。そして二重ヒットにはそれぞれが独立した会心判定を持っており、コンバットチェインやコンボ数も影響外では無い。一発で二発加算だ。
「なんで……!なんで当たらなっ…ぐはっ!当たってるだろ……!うぁ!チートか……!がっ!」
(当たってねえよ……全部服だよ……それ……)
想像以上にこいつの攻撃が下手くそすぎてジャスト回避を使う意味が無い。無敵時間もなにもない、ただのプレイヤースキルによる回避で見切れてしまう。パリィくらいは狙わせてもらうが、こいつは対人戦の経験がほとんどないのだろうか。
「なんで……!うぁっ!プレイ時間だって……っ!ぐっ!二〇〇〇を……ぐあ!!超えているのにぃぃ!!」
「五桁から言え。聞いてるこっちが恥ずかしくなる」
「ごけ――」
やけくそのエクスキューションへと、跳躍競技の高飛びのようにしなやかに衣服を掠らせた。傍から見れば回避スキルのように見えたかもしれないが、ただの跳躍である。そのまま鞘の先端を頭頂部へと叩きつけながら着地し、飛び回し蹴りに派生して勢いよく髪の毛を掴む。寝る事は許さない。コンボが切れるだろ。
最後は顔面への膝蹴りからみぞおちへと前蹴りを叩き込み、すかさずシールドバッシュとバックステップを併用して溜めに必要な距離を作らせてもらう。
「ぐぁぁぁ!!」
「固有ウェポンスキル……」
月影竜ゲリュンヒルデのレア泥武器、『秋月』はアストラの定める星天級であり、この七の階級からは全ての武器種に固有のウェポンスキルが設定されている。まじでコンバットチェイン六〇は要求量があたおか。個人での可能コンボ数は六十七と言われているのに、ロマン砲以外の何物でもない。
「【絶刀終月】――」
俺はムーブアシストにされるがまま、左足を派手に地面へと滑らせながら三日月の擦り跡を刻み込んだ。やりたくてやってる訳じゃない。厨二臭いけど決して俺がやりたくてやってるわけじゃない。
そうしてこの後は抜刀モーションに入ったまま三秒ほど身動きが一切取れなくなる。三秒もだ。上位陣に使えばフルボッコにされて怯むため使い所がない。だがロマン砲と言った。発動してしまえばその威力と性能はぶっ壊れだ。
「――え……」
使用者の俺でさえも見えない程の居合切りが発生し、気が付けば静かに納刀するムーブアシストに移行する。そして同時に強制的に体力が一になり、その体力の消費量に応じて威力が向上する固有ウェポンスキルだ。敵が離れていようがリーチという概念は無い。斬撃そのものを狙った座標に打ち込む。
(喉を狙ったら『瞬きの双閃』がダブル会心で草。オーバーキルだわこれ)
抜刀後からヒット判定まで、なんと驚異の一フレーム以下。しかも抜刀タイミングはこちらが選べるため、コロネの持つ風龍の障壁など、オートガードでもなければまず回避やパリィは不可能。だが考えてもみてほしい。三秒も棒立ちだよ?撃たせてくれるわけがないんだよ、こんなの。
「す、凄い……っ!あ、あの!!ゼロさん!!」
「…………」
駆け寄るコロネの手には羅針盤が。さっさと受け取ってズラからないとまずい。体力一、しかも先に仕留めた手下共が来る可能性だってある。それよりも怖いのはかつてのアストラプレイヤー達だ。
「レイとは……その、どういう関係なんですか?も、もしかして……」
「違う。これは預かっておくから、必要になればレイに渡しておく。じゃあ」
ゼロ=俺ってバレたのかと思ったが、何でしょうそのちょっと安心した顔は。二人ともまるで勘づいてないし、もしかしたらコロネやチョコは純粋なのかもしれない。そしてログアウト一択である。多分鬼のように着信が来てる。メッセージを開くのも怖い。
「あの!とてもかっこよかったです!!ありがとうございました!!」
「ゼロさん!待って!!」
「……?」
チョコが。
「あの……!私それにまつわるユニーククエストをコロネとレイの三人でクリアしたいんです!!良かったら……ゼロさんも一緒にしませんか?憧れの人と……未知の最前線を歩いてみたいです……〝天啓の導〟なんか嫌いなのはわかってます……!でも!」
「……多分もう来ないよ。アストラには」
ログアウトしてやった。勝ち申した。〝天啓の導〟もゼロに羅針盤が渡ったと知れば迂闊に手を出せないはずだ。虎の威を借る狐戦法である。すぐにコロネから電話が来たのでとりあえず話をしますか。
「しもしも〜?」
『レイ!ゼロさんと知り合いだったの!?』
「まぁな〜 やっぱ未知の最前線のアイテムは、こうして犯罪に近いことに巻き込まれたりもするし、ついでに預かっといてくれって頼んどいた!」
『あの人が持ってくれてたら安心だよ!あのね!?めちゃくちゃ強かったの!!全部の攻撃が見えてるって言うのかな?当たってるようにしか見えないのに全部避けてて……!ついに当たっちゃった!って思ったらパリング入れてるの!!私、レイとあの人の戦いが見てみたい!!レイなら勝てる?あ、でもその前にレベリン――』
「落ち着け、興奮しすぎだ。とりあえず、終わったなら俺もそっちに戻るよ」
そう言って通話を切った。久しくゼロに憑依したが、やはり戻るのは億劫だと確信する。此度のチョココロネが巻き込まれたいざこざ、あんな日々をずっと送ってきたのだ。こちとらビジネスに興味はない。純粋にゲームを楽しみたいと思うのは傲慢なのだろうか。
「ログイン」
そのまま神殿前でコロネ達と合流しようとしたら、物凄い人集りができていた。どうやら手下共を屠った後、大騒ぎでお祭り状態になったようだ。群衆のセリフを聞いていれば容易に分かる。
「おいどけって!!ゼロがいるのか!?」
「いない!?もう帰ったの!?」
「どけ!彼女は霊峰の御剣の一員だ!!」
「道を開けろ!!」
(わーお……後数秒ログアウト遅かったらオワタ状態でしたねぇ…………)
おどけていると背後から。
「あ」
「え?」
悪魔のように笑ったカオリがいた。いや、マカロンか。両手に赤黒い片手剣をそれぞれに持ち、明らかに垂れ流しちゃいけない殺意が感じられる。レベル差的にも絶対にやっていいことじゃない。
「こんのゴミカスがぁぁぁぁぁぁぁぁぁあ!!」
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!誰か助けてぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」
「止まれ、マカロンと……レイだったか」
朗報、俺氏助かる。そして悲報、〝霊峰の御剣〟リーダーに睨まれる。黒髪ロングの超きつい風紀委員みたいな感じの女性アバターであり、通称クソリーダー。ちなみに私怨一〇〇%である。
「フォルティスさん!フォルティスさんもゼロの噂を聞いてここに?」
「あぁ、あのアストラ中毒者め……通話にも出なければメッセージにも反応がない。それどころか音速でログアウトしおって……昔からのらりくらりと……」
「………………」
「待て。レイ、お前にも話がある」
「ボクハナイデス。じゃあ……」
「〝霊峰の御剣〟に入らな――」
「――入らないです!クラン建てるので入らないです!!」
ふざけるな。二度とお前のところになんか入ってやるか。クランの仕事ばっかり押し付けやがってクソババアが。俺がちょっ〜〜〜〜〜とレア泥狙いに狩りに行ってたらすぐにとっ捕まえに来やがる。好きにゲームくらいさせろボケが。
「レイ!!クラン建てる気になったの!?絶対入るよ!」
「私も〝天啓の導〟から抜けて……入れてもらいたいなぁ?なんて……」
「………………」
チョココロネの合流に迂闊な発言は控えようと思う今日この頃です。フォルティスババアとマカロンがコロネの首輪を凝視してるし、そんな目立つものはさっさと外してイモータルポーチに入れろとあれほど。
「風龍の障壁……コロネさんか。失礼でなければそれはどちらで?」
「おいフォルティス、それは有料質問だろ。一巨大派閥のリーダーがズルいことすんなよ」
「……優秀な番犬がいるな」
「コロネとチョコはそのうち建てるかもしれないけどやっぱり建てない可能性もあるようなうちのクランメンバーだ。毒牙にはかけさせない」
「ゼロと変わらないプレイヤースキルを持つお前とは、ぜひ友好的な関係を結びたいと思う。失礼したな」
そうしてその日の俺達は解散した。クランの設立には三つの条件を満たす必要がある。一つは設立者のレベルが三〇以上であること。二つ、創立メンバーが四人以上であること。そして、最後の関門が巨額のゲーム内通貨が必要になるハウジングコンテンツ。
土地の競りとクランハウス建築だ。
『感想』
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